環境総合研究所 自主調査研究 30年間の軌跡 松葉を生物指標とした市民参加の 大気中のダイオキシン調査監視活動(全体概要) Citizen participatory monitoring activity of Dioxins in the atmosphere by Pine Needle as biological indicator 概要、論考、論文、報告、記事、文献 主担当:池田こみち 掲載月日:2017年6月10日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
<全体概要> 1990年代半ばから一部の専門家や市民運動家の間で指摘されていたダイオキシン問題は、99年に所沢市における焼却炉周辺の環境汚染が明らかになったことにより一気に一般市民の関心事となりました。 その後、所沢周辺のダイオキシン汚染問題を契機に、日本で初めて「ダイオキシン類対策特別措置法」(平成11年7月12日制定、同年7月16日公布、平成12年1月15日施行)が議員立法として整備され、行政はようやく焼却炉の排ガス中ダイオキシン類濃度や環境中のダイオキシン類濃度の測定・監視・規制を行うようになったのです。 平成11年(1999年)当時、主として家庭から排出される一般廃棄物の焼却炉だけでも日本全体で1700を超える数があり、それに産業廃棄物焼却施設(約2500)を加えると4000以上の焼却施設があり、多くの市民や市民グループが身近な焼却炉からの影響を心配する状況となりました。法律ができて環境基準や規制基準が定められたものの、行政や事業者による測定の頻度や場所は必ずしも市民の要望に沿ったものではなく、行政や事業者による測定結果への疑問や不信感も募っていきました。 そうしたなか、自動車排ガスの監視活動などですでに市民による大気汚染測定が各地に普及していたこともあり、なんとか大気中の「ダイオキシン類」を市民参加で測定し環境を監視する活動を展開することはできないか、という相談が持ち込まれました。 そこで、環境総合研究所では、何をどう測定すれば科学的にも有効であり、かつ市民参加の環境監視活動として社会的な意義があるかについて検討を始めました。実際に全国展開をするためには、次の課題をクリアする必要がありました。 ■科学的な調査としての有効性 @長期平均値が得られる試料であること A測定分析の手法・手順が確立されていること B同じ試料で地域相互の比較が可能であること ■社会的な運動としての妥当性 @だれでもが参加できること Aコストが比較的廉価であること B分析機関の信頼性が確保されていること おりしも、所沢周辺を中心とする埼玉県内各地を対象地域として、環境庁が平成9年度に「ダイオキシン類の総合パイロット調査」のなかで、マツの針葉を生物指標としたダイオキシン類の調査を行っており、クロマツの針葉が有効であることが分かりました。 この調査は、クロマツの針葉を用いたダイオキシン類の測定ですでに多くの研究を重ねていた摂南大学の宮田秀明教授の指導のもとに行われてたことから、測定分析手法についても参考とすることができました。加えて、諸外国のダイオキシン類監視測定実態を調査し、クロマツをはじめとする針葉がダイオキシン類を測定する試料として既に使われており、有効であることが判明しました。 次ぎに、特定地域に生息するマツの針葉に含まれるダイオキシン類濃度と同地域の大気中のダイオキシン類濃度の相関関係について調査研究を行うこととなり、当時、環境庁が日本で初めて行った厚木基地周辺での長期モニタリングデータを活用し、同基地内及びその隣接エリアで採取した松葉中ダイオキシン類濃度の測定結果との比較を多面的に行い、大気と松葉のダイオキシン類濃度の相関を明らかにしました。幸い、クロマツは北海道から九州まで日本中に分布しており、地域相互の比較にも適していました。 コスト面からは、当時、国内分析機関でのダイオキシン類の測定分析費が極めて高く、市民参加型調査には負担が大きかったこともあり、ダイオキシン類の測定に関しては先進国であるアメリカ、ドイツ、カナダなどの民間測定機関の調査を行い、最終的にカナダ大使館の推薦もあってカナダの民間分析機関(Maxxam Analytics)に比較的低いコストで依頼することとなりました。 こうして全国各地の市民のニーズに応えるための準備を進め、1999年(平成11年)に生活協同組合の組合員活動として、関東エリア(東京・神奈川・千葉)、中国・九州エリアをターゲットに世界的にも希な規模で市民参加型のダイオキシン類測定監視活動がスタートしました。それから現在まで、毎年各地の市民による自主的な調査活動が続けられ、大きな成果を得ています。 執筆担当:池田こみち |