環境総合研究所 自主調査研究 30年間の軌跡 松葉を生物指標とした市民参加の 大気中のPAH,PBDE、重金属類調査監視 Citizen participatory monitoring activity of PAH, PBDE, Metals in the atmosphere by Pine Needle as biological indicator 概要、論考、論文、報告、記事、文献 主担当:池田こみち 掲載月日:2017年6月10日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
<概要> 1999年度から本格的にスタートした市民参加による松葉ダイオキシン類調査は、その後も毎年市民の自主的な参加により継続されています。しかし、ダイオキシン類対策特別措置法が施行されて以降は、焼却炉への規制が強化され、排ガス対策が多重に行われるようになったこともあり、大気はじめ水質、土壌など環境中のダイオキシン類濃度は行政のモニタリング結果を見る限り、次第に改善されていきました。 同時に、市民のダイオキシン問題への関心は急激に低下し、環境省や自治体の廃棄物担当課、焼却炉メーカーなどがダイオキシン問題はあたかも解決されたかのような一方的な情報発信を続けたこともあって、市民による環境監視活動も下火になっていきました。その背景には、世界に類を見ない、ダイオキシン類の高い環境基準値が設定されたため、モニタリング結果がいずれも基準値を大幅に下回ったことが上げられます。 しかし、焼却炉の煙突から排出される排ガスには、多様な廃棄物を高温焼却することにより、数千種類もの有害化学物質が非意図的に発生し環境中に排出されていることも次第に明らかになっていきました。それにもかかわらず、現行法の下で規制されモニタリングが義務づけられている項目は、わずか5項目(硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん、塩素・塩化水素とダイオキシン類)のまま強化される兆しはありません。 実際、廃プラスチックを可燃ごみとして扱うようになった東京23区の清掃工場では、分別方法が変わった平成20年(2008年)度以降、焼却炉における水銀トラブルが続出し、大きな問題となっています。 燃やすごみは次第に複雑化し、多くの自治体や組合では、プラスチック類(容器包装プラスチック類や製品プラごみ等)をエネルギー源として焼却するところが全国的にも増えていきました。また、ガス化溶融炉の普及で、燃焼温度は益々上昇し、金属類も気化してガス状物質や超微粒子として環境中に排出されている可能性が高いことが指摘されるようにもなりました。 このことは、ダイオキシン類だけをターゲットとして監視活動を継続するのではなく、マツの針葉を用いて、ダイオキシン類以外の有害化学物質を測定し、市民に対して焼却炉からの排ガスに含まれる有害 物質の実態を伝えることの重要性を示唆していました。臭いもなく、色もない排ガス中の有害物質をマツの針葉を用いて測定することにより「見える化」することが重要と考えました。 そこで、環境総合研究所では、まず、EUにおいて既に規制が行われている重金属類12項目について、マツの針葉を生物指標として測定分析を行う事としました。 また、それに引き続き、欧米で関心が高まり、測定や規制が行われている環境ホルモン物質であるPBDE(ポリ臭素化ビフェニルエーテル)と強力な発癌性物質であるPAH(多環芳香族炭化水素類)についても、順次、ターゲットとして分析を行っていくことととし、これまでダイオキシン類の調査を行ってきた全国各地の市民団体と連携し、2006年以降、パイロット調査を行い、市民の参加を呼びかけると共に、分析結果を学会や市民グループ主催の報告会で発表していきました。 ■測定対象とした重金属類(12項目) ・アンチモン(Sb) ・ヒ素(As) ・カドミウム(Cd) ・クロム(Cr) ・コバルト(Co) ・銅(Cu) ・鉛(Pb) ・マンガン(Mn) ・ニッケル(Ni) ・バナジウム(V) ・タリウム(Tl) ・水銀(Hg) ■その他の有害化学物質 ・PBDEs(Polybrominated diphenyl ether:ポリ臭素化ジフェニルエーテル): 臭素系難燃剤。繊維製品、プラスチック製品に多く用いられ、ダイオ キシン類と同様に臭素の数によって毒性が異なり、欧米では環境中、 母乳中に高濃度が検出され市民の関心が高い。 ・PAHs (英:polycyclic aromatic hydrocarbon 多環芳香族炭化水素類): 化石燃料の他、炭素を含む物質(木材、タバコ、脂肪、香など)の不 完全燃焼によっても生成する化合物で多数の種類がある。ベンゾ(a) ピレンなどいくつかの化合物には、強い発癌性、催奇形性のある変異 原であるとされており、欧米では一部規制されている 項目もある他、焼却炉での測定も行われている。 執筆担当:池田こみち |
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