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   環境総合研究所
自主調査研究、30年間の軌跡


湾岸戦争の環境アセスメント
Environmental Impact Assessment on Gulf War
概要、論考、論文、報告、記事、文献

執筆主担当:青山貞一 Teiichi Aoyama
掲載月日:2017年6月10日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁

 湾岸戦争(Gulf War)は、1990年8月2日のイラクによるクウェート侵攻をきっかけに、国際連合が多国籍軍(連合軍)の派遣を決定し、1991年1月17日にイラクを空爆して始まった戦争です。

 環境総合研究所(当時、東京都港区高輪)では、湾岸戦争が開始される前の段階で、もし湾岸戦争が世界有数の油井、油田を持つクウェート、イラクなど中東地域で行われれば、@湾岸戦争という戦争行為そのものによる環境汚染に加え、A原油流出によおるペルシャ湾の水質汚濁、B油井炎上による深刻な大気汚染など影響、被害をあらかじめ調査、予測、評価し、逐次公表することとしました。 

 具体的には、@戦争行為については、多国籍軍、イラク軍など戦争当事国によるジェット戦闘機、爆撃機、航空母艦、戦車の走行に伴う大気汚染、爆撃行為に伴う大気汚染などの環境負荷について推計するとともに、次にイラク軍に関連しA閉鎖性水域に類するペルシャ湾に大量の原油が流出した場合の水質汚濁量、海洋生物への影響を推定すること、さらにイラク軍によりB人為的にクウェートに存在する多数の油井が炎上した場合の大気汚染の負荷量及び周辺地域、周辺故国などへの大気汚染濃度を推定するととしました。

 実務的には、インターネット、ホームページはもとよりメールですら未整備の時代である、FAXがデータの受信、送信の中核的手段となりました。たとえば、ほぼ毎週単位で作成していた調査報告概要は、環境庁などの政府機関、新聞、テレビなどのマスコミ、関係する国の大使館などに、FAXで送信しました。

 情報入手については、米英メディア(新聞、通信社、テレビ)を通じての情報データの入手に加え、環境総合研究所が独自に設置した環境情報交流のためのパソコンネットワークシステム、E-NETを駆使しました。当時、E-NETには、ジャーナリストや研究者が多数参加していたこともあり、データ入手だけでなく、たとえばA1という米国の最先端タンクが1km走行した場合に使用する燃料の原単位などについての推定などでも役割を果たしています。

 季節、月別の過去の当該地域の風向、風速やペルシャ湾岸地域の地形、土壌、植生、またペルシャ湾の海洋地形、水深データなどを事前に情報の収集しました。さらに、原油に含まれる硫黄分、原油が生炊きされた場合に発生する二酸化硫黄(SO2)、硫黄酸化物(SOx)、二酸化窒素(NO)などの大気汚染それに二酸化炭素などの発生源単位についてもあらかじめ調査しておきました。

 さらに情報、データ収集については、現地に取材活動で出かけている内外の通信社、現地にある大学、研究機関、大使館関係者などに提供を呼びかけました。

 1992年の戦争終結後、環境総合研究所では、全国朝日放送網、テレビ朝日ニュースステーションとともに、クウェートなど現地に主として大気汚染、汚染被調査チームを派遣しました。これにより湾岸戦争がいかに過酷な大気汚染がクウェートを中心に周辺地域にもたらしているかが判明しています。またその後、環境総合研究所では、テレビ東京とともに、大気汚染、汚染被調査チームをアラブ首長国連邦に派遣し区ウェードから1000km以上離れた地域における汚染状況を実測しています。

 大気汚染濃度で見ると、原油の生焚きのため、燃焼温度が比較的に低く、窒素酸化物系汚染の濃度はそれほど高くなかったものの、二酸化硫黄など硫黄酸化物汚染の濃度は、非常に高いことが判明しました。また膨大な量のススにより風速が低い日は、空一面がススに覆われ、昼間でも夜のように真っ暗となっていることも判明しています。

 現地のクウェート厚生省や病院などへのインタビュー調査では、小児の気管支喘息が深刻となっていることもわかりました。

 一方、時間当たりの発生量、負荷量、気象条件(風向、風速など)をもとに、環境総合研究所(当時、東京都港区高輪)がもつ、大気拡散シミュレーションシステム、潮流・水質汚濁シミュレーションシステムを駆使し、各地域の大気濃度、水質濃度の予測を試みました。

 なお、以下は「湾岸戦争の環境アセスメント」と題し青山貞一が岩波書店、公害研究(当時)のVOL.21 NO3/WINTER 1992に全体概要を執筆したものです。
 
湾岸戦争の環境アセスメント 
 青山貞一、:公害研究, VOL.21 NO3/WINTER 1992(岩波書店)公害研究
 


タイトル 主担当 掲載媒体
有害物質、1日110万トン、地球規模の環境破壊も、環境総研試算 環境総合研究所 日本経済新聞 1991.1.28
戦闘機などの環境汚染、NOx排出、東京と同量 青山貞一 毎日新聞 1991.1.26
地球環境破壊を加速 環境総合研が湾岸による影響を予想  青山貞一 環境公害新聞 1991.1.30
ペルシャ湾への流出原油の影響/流出原油の環境影響  青山貞一
クウェート火災:気温低下を予測 年平均最大2度   青山貞一 サンケイ新聞 1991.3.22
クウェート:平年より最高18度も気温低下   青山貞一 サンケイ新聞 1991.5.11
この人に聞く:湾岸戦争被害を的確に予測(環境にパソコン駆使)  青山貞一 公明新聞 1991.5.12
湾岸戦争と環境研究 青山貞一 東京新聞 1992.8.3
日本政府調査と桁違い クウェート湾湾岸戦争大気汚染   青山貞一 朝日新聞 1991.12.20
クウェート大気汚染調査 各国調査公表わずか   青山貞一 朝日新聞 1991.12.24
湾岸戦争の環境アセスメント  青山貞一 公害研究, VOL.21 NO3/WINTER 1992
湾岸戦争の地球環境への影響〜まえがき〜(自主調査研究報告書・計画書)1991〜1992 環境総合研究所 環境総合研究所報告書・計画書
「ひと」湾岸戦争による環境破壊報告書・計画書をまとめた青山貞一さん  青山貞一 朝日新聞 1998年8月1日朝刊