アスベスト禁止措置に関する質問主意書 参議院議員 中村敦夫 2002年5月 |
近年、アスベストの使用について、健康上の観点から強い疑問が提示され、使用禁止措置が国際的な潮流となっている。
例えば、EU(欧州連合)は二〇〇五年までにアスベスト使用の原則禁止を決定しているほか、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、いわゆる先進国を中心に二十か国以上で既に使用が禁止されている。また、WTO(世界貿易機関)においても、フランスのアスベスト使用禁止措置をめぐるカナダとの係争で、昨年三月にフランスの措置が協定違反に当たらないという判断が下された。WTOは、アスベストについて「管理して使用すれば安全」というカナダの主張を採用せず、フランスの措置を自国民の安全を守るための加盟国の権利と認めたのである。
一方、わが国では、「管理して使用すれば安全」との考え方に基づき、代表的なアスベストであるクリソタイルについて使用を認めているばかりか、依然として大量に使用されている。 例えば、数年前より減少傾向が見られるにしても、昨年のアスベスト輸入量は七万九千四百六十三トンにも及び、WHO(世界保健機構)のクライテリアでも「日本は主要な消費国」とされている。
このようにわが国はアスベスト使用大国であるにもかかわらず、その対策は全く不十分である。
例えば、輸入アスベストの九割以上が建材に使用されているものの、社団法人日本石綿協会が公表している「石綿含有建材一覧表」では、製品名と製造会社を特定することはできず、国民がアスベスト含有建材の使用を避けることは困難である。また、既に使用禁止となった吹き付けアスベストを用いた建築物が現在でも数多く存在するにもかかわらず、対策が不十分であるために、メンテナンス作業員や電設作業員などは、アスベストの危険性や吸入可能性について十分な知識を持たず、リスクの高い作業を強いられている。
そして、アスベストが国民の健康に与える影響は、もはや無視できないものとなっている。
例えば、報道(本年四月二日付朝日新聞及び本年四月二十八日付毎日新聞など)によると、アスベストを主原因とする疾病である悪性胸膜中皮腫の被害者が、今後、急増する恐れがあるとのことである。また、アスベストによる疾病としては、悪性中皮腫のほか、アスベスト肺と肺がんがあり、肺がんの発生率は中皮腫の二倍程度と言われている。同様に、政府担当官(國常壽夫・厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長)も、本年一月に出版された『職業性石綿ばく露と石綿関連疾患』の中で「わが国における業務上疾病の新規労災認定件数は、近年、年間九千件程度で推移しています。(中略)いわゆる職業がんは年間七十件程度で推移しています。なかでも、石綿による肺がんまたは中皮腫は、年間四十〜五十件と職業がんの中では最も多く、しかも近年特に増加傾向にあります」と、アスベストの労務における問題を指摘している。
したがって、根本的なアスベスト対策が急務であるとの観点から、次の事項について質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合でも、各項目ごとに平易な文章で答弁されたい。
一 、政府は、わが国におけるアスベスト関連疾患の死者数について、今後どのように推移すると予測しているのか。
二 、二〇〇〇年から二〇二九年に至る三十年間で死者五万八千人程度と予測した日本産業衛生学会での報告『わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測』について、政府はどう認識しているのか。
三 、WTOが、フランスのアスベスト禁止措置をめぐって、アスベストについて「管理して使用すれば安全」という考え方が現実には実現不可能であるという判断を示したことについて、政府の見解を示されたい。
四 、現在、市場に流通しているアスベスト含有建材について、製品名と製造者をそれぞれ明らかにされたい。明らかにできない場合は、国民がその情報を入手する方法について具体的に示されたい。
五 、現在、市場に流通しているアスベストを含有するもので建材を除いたものについて、製品名と製造者をそれぞれ明らかにされたい。明らかにできない場合は、国民がその情報を入手する方法について具体的に示されたい。
六 、アスベスト含有商品について、商品の製造者及び販売者は、アスベスト含有であること並びにそのリスクを消費者に分かりやすく明示すべきであると考えるが、どうか。
七 、アスベスト含有商品について、宣伝活動の際に、アスベスト含有であること並びにそのリスクを示さない製造者及び販売者がいると聞く。このような販売方法は、法令等で規制されているのか。規制されている場合は、その法令等を示されたい。規制されていない場合は、消費者に必要な情報が提供される方向で、早急に規制措置が必要であると考えるが、どうか。
八 、メンテナンス作業員や電設作業員など、吹き付けアスベストを使用された場所等で作業を行う者が、アスベストの危険性や身体防護の方法など、必要な労務情報を入手するためには、どうすればいいのか。
九 、今後のアスベスト被害者の発生を防止するため、わが国も全面的にアスベスト使用を禁止すべきであると考えるが、どうか。
十 、報道(本年四月二十八日付毎日新聞)によると、本年三月末にアスベストの全面的な使用禁止を検討する省間協議が開かれたとされている。この協議について、参加者の氏名及び議事録若しくは議事要旨について、明らかにされたい。
右質問する。