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本事件の争点について

藤沢 顕卯

2007年1月22日


 この裁判における事実認定については、様々な疑問点が出ています。

 裁判における争点を以下に簡単にまとめますが、結論から言えば、以下全ての争点について検察側、弁護側の主張がぶつかっており、客観的な決着がついているとは言い難い状況です。

(以下の朝日の公判取材記事でもかなりの決定的な疑問点が提示されています。

http://mytown.asahi.com/miyagi/newslist.php?d_id=0400017)

 にも関わらず裁判所は不当に検察側の意見、証言ばかりを採用し、弁護側及び被告人の意見や証人をことごとく「虚偽」とか「信頼できない」等と決め付けています。

 少なくとも裁判所は、弁護側から提出されている疑問・反証に全て答える義務があるでしょう。しかし裁判所は検察側の主張のみ採用し、弁護側の鑑定請求、開示請求等を全て却下し、審理を尽くそうという誠実な態度が見られません。

 このようなことではいつ誰が無実の罪で犯罪者とされてしまうかわかりません。裁判所の態度は被告人の人権や民主主義、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を全く無視したものであり、見過ごすことができません。

 参考まで以下に私が理解した裁判における主な争点を簡単にまとめます。

(検察側)
■被害者の点滴ボトルや血液、尿から筋弛緩剤が検出された。各患者の急変症状は筋弛緩剤投与による症状である。

(弁護側疑問・反論)
・大阪府警の行った鑑定方法がそもそも科学的に間違っていた可能性がある(福岡大学医学部法医学教室影浦教授による大阪府警鑑定結果を真向否定する意見書を仙台高裁へ提出)。

・筋弛緩剤を点滴によりゆっくり投与した場合に「急変」を引き起こす能力があるか疑問。(通常の使用想定外なので科学的データが無い。)

・鑑定書で検出されたと言われる筋弛緩剤の濃度は点滴直後及び点滴から1週間たったものともに、科学的に有り得ない高い濃度だった。

・採取された被害者の点滴ボトル、血液、尿について、それらが明らかに被害者のものであることを示す血液型やDNA鑑定は行われておらず、他に証拠もない。また再鑑定しようにも全量消費されてしまって残っていない。

・被害者の「急変」容態が筋弛緩剤による作用と必ずしも一致しない。(呼吸困難が見られない等)

・患者の急変原因は他の原因(薬の副作用、心筋梗塞等)で説明がつく。

(裁判所認定)
鑑定試料は被害者のものと認められ,容体急変は他の疾患等の原因は認められず、筋弛緩剤の投与によるものと断じられる。全量消費についても本件各鑑定の信用性が否定されるものとはいえない。

(検察側)
■取調べ当初、被告人(守さん)が犯行を認めた(3日後に否認に転じ、以後一貫して無罪を主張)。

(弁護側疑問・反論)
警察の強引な取調べによる苦痛、また同様な取調べを受けている同僚の恋人を心配し、父親の職業である警察を信用していたため「後で調べてもらえる」と思い、仕方なくやってないことを警察に誘導されるままに自供した。そのため自白の内容は何等具体的な証拠を含んでいない。

(裁判所認定)
被告人の供述は不自然で信用できず、当初の自白に信用性を認めることができる。

(検察側)
■守被告が退職届を出した(守被告に疑いを持った副院長の夫:半田教授が守被告に退職を依頼したため)日、家に帰ってから忘れ物を取りに行くと称してわざわざ夜(午後10時頃)に病院に行ったのは証拠隠滅を図るためだった。

(弁護側疑問・反論)
夜に病院に行ったのは、昼間に行って普段からあまり仲の良くない半田副院長に会いたくなかったのと、同僚と会っていろいろ説明しなければならないことを嫌ったためである。また病院は守被告の家から車ですぐの場所にあり、恋人と食事をしに行くついでであった。また午後10時という時間は深夜勤のある病院にとって特に遅い時間ではなく普通の時間である。

(裁判所認定)
わざわざ,この日の夜中に再度北陵クリニックに行ったというのは不自然の感を免れない。

(検察側)
■上記時間に現場に張っていた刑事が守被告に職務質問をしたとき、守被告は筋弛緩剤の空アンプルの入った針箱を持ち出そうとしていた。

(弁護側疑問・反論)
・守被告はこの日の日中にも手洗い場のワックスがけ等を行っており、このときも職場の整理の一環で単に廃棄物をごみ捨て場に捨てようとしただけ。

・刑事が重要な証拠と認識していながら夜も遅いのでという理由で事件の当事者である半田夫妻に預けて翌日に検分したこと、また空アンプルの入った針箱を証拠として提出することを何故か警察が拒んでいる(写真しか提出していない)ことから証拠として疑わしい。また空アンプルが入っていたとしても正規に使用された分が入っていること自体は疑わしいことは無く、証拠隠滅に当たらない。

(裁判所認定)
被告人は北陵クリニックからこの針箱を持ち出して,人知れずその内容物を処分するか,少なくともいずれかに隠匿しようと考えていたという事実を推認することができる。

(検察側)
■事件の前に多数の筋弛緩剤が紛失していた。

(弁護側疑問・反論)
被告人がクリニックに就職する以前から紛失することは何度かあった。単に病院の管理がずさんであっただけ。

(裁判所認定)
被告人の医療行為以外の目的での意図的な行動によるものであると推認するのが合理的である。

(検察側)
■事件当時の状況から患者の急変直前の点滴を準備または細工を行ったのは被告人である。

(弁護側疑問・反論)
・検察や裁判所の論証は不十分で上記を客観的に証明するに足らない。被告人がいつ、どこで、どのくらいの量の筋弛緩剤をどのように点滴に混入したのか全く立証できていない。状況証拠の唯一の手がかりである証人も、被告に有利な証言はことごとく理不尽に却下されている。
・被告が起訴されてる5件全てについて(明らかに犯罪を特定する)目撃者はいない。

(裁判所認定)
2件については被告人が点滴を準備したという看護婦の証言を採用。他の件は当時の被告人の不自然な発言及び他の2件の認定から被告人が犯人であることを推認できる。

(検察側)
■動機はストレスや自己顕示欲の解消と副院長を困らせるためだった。

(弁護側疑問・反論)
検察の提示する動機は事件を説明するのに不十分である。被告は被害者と親しく、同僚からも信頼されていた。また同僚である恋人と結婚を考えており、些細なことで危険なリスクを犯すような動機はまるで考えられない。副院長への不満は同僚の多くが少なからず抱いていたものであり、それを同僚の間に不満を漏らすことはどの職場でもよくあることである。

(裁判所認定)
被告人において,そのような不満感や不充足感の反動として,本件各犯行に及ぶということは,十分了解可能な範囲であったというべきである。

つづく