|
レジュメ 動物実験の法制度改善を求めるネットワーク 代表世話人 藤沢顕卯 ●動物実験と動物虐待 動物実験は実験動物(愛護動物含む)に対して意図的に病気や怪我を負わせ、最後には殺処分する行為。 大義名分があることによって、虐待と区別されているが、大義名分がなければ(あるいは妥当でなければ)虐待と変わらない行為である、という認識が必要。 従って、大義名分が社会的に認められるものかどうか、動物の受ける苦痛と比較して意義の少ないものでないかどうか、動物の受ける苦痛が人道的な範囲を逸脱していないか、等についてチェックをする必要がある。 現状ではこれらのチェックを動物実験を行う研究者自身、または研究者が主なメンバーである動物実験施設内の動物実験委員会が行っている。 ●科学と市民の関係 現代科学は原発や遺伝子組み換え等に象徴されるように、規模や影響力が大きく、人や動物、自然に対して大きな危険や倫理的な問題を内在している。動物実験もその1つ。 福島原発事故に象徴されるように、科学を専門家(科学者)だけに任せておくのは危険。科学者は得てして危険性を過少評価し、倫理的な問題に目をつぶる、あるいは広い視野で判断できないことがある。 科学を科学者のみの判断に任せるのではなく、市民が直接的、あるいは間接的にであれ、監視することによって、健全な緊張感を生み出す必要がある。 ●動物実験と行政、市民の関係 日本の動物実験は全く闇の中で無法状態。行政すら、実験施設や実験を行ってる組織がどこに何か所あるか、実験動物が何匹、何の実験に使われているかを把握していない。 まずは行政が基本的な実態を把握し、最低限、動物の愛護と管理上、問題があった際に指導できる仕組みが必要。また一定度の情報は行政を通して公開されることが必要。 現状では感染症予防法や遺伝子組換え規制法等による届出制度等はあるが、動物の愛護と一般的な管理の観点から行政が指導監督を行うための制度はない。 ●殺処分と動物実験 ノーキルという言葉があるが、犬猫の殺処分が年間20万匹に対し、実験動物の殺処分(実験動物には更に実験処置が加えられる)は年間1000万匹以上。実験動物もペットも野良犬猫も同じ命である。実験動物の手当を含まない愛護法改正はあり得ない。 ●多頭飼育の問題 動物実験施設は多頭飼育施設でもある。数十匹程度の飼育施設の届出制が検討されているときに、動物実験施設は1施設で数万匹を飼育していても何の規制も受けていない。矛盾している。 ●動物実験業界の深い闇 99年の法改正は当時の与党・自民党の強い反対で動物実験の規制は盛り込まれなかった。05年の改正でも実験業界の外部評価制度等の動きを理由に見送られた。3度目の改正となる今回の改正でも民主党案の骨子に盛り込まれなかった(途中経過の骨子案には入っていたが、最終案では削除された)。 これらの背後には旧態依然とした業界(産業界及び研究・学術界)の保守的姿勢と強い抵抗(=深い闇)がある。(医師系の議員等を通して政党へ強い圧力をかけている。さらに今回は文科省や厚労省でさえ、環境省のパブリックコメントに対して法改正反対の強い要望を出している!) 「施設の届出・登録制は研究に支障を及ぼす」、「情報公開により過激な反対運動から被害を受ける」等、関係者の発言は事実の誇張、時代錯誤、社会的責任の無自覚なものが目立つ。 ●動物愛護法は家庭動物、展示動物、実験動物、畜産動物を等しく保護する法律 動物愛護法は家庭動物、展示動物、実験動物、畜産動物を等しく保護する法律で、決してペットを保護する法律ではない。愛護動物(主に人の所有する哺乳類、鳥類、爬虫類)への虐待は罰則(一年以下の懲役又は百万円以下の罰金)も付く。だが、動物実験と名が付けば事実上罰せられることはない。 ●3R 3R(Reduction,Refinement,Replacement:別紙参照)は科学者サイドから出た考えで、動物実験を肯定する前提に立った上で、実験者が守るべき理念として世界的に広く認知されている。だがこの理念に基づく条文(動愛法41条)でさえ、「科学上の利用の目的を達することができる範囲において」、「その利用に必要な限度において」、「配慮するものとする」といった二重三重の制限文句により無力化されている。今回の改正で業界側はこの条文の改正でさえも認めないというが、世界の流れと逆行していないか? ●海外との比較 19世紀から動物実験を法で規制しているイギリスをはじめ、先進諸国は動物実験施設、動物実験計画、実験者の許可制、ライセンス制を採用している。自主管理型で日本のモデルとされるアメリカでさえ、施設の登録制、国の査察、委員会への市民参加、罰則その他多くの法規制がある。日本だけが世界で唯一取り残されている。 日本も加盟するOIE(国際獣疫事務局)は2011年に実験動物福祉に関する国際規約を制定。担当官庁による監督の枠組み(民間人を含む委員会、実験計画の審査、施設検査、動物実験規程の点検等)を含む。日本の法制度はこれに対応していない。 EUではEU指令により、2009年に化粧品目的の動物実験を原則禁止(域内流通禁止を含む)、2010年には霊長類を使った実験を原則禁止としている。 ●最後に いつになれば日本は深い闇から抜け出て、実験動物に光を当てることができるのか?人知れず犠牲になっている人類の同朋たちの声に耳を傾け、問題を自覚する市民の力にかかっている。 |