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夕闇迫る南大隅 彼方に山の稜線、目に鮮やかな彼岸花と稲穂の黄金。 (撮影:橋口由布子) 注)参考資料などのリンクは、掲載者側の期限切れなどの理由ではずれて はずれているものがあります(独立系メディア E-wave Tokyo編集局) ◆誘致の是非をめぐる「請願」と「陳情」 熱気こもる2012年9月25日、反対集会を機に、「南おおすみの自然を守る会」と「原子力ムラ」との天下分け目の攻防が、いよいよ火蓋を切った。 「安全神話の中で、高濃度放射性物質を無防備にその身に受け入れる」鹿児島県の愚かな「自殺行為」を食い止める防衛ラインの、文字通り、その最前線が南大隅に張られた。 「南大隅」=「最終処分場の有力候補地」の烙印を押された。 その強引さは、「命を捧げよ」、という、戦前の「招集令状」にも等しい。 ないし、ポンと門前に張られた、不当な「差し押さえ物件の赤札」に他ならない。何としても自分の敷地からはがして、お上に突き返さねばならぬ。 まして、この土地では、風車発電20基を抱え、3万20000kwの電力を生み出している。水力発電と合わせ、自然エネルギー自給率が170%を超える町なのだ。核のゴミの持込みなど、倫理上も間違っている。あり得ない。いらない。 周辺他市も焦る。しかし、「よそ者」の介入は地元を乱すリスクが高い。まかり間違って、推進の方向に人心が傾けば、処分場誘致の最悪シナリオになりかねない。南大隅を信じ、後方援護に付いた。 ※ 南大隅ウインドファーム発電により、南大隅全体の電気が まかなわれている事実を記した記事。日経グローカルNo.133 2009.10.5 ⇒ http://www.nikkei-rim.net/glocal/glocal_pdf/133PDF/133data.pdf.pdf 南大隅町に立てられた反対運動の看板。 (撮影:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview代表理事) その後の経緯は以下の通り。 2012年8月27日、大隅4市5町すべての首長が、汚染最終処分場「反対」を表明し、ニュースは地元の新聞・TVで報道した。 2012年9月5日、肥後代表は、「核関連施設誘致の反対条例化」への「請願」を議会に提出した。この請願に署名した町議会議員は6名。南大隅の議員定数は16名である。まだ条例制定に不安が残る。 ※「南おおすみの自然を守る会」が町議会議長に提出した請願書。⇒ ただし、以下では個人情報は割愛しています。
一方で、翌2012年9月6日、前日の「請願」と対立する主旨で「陳情」が出された。 「条例化には反対」という、提出者は、地元土建業者。もちろん、「処分場誘致の推進」が目的である。それ以外の何物でもない。 「我田引水としか思えない」 ――「南おおすみの自然を守る会」は、この反対陳情を、深く嘆いた。 辺塚より硫黄島を望む。 (撮影:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview代表理事) ◆「不都合」な事実 鹿児島県は、過去すでに七つの市が、放射能廃棄物拒否や、核関連施設の立地拒否の条例を制定している。(旧笠沙町は、2005年合併により南さつま市となり、条例失効。) つまり、この本州南端の薩摩は、国に狙われては撃退する、その攻防を繰り返している。これは、核関連だけでなく、基地問題や、その他の「不都合」全てを含む。 鹿屋市に、米軍基地が誘致されそうになった時も、強い反対運動が沸き起こった。ある女性はブッシュ大統領に手紙を書き、人々は総力でそれを退けた、と聞いている。 全国で、特定の条件を満たす地方自治体は、「不都合」な目的で、狙われ易い。これは、紛れもない事実だ。 ――いつも、東京や大阪は、素通りしてゆく。 同じ事柄の、都合の良い側面は都会が取り、残りの「不都合」は、すべて地方が負う。それが、日本の卑しく貧しい、真実の姿なのだ。 …しかし、地方自治体は、「地方自治権」を有している。よって、拒否、回避もまた可能だ。差し迫った危機でも、地元の判断と、努力次第で、本当の嵐を避けることが出来よう。 と、考えてから、ふと、「わが県隣、沖縄はどうだろう」と、思考が飛んだ。そうだ、彼の地には、そのような権利すら、最初から存在しなかった。複雑すぎる事情、「不都合」の多くを、否応なく、国に引き受けさせられてきた。 南大隅、栃木県矢板、茨城県高萩、…いま、次々と名前が上がる自治体の混乱を憂慮し、健闘を祈りつつ、美しい観光地の顔の裏で、沖縄が背負わされた、「不都合」と痛みは、他に比ぶべくもなく深い、と思惟する。誰もが、そう感じずにはいられまい。 参考:「自治体の放射性廃棄物拒否条例」⇒れんげ通信 by 市民ネット・岐阜 http://www5b.biglobe.ne.jp/~renge/jyoeiindex.htm ) 参考:「放射性廃棄物 リスクコミュニケーション広場」 http://www.ho-hi.com/modules/tutorial/index.php/area/2000.html 卓上に深紅のハイビスカス 花は食用にも。 花オクラに似た外観でほのかに甘酸っぱい 「南おおすみの自然を守る会」事務局長・小岩正博氏宅にて。 (撮影:橋口由布子) ◆反対条例制定へ 幸いなことに、事態は、反対派にとって、望ましい方向に向かった。 ・2012年9月13日、南大隅町議会は、特別委員会を設置し、核関連施設 誘致問題への取り組みがはじまる。 ・2012年9月20日、同特別委員会で、肥後さんらの「放射性廃棄物 最終処分場の反対を求める陳情書」が、採択可決。本会議(定例会)での、本採択待ちとなる。 ・2012年9月24日、南大隅町議会定例会(第3日目) 「請願第1号」 1,放射性廃棄物(汚染土や瓦礫を含む)の処分場計画に反対 2,原発使用済み核燃料の 中間施設立地に反対 3,核関連施設 立地拒否条例制定を要望 ―― 以上の請願書の内容 すべて が正式に採択された。 他方の「陳情第一号」(推進派)は、「反対条例の制定には反対である。原子力規制委員会が新設された今、放射能について、もっと知識を深めたい。また、被災地の心情を考えると、慎重にすべきとの考え。」との主旨だったが、「安全性の保証がない。地域への影響が懸念され、現段階で安心安全は難しい。」として、不採択に。“推進派の意見却下”が持つ意味は、少なからず大きい。 良かった。みな、他に言葉が見つからなかった。これで、いよいよ次なるステップへ。具体的な 反対条例制定へと、船を漕ぎだす準備は整ったのだ。 ※ IWJ中継の2012年9月24日南大隅町議会定例会 USTREAM ⇒ http://www.ustream.tv/channel/iwj-kagoshima1#/recorded/25671822 ) 南大隅でのフィールドワークの様子。2012年9月9日約40名で訪問。 (撮影:橋口由布子) ◆南大隅の視察 私が始めて南大隅に向かったのは、2012年9月9日、重陽の節句、であった。不思議なほど、またとない、晴れやかな天候に恵まれた。 鹿児島中央駅で待ち合わせ、マイクロバス1台で、29名が一緒に向かった。現地で、鹿屋や財部から入って来る、他のメンバーとも合流して、総員で40名ほどだ。 とにかく、私たちの美しい南大隅を見に行こう。訪問の目的は「視察・フィールドワーク」である。 大変有難いことに、現地では、「南おおすみを守る会」代表の肥後さん、事務局長の小岩さんらが、ガイド役の人や、視察コースの選定、弁当手配、その他、諸事万端、我々の受け入れ準備をして、到着を待っていてくれた。 9月9日の段階では、まだ、条例制定の目途が立っていなかった。不安な気持ちもあった。しかし、それは敢えて言葉にせず、その日は純粋に楽しもう、とみんなで決めていた。 統廃合で、廃校になった、辺塚の小学校の校舎(まだ十分に新しく美しい)で、私たちは肥後さんをはじめとする、南大隅の町の人々の話を聞いた。なにしろ、異変の直後である。NHKのA記者も、東京から朝一番のフライトで大隅入りしていた。TVメディア各社も駆けつけていた。 廃校になった辺塚の小学校にて。 (撮影:橋口由布子) 私たちは、全員で、「滝」を見るために、南大隅の深い山林へ分け入った。その、腐葉土の、清々しい香り。深く、大きく、息を吸い込んだ。他のどこでも、嗅ぎ取ったことのない、自然な芳香、イオンに満ちている。長い年月をかけて降り積もった腐葉土とは、このような香りを放つのか。 木の根を頼りに、ひたすら崖を上った。滑った。転んだ。笑いさざめきながら、滝に着く。子どもたちは、滝壺で大はしゃぎ、ずぶ濡れで、生き生きと遊んでいる。 紺碧の空にそびえ立つ崖、勢いよく流れ落ちてくる滝の水を、口に含む。水が、甘い。自然の恵みに感謝して、みながのどを潤す。ペットボトルに詰める。 この貴重な水資源。それを、なぜ、自ら失おうというのか。今、世界では、水の奪い合いが始まっている。その認識が、国には全くないのか? 持っている物の価値に気付いていない。そうとしか理解できない。それ以外に、自然あふれる非汚染地帯に、わざわざ高濃度汚染ゴミを運ぶ理由がない。なんと、愚かなのだろう。 南大隅。山を分け入り到達した滝。 (撮影:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview代表理事) ことに、インド、中国などは、水不足、水質汚染が深刻だ。水源地や地下水脈上の土地を購入すれば、地下水や良質の木材も手に入る。近年、よく指摘され、危惧されている事実として、中国が将来を見据えて日本の山林を買い漁っている可能性が高い。 事務局長の小岩さんに、その辺りの南大隅事情を聞いてみた。やはり、数年前に、中国からの引き合いが入っていたそうだ。しかし、実現はしなかったようだ、と小岩さんは語る。幸いだった。では、この森は守られたのだ。 ◆バーチャルウォーター 日本人は、不思議なほど水に無頓着だ。年間一人当たりの水資源量が、実は、人口の半分程度しか満たしていない。その事実を、いったい何%の日本人が意識しているだろう。 日本は、水に関する様々な経験や技術を有しており、途上国に対しては、水分野でも多くの技術的資 金的支援を行ってきている。しかし、肝心の日本国内が、非常に危うい状態だ。環境省のホームページを見れば、それは一目瞭然で、非常に多くの文言や図で、きちんと警告されているではないか。 生産に水を必要とする物資を輸入している国(消費国)において、仮にその物資を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定した水の量を「バーチャルウォーター」と言う。日本のカロリーベースの食料自給率は40%程度なので、日本人は、ほぼ半分近くを、海外の水に依存して生きていると言える。 環境省によれば、2005年に海外から日本に輸入されたバーチャルウォーター量は約800億m3であり、その大半は食料に起因している。これは、日本国内で使用される生活用水、工業用水、農業用水をあわせた年間の総取水量と同程度となっているそうである。 国土交通省 世界の水問題と日本 「水不足の危険度」より 環境白書」 図4−1−8 変換1人当たりの水資源量と人 昨年2011年3月11日、福島第一原発の事故で、大量の放射能が大気中に拡散した。日本列島が広範囲に汚染された今、この水リスクは以前より高まっている、と考えるのが当然だ。以前と同程度、水アクセスがストレス・フリーで、日本全国いつでも水が手に入るなどと、呑気な状態が続いているはずはない。 さまざまな論点があるだろう、しかし、貴重な水資源問題のためには、少しでも、多くの汚染されていない日本の山林を守らねばならない。普通に考えれば、それが、国が当然向くべき方向、のはずである。 それなのに、日本中で、複合汚染ガレキや、高濃度核ゴミを運ぶ、焼却する、埋め立てる、どんどん汚染物質が拡散する一方だ。なぜ、何を考えて、環境保全とは間逆の方向に、この国は何処に向かっているのか。その理由が、さっぱりわからない。 参考:環境省 「環境白書」 http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h22/index.html#index 参考: 国土交通省 世界の水問題と日本 http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/j_international/international01.html 自衛隊 佐多射撃場に広がる海と空。 (撮影:有川美子氏) ◆佐多 自衛隊射撃場にて 辺塚の湾を山上から一望すべく、南大隅視察の一行は自衛隊の佐多射撃場に向かった。吸い込まれそうな蒼い空、そして、何処までもつづく海原だった。引いたような幾筋かの白い雲が、まるでケムトレイルのようだ。 この佐多射撃場にて、ちょうど私と肥後さんは、二人で話しながら歩く時間があった。その時の話は、私が一人で聞くのは勿体ない、とても重要な話だった。 肥後さんたちは、3.11の後、5月、ごく少人数で、福島県双葉郡浪江町 に向かっている。浪江町の人々へ、南大隅への集団移住を勧めに行った、というのである。 南大隅は、数年前から、NUMOに狙われていた。その功罪で、肥後さんたちは、「原子力とは何か」、という問題に関して、3.11事故直後には、既に一般よりずっと知見が深かった。3.11前年の2010年3月には、広瀬隆氏を招いての講演会も開催している。 そうした判断から、肥後さんたちは、浪江町に行き、「南大隅には、使われていない民家も900戸ほどある、畑もある、そこを利用して、ぜひとも、みなさんで移り住んで欲しい」、と、話したそうだ。 しかし、残念ながら、その願いは、浪江町の人々の心には届かなかったそうだ。そればかりか、浪江の人々の感情を害してしまった、と、肥後さんは寂しそうに言う。 淡々と語る肥後さんからは、怒りや、激しさは、微塵も感じられなかった。それは、純粋に、浪江の人々を心配する顔だった。 肥後さんは、空を見上げて、静かに呟くように言った。「あの時はそうだったけれど、今また聞いたら、どうなんでしょうね。」 南大隅の、底抜けに蒼い空。そこにいる自分も、吸い込まれて、一緒に碧く染まってしまいそうなほど、蒼い。 私たちは、この自然を守り通すことが出来るだろうか。未来の子どもたちも、今と変わらない、同じ蒼い空と海を見られるだろうか。 南大隅に集まった人々に話す肥後さん (撮影:橋口由布子) ◆謝辞 私の原稿を助けて下さった、すべてのみなさまに、心より感謝を申し上げます。 みなさまに愛をこめて。 2012年9月30日 不一、橋口由布子 ◎ 拙文にも関わらず、E-WAVE Tokyo にご掲載下さった、 青山貞一先生、そして、池田こみちさま。 ◎ 私たちを暖かく迎え入れて下さった、「南おおすみを守る会」 肥後さん、小岩さん、 あいちゃん、はじめとする、南大隅町のみなさま。 ◎ プロならではの、秀麗な写真の数々を 転載快諾して下さった、 Tuvalu Overview 代表理事・遠藤秀一さま。 ◎ 圧倒的な印象の、大隅の美しい写真を転載許可下さった 有川美子さま。 ◎ IWJ中継で、夜明けから大隅に入ってくれた 竹迫繁人さま。 ◎ かごしま県庁前抗議行動のみんな。 ◎ すべての「原発いらない」私の仲間たち。 |