映画「花はどこへいった」 Agent Orange-A Personal Requiem 坂田雅子製作・監督・撮影・編集 鑑賞記 2008年6月30日 無断転載禁 |
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今週金曜日7月4日まで、神保町の岩波ホールで上映されているドキュメンタリー映画「花はどこへいった」を観てきた。
少なからずダイオキシン汚染について研究し、様々な政策立案に関わってきた一人として、現地こそ訪れていないものの、ベトナム戦争での枯れ葉剤によるダイオキシン汚染については、繰り返し読み、写真や映像を見て自分なりに理解している積もりだった。しかし、この作品を見て、改めて衝撃を受け、自分の心の中にわき上がる何かを感じた。 この作品は、化学物質ダイオキシンの毒性やそれがもたらした悲劇を伝えているだけではない。重度の奇形や障害をもった子供が生まれた運命を受け入れ、貧しい生活を強いられながらも懸命に愛情を注ぎながら育てている家族の姿が描かれている。 ベトナム戦争が終わって33年。戦争の体験も記憶もない親から今も奇形児が生まれている現実を忘れてはいけない。 監督の坂田雅子さんと夫のグレッグには子供がいない。彼がベトナム戦争で枯れ葉剤を浴びているので、敢えて子供をつくらなかったという。そんな彼女のカメラを通して映し出されたのは、障害児を抱き、いとおしむ祖母であり兄弟姉妹、そして母の姿だった。淡々とした彼らの日常の営みがかえって観る者の心をうつ。 同時に、雅子さんはこのドキュメンタリーを通じて、夫グレッグが世の中に訴えたかったことを見事に伝えている。徹底した反戦であり、物言わぬ人々への怒りである。特に若い世代が社会への批判精神を失い、内向きになりがちな昨今、是非、多くの若者に観てほしい作品である。 今、日本では、ダイオキシン問題に対する関心が薄れ、ダイオキシンはたいした問題ではなかったというような風潮が作り出されている。しかし、ダイオキシンは今も私たちの身近にある化学物質である。科学技術を過信することなく身近なダイオキシン問題に緊張感をもって取り組んでいくことが必要だと改めて感じさせられる。 雅子さんが亡き夫のレクイエムとして製作した本作品は、ご夫婦の共同作品として多くのメッセージを伝えている。日本国内はもとより、米国はじめ世界各国で上映してほしいと強く思う。 雅子さんと同世代の一人として彼女の今回の作品づくりへの勇気と努力に大いにエールを送るとともに今後のご活躍にも期待したい。そして感謝を伝えたい。 |