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45年来のドイツ人の友人がリタイア後にフランス南部、ミディ・ピレネ地方のジェース(Gers)県に移住した。 4年前のことだ。ドイツのケルン近郊に住んでいた頃にも三度ほど家を訪ねたことがあるが、今回は、彼女の還暦祝いに招かれて久しぶりに会うこととなった。ベルリンで学会があった時に会って以来、6年ぶりである。 ●が今回の行き先(フランス南部、スペインとは100kmの近さ) フランスへは34年ぶりの訪問となるが、南部の田舎へは初めての旅である。成田からパリのシャルルドゴール空港まで12時間、パリ北部に位置しているシャルルドゴール空港からパリ南部の国内線のオルリー空港まで約45km、夕方だったこともあり、渋滞していてバスで1時間以上かかった。 そこから小型飛行機(50人乗り)に乗ってスペイン国境に近い町、Hautes-Pyrenees県の首都、Tarbes(ターブ)まで1時間半、結構遠い。 Tarbes空港はキリスト教の聖地ルルドにも近く、クリスマスやイースターはもちろん、年中巡礼の旅行者が多い「門前町」だ。また、ピレネー山脈にも近く、スキーや登山などアウトドアスポーツを楽しむ人々で特に夏・冬には観光客が多い。 菜の花の道。蒼い空がなんとも美しい 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 友人は、夫婦二人暮らし、Tarbesから35kmほど北のGers県Mielan村に住んでいる。到着したのは夜10時を回っていたが、空港まで迎えに来てくれていた。空港から自宅までは道が空いていて30分程度で着いた。とはいえ、自宅を出てからドアツードアでまる24時間が経過していて、私は着くなり挨拶も早々にベッドに入った。 Mielan湖の身近な自然 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 彼らは100年ほども経っているという古い家の内部を改装し、慎ましい田舎暮らしを満喫している。メインハウスの1階には居間と台所・ダイニング、二階が主寝室と風呂、中庭を挟んで客用寝室2つと小さなシャワールームがある石造りの家だ。 家の裏には、20坪近くの畑があり、6種類の果樹と様々な季節の花、野菜を作っていた。畑の農作物は手作りのジャムや総菜となって食卓をにぎわしている。 Mielan村は人口およそ7000人、14世紀からの建物がまだ使われている。農業、酪農(鴨、牛、羊)が主な産業、チーズやワインも地物が美味しい。 Mielan村役場の入り口 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 最低限の暮らしを支える店が何軒かあるだけで、何もない村、だがそこでは人間らしい穏やかな暮らしが営まれていた。元々の住民に加えて、パリなど大都市から移住してきた人たち、イギリスやドイツから定年後に移り住んでいる人たちなども多く、古い町に新しいコミュニティもつくられていて結構楽しみも多いという。 今回の還暦祝いには、ドイツ時代の友人、知人、親戚などもも招かれ、ケルンから約1300kmを車でやってきた客が4組もいた。途中、リオン付近で1泊して来たというカップルも居れば、16時間ぶっ通しで運転してきてきたという強者もいた。 Mielan村一番人気のレストラン(昼のみオープン) 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 EU圏内はほとんど国内旅行と同じ感覚で行き来できて人や物の移動も活発だ。フランスでもこの辺りは高速鉄道南北を結ぶICやTGVも通っていないため交通が不便なので、どうしても安上がりで楽なのが車での移動となるようだ。 6日間ホームステイしている間、遂に一度もテレビを見ることはなかった。朝パン屋が9時からなので、店が開くのをまって出来たてのバゲット、クロワッサンを買ってくる。 20坪くらいの中庭 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 ゆったりと朝食を済ませてから、周辺の村を見て回ったり、まだ雪の残るピレネーに行ってみたり、天候が悪くて出かけられない日には、日がな一日、10人くらいが狭いダイニングテーブルやリビングに集まって、ドイツ語、英語、フランス語が混じり合った会話を楽しんでいる。 畑から家を見たところ 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 会話は、たわいのない家族や食べ物の話にはじまって、北朝鮮問題、中東問題、経済問題、宗教問題、環境問題など結構シリアスな話題でも盛り上がった。 外国人がフランスでリタイアライフを送るためには、もちろんフランス政府の移民政策にしたがって必要な手続きが取られるのは当然だが、フランス国民としての統合政策の最も重要なことの一つがフランス語の習得である。 羊飼いの女性 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 差別なく暮らすために必要なこととして重視されているとのことだ。友人夫婦はフランス語教室で多くの友人をつくりコミュニティの輪を広げて地域にすっかり馴染んでいるようだった。 モンテスキュー村からの景色 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 ドイツと比べてフランスでは健康保険や社会保険などが安く、光熱費も安いため、経済的に暮らしやすいばかりでなく、なんと言っても地域社会の暖かさ、コミュニティの人間関係がとても彼らにとって重要な要素となっているようだった。それぞれの暮らしを尊重しつつ、おせっかいでない程度に親切でやさしい、助け合える関係がいいとのこと。うらやましい限りである。 ネコとくつろぐ筆者 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 帰り際には、「貴方も来ない?」と言われ、「うーん、まだちょっとね。」と言葉を濁したが、余りにも正反対の忙しく時間に追われ、人口密度の多い生活スタイルに慣れている東京人としては大いに魅力も感じた。 Tillac村の古い町並み 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 Mielan村の周辺の写真をいくつかご紹介しよう。遠くに残雪のピレネー山脈を臨み、まっ黄色な菜の花畑が続く丘陵地帯に中世の佇まいを残す村々が点在している。そこには、現代のフランス人のあまりにも人間らしい普通の暮らしがあった。マックもケンタッキーもいわゆるアメリカ的なものは微塵もなかった。 つづく |