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2011年3月11日の地震・津波のあと、3月14日に3号機が水素爆発を起こし、その時に原発から環境中に放出した放射性物質の量から、すでにチェルノブイリ級の事故、すなわちレベル7級の事故であることが確実視されていたという。 連日報道される福島県内一帯の土壌中の放射性物質の濃度レベルを見ると、その爆発の威力がいかに大きなものであったかが改めて思い知らされる。既に農業、漁業、水産業に多大な影響が及んでいるが、4月8日にはついに農水省が「稲の作付に関する考え方」として、事実上の作付禁止措置を打ち出し、地元には衝撃が走った。 稲の作付に関する考え方 平成23年4月8日 原子力災害対策本部 水田での稲の作付制限はどのような考え方に基づいて定められたのだろうか。 資料を見ると、1959年から2001年までの約40年間の水田土壌および収穫された米の放射性セシウムの測定データをもとに、水田土壌から玄米への放射性セシウムの移行の指標(どれくらい土壌から玄米に移行するか)を割り出して、定められたものだという。 すなわち、水田土壌から玄米への放射性セシウムの移行は、次の式で求め、0.1とされた。 移行係数=農産物(可食部)中の放射性物質濃度(Bq/kg)/土壌中放射性 物質濃度(Bq/kg) この場合、玄米中の放射性セシウム濃度が3月17日に泥縄的に設定した食品衛生法上の暫定規制値(500Bq/kg)以下となる土壌中放射性セシウムの濃度の上限値は 5000Bq/kgとなる。したがって、水田土壌中の放射性セシウムの測定値が5000Bq/kgを超える水田では、稲の作付(田植え)は行えない、ということである。 改めて福島県内の土壌中の放射性セシウムの濃度を見てみよう。福島県のホームページには、以下のようなデータが掲載されている。 福島県内各市町村の土壌における放射性物質の測定結果(水田・転換畑) 平成23年4月6日現在 福島県農林水産部 国の協力を得て行った農用地土壌中の放射性物質の調査結果について 平成23年4月8日 福島県農林水産部 第2回福島県内各市町村の農用地土壌における放射性物質の測定結果 平成23年4月12日現在 福島県農林水産部 さらに、農用地ではなく一般の土壌(陸土)については、別途膨大な測定データが報告されている。それを見ると、すでに知られている飯舘村をはじめ第一原発から50km以上離れた地域においても、セシウム137の値が5000Bq/Kgを大きく上回るデータが報告されている。 平成23年4月13日 文部科学省発表 3/19〜4/11までのモニタリング結果より作成 (陸土:Cs-137 単位:Bq/kg)
しかし、現実には福島県内には、畑地土壌でも高濃度のセシウムが検出されているところある。また、また、自家用に野菜を栽培している人も多いが、畑の土壌についてはどのような考え方なのか、農水省の担当者に電話で確認してみた。 農水省では、現在、畑地土壌については、水田土壌のようなデータの蓄積がないため、検討は行っているが、すぐに暫定規制値を定められる状況にはない。しかし、水田土壌の濃度が高いということは、隣接する畑の土壌も同様に高濃度であると考えるのが妥当であり、稲作同様にそうした畑での野菜の栽培は控えていただくことが適当であると考えている、とのことだった。(農水省、農産安全管理課) そこで、福島県農林水産部に確認すると、稲作と畑作では放射性物質の植物への移行係数が異なるため、現時点では、5000Bq/kgを超える畑であっても、野菜を栽培していただき、作物ができた段階で野菜の濃度を測定し、出荷の可否を判断するという方針を示しているとのことで、こうした方針については、農水省とも相談し了解を得ているとの回答だった。県のホームページでは次のように説明している。 ---------------------------------------------------------------- 県では、農用地の放射性物質の状況を把握するため、2回の土壌調査を行いました。 その結果、「福島第一原子力発電所の事故に伴う「避難区域」、「計画的避難区域」、 「緊急時避難準備区域」に指定された地域については現在国と調整中ですが、その他の 地域については稲の作付を行っていただいて差し支えありません。 また、野菜等その他作物につきましても、稲に準じて作付を進めていただいて結構 です。なお、農産物の安全性につきましては、引き続き農産物緊急時モニタリング検 査を行い、確認することとしております。 資料:「がんばろう ふくしま!」農業技術情報(第1号)〜地震災害・原子力災害対策〜 福島県農林水産部 平成23年4月14日 ----------------------------------------------------------------- つまり、畑では、ほうれん草はじめ様々な野菜が作られるが植物の種類によって土壌から作物への移行係数が異なるため、一律に何Bq/kgであれば野菜そのもの濃度が暫定規制値である500Bq/kgを超えないかについては、一概に言えないというのがその理由である。国が言うように、稲作同様に規制したのでは、まさに農家の生計が行き詰まるばかりか、生きがいすらなくしてしまうことを危惧していると思われる。畑の暫定規制値が出るまで待つわけにもいかないのだ。 今回の規制はセシウムについて示されているが、セシウムは134(Cs-134)と137 (Cs-137)を加えた濃度が5000Bq/kgを超えた場合となっている。セシウム137の半減期は30年である。 一方で、一部ではセシウム同様半減期が29年と長いストロンチウム90(Sr90)も検出されており、微量であっても気がかりである。ストロンチウム90は、化学的性質がカルシウムと似ていて水に溶けやすく、人体では骨にたまりやすいという特徴がある。また、土壌では深い場所まで届き、植物に吸収されやすいと言われている。 今後、どのように土壌の汚染を低減させていくことができるのか、早急にその対策を示す必要がある。チェルノブイリ原発事故の後、汚染された土壌には菜種などの植物を植えることで浄化が促進されるといった研究も進められているようだが、せめて希望をもって土壌の浄化のための農作業ができるのであれば、たとえその野菜や植物は食品としては役立たなくても未来に向かって生きる力にもつながるだろう。当然、そのための対価はしっかりと補償されなければならないことは言を待たない。 まずは、しっかりとしたモニタリングおよびわかりやすいデータ処理、情報提供・解説を速やかに行うことが第一である。現状では、関連のモニタリングデータを調べようとしてもいろいろな省庁、自治体がばらばらに行っており混乱を極めている。 |