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目黒清掃工場建替事業
環境影響評価書案説明会に参加


環境総合研究所
顧問 池田こみち
掲載月日:2015年6月19日
 独立系メディア E−wave



 東京23区には、21の清掃工場が林立している。その中の一つ、目黒清掃工場が竣工から24年経過し、建替の時期が来たとのことから、2015年6月に、事業者である、東京二十三区清掃一部事務組合(清掃一組と略す)から、東京都知事に建替事業の環境影響評価書案が提出された。それに伴い、清掃一組は、7月24日から31日までの一週間に6回の説明会を目黒区内で開催すると発表した。

■清掃一組Webサイト:目黒清掃工場建替事業環境影響評価について
http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/suishin/keikaku/meguro-chousakeikakusho.html


写真1 目黒清掃工場ストリートビュー写真 


写真2 周辺の地図 Google maps より切り出し

 環境総合研究所(ERI)は、目黒区内にオフィスを構えていることから、29日水曜日の夜7時〜8時半に中目黒住区センターで開催された説明会に参加した。10分ほど前に会場に到着したが、説明会会場の設えは前の方に事業者側職員らが14名も陣取り、ものものしい雰囲気となっていた。

 定刻の7時に司会が開会を宣言して説明会が開始されたが、その時点での区民の参加者はおよそ20名ほどとなっていた。

 司会による職員紹介、資料確認、説明会進行の段取り説明、注意事項などがあり、計画推進担当部長(野村浩司氏)の開会挨拶の後、計画推進担当課長(今井正美氏)から評価書案の概要についてパワーポイント及びその印刷資料を用い約35分程度、説明があった。全体が1時間半と限られた時間であるため、今井氏の説明は、淡々と録音してあるかのように資料を読み上げる形で行われ、受け手側が理解しているかどうかなどには一切配慮がない無機質な説明が約35分程度続いた。


写真3 新工場のイメージ図 説明資料PPTより (No1-gaiyou1image.jpg)

 その後、7:45頃からフロアとのやりとり、質疑応答となったが、なにぶん時間が一時間も無いため、質問者の人数や質問項目も制約され、一方的に打ち切られる形となり、参加者の間には不満が渦巻いた。結局、私を含め5名ほどが質問し事業者側が回答と説明を行ったところで8:25になり、あと2名で打ち切りとなった。

◆環境影響評価書案の説明と区民からの指摘

  実際の環境影響評価書案報告書は、本編、資料編等3部からなり積み重ねると10センチを超えるような分厚いものだが、説明会では、35頁の「環境影響評価書案」のあらまし、口頭説明のパワーポイント56枚を印字した資料、さらに清掃一組の事業を説明するパンフレット2種が配付された。

 新目黒工場の概要は、600t/日(300t/日×2炉)のごみ焼却能力をもち、煙突高150m、ごみ発電能力18000kW以上とされており、処理能力や煙突高は現状と同じであるが、排ガス処理設備などが大きくなることから工場棟は大きなものとなる見込みとされた。ただし、その分、地下を掘り下げて設置するため、工場棟の高さは現状より3m低くなるとの説明があった。

 予測項目は、@大気汚染、A悪臭、B騒音・振動、C土壌汚染、D地盤、E水循環、F日影、G電波障害、H景観、I自然との触れあい活動の場、J廃棄物、K温室効果ガス
の全12項目となっている。

 結論から言うと、予測評価結果は、すべての項目について、「事業実施に伴う影響はない」、「評価指針である環境基準等を下回る」、「現状に比べて新清掃工場からの寄与は小さく、問題がない」とした。


写真4 大気汚染予測結果(稼動中)

 それに対し、住民からの質問や指摘は、目黒清掃工場は目黒川の脇に立地しており、地形的にも低い位置にあること、ここ数年周辺に高層ビルが多数建設され、建築物による拡散の阻害などが考えられるが、今回の予測(予測モデル、予測範囲等)では不十分ではないのか、という点に集中した。

◆質疑応答の様子

 池田の質問とそれに対する事業者の回答を以下に示す。

1.排ガスの拡散シミュレーションについて、地形を考慮した解析が行われているのか。  また、隣接する渋谷清掃工場など累積的・広域的な影響は考慮されているのか。風洞実験で模型を作成とのことだが、煙突から5kmの範囲の模型などは一般的につくらないと思うがどの範囲で模型を作成したのか。

 回答:東京都の環境影響評価技術指針に示されている予測モデル(プルーム・パフモデルを用いている。地形については、風洞実験で周辺地域6kmの範囲で模型をつくり、煙を出して流れを検証している。また、都や区の大気測定局のデータを解析していることから、問題ないと考えている。

2.今回のアセスメントを実施したコンサルタントの名前は?

 回答:株式会社 総合環境計画。

3.今回、建て替えに際して、焼却炉の規模は従来と同じ600t/日とのことだが、23区内の一般ごみは平成に入ってから減少傾向が続いており、今後人口も大きく増加しないことから、600tの規模が妥当なのかどうかについて検討が行われているのか、建設コストだけでなく維持管理費も大きく区民の負担となるがそうした点は検討されているのか。

 回答:一組が作成している一般廃棄物処理基本計画(27年2月改定)において、23区による共同処理という観点から600t/日の規模が必要であるとしている。他の工場が修理中、立て替え中には、他の工場で受け入れていく必要があり、同規模が必要と考えている。今後、平成40年度からは、新江東清掃工場や港清掃工場など大規模な清掃工場の建て替え時期に入るため、その期間の受け入れ先としても一定規模が必要。

 その他、廃プラスチック類の焼却に伴う水銀問題や、一般廃棄物処理基本計画を各区と一組の両方で作成していることの問題点などいくつも追求確認したいことはあったが、時間の制約で打ち切られた。こうした説明会では最低限、アセスメントに要したコスト、発注形態、受託業者名などは明らかにする必要がある。

 参加者には男性が多く参加されており、次のような質問が出された。

・大気汚染の影響範囲を半径1kmとした根拠はあるのか。
・雨水処理の工事中の対応はどうするのか。
・排ガスの拡散予測の調査はもっと詳細のものがあるはずだか。説明は簡単すぎる。
・各区の人口と工場ごとの処理能力との整合性がないようだが。清掃工場がない区のごみを目黒区でも受けているのか。その実態を明らかにすべきではないか。
・区によって分別、資源化の対策が異なっていることについてはどうなのか。不公平ではないか。
・清掃工場の地域貢献として煙突の上部に防災用のカメラを設置してはどうか。
・羽田飛行場の利用頻度がオリンピックを前に見直され、南風の場合にかなり低空飛行で目黒区上空を飛ぶことが明らかになっているが、煙突からの排ガスが飛行機の着陸によって影響をうけることはないのか。
・清掃工場の見学会は、夜にも開催するとよいのではないか。
・報告書では、調査を行っていることを示す写真をきちんと付けて欲しい。
・下請けに出している調査などは業者名を明らかにしてほしい。

 なかでも、23区の分別・資源化については、区によって対応が異なることが問題であるとの指摘に対して、平成25年度のデータの紹介があった。目黒清掃工場に持ち込まれる可燃ごみのうち、目黒区分は全体の40%、残りは、杉並区(24%)、世田谷区(18%)、品川区(7%)、渋谷区(5%)、中野区(4%)、新宿区(2%)となっているが、その中で世田谷はプラスチックの分別を行っていないとのことだった。

◆まとめ

 言い古されたことではあるが、アセスメントは事業者による事業者のための自作自演であり、国の法律から自治体の条例まで、旧態依然の予測モデルで非現実的な将来予測がまかり通っているため、現状の焼却炉の問題も、新工場の稼動に伴う問題も明らかにならないのが実態である。

 世界でも類例をみないほど、焼却炉が密集して立地している23区において、排ガス中のダイオキシン類濃度より一般環境大気中のダイオキシン類濃度が高いという欺瞞に満ちた行政による情報提供の矛盾、実態把握のいい加減さ、をどのように改善していくことができるのか、道のりは遠い。なによりも、説明会への参加者が20名ほどと少なかったことからも分かるように、区民の関心は低いのが実態である。

 参加者からは、廃プラの分別をしていない区のごみを受けているのなら、区内で分別するのは意味が無い、面倒だといった声もあった。

 23区のごみ処理は、区が分別・資源化、収集運搬、23区一組が中間処理、都が最終処分と役割分担している事による弊害は否めない。一組が自分たちの組織を維持するために焼却炉を更新し続けているのではないかとすら思えてくる。そこでは、コスト意識や区民の健康や環境への配慮が十分意識されず、政策に反映されることがないからである。

 そして、何よりも、区民の参加が限られ、住民が関与しにくい『一部事務組合』という自治体組織のあり方に根本的な問題があると思える。平成12年に、23区の清掃事業を都から区に移管した当時の事情はわからないでもないが、改めて23区の廃棄物政策は誰がどう責任をもって進めていくべきなのか、経済政策、環境政策を含めて考え直す時期に来ている。