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この春から青山貞一が受け持っている早稲田大学理工学部の「現代環境論」のなかで、昨日2012年6月11日、環境総合研究所顧問の池田こみちさんに特別講義をお願いした。 早稲田大学理工学部と理工学研究科(大学院)といえば、環境総合研究所の同僚、鷹取敦さんが学生時代を過ごした場所でもある。 特別講義のテーマは、1999年以降、現在まで続いている「市民参加による松葉ダイオキシン調査」である。 出典: 環境総合研究所 日本各地にある黒松の針葉(Pine Needle)を生物指標として大気中のダイオキシンを全国各地の市民が参加して採取し、環境総合研究所が事務局となり、カナダのトロント郊外にある分析機関が測定分析を担当する社会活動である。 早稲田大学理工学部で特別講義する池田こみちさん 撮影:青山貞一 「現代環境論」の講義で使っている教室は、早大理工キャンパスで最新の設備を持った新しい教室である。上の写真の右端の壁を開けるともう一つ同じ規模の教室がつながり、最大で500人規模の学生が受講できる。 撮影:青山貞一 この講義の狙いは、ひとつは「市民参加による環境調査」にあり、もうひとつは国や自治体ができない、しない高度な環境調査をNGO(非政府組織)である環境総合研究所が事務局となり第三者的な自主研究として行っていること、さらに調査費用を全国各地の市民ひとりひとりが負担していることである。その意味でもこの調査活動は、日本ではきわめて希有なものと言える。 しかも調査研究の分野は、生物学、化学、物理学、薬学など多岐にわたっているところに特徴がある。 撮影:青山貞一 下の写真は、松葉ダイオキシン調査のもととなった神奈川県厚木基地内での調査である。基地に隣接し劣悪なダイオキシン汚染を排出することに米国政府が日本政府に調査を依頼したが、当初、対応する法律がないとして断ったことがきっかけとなり、米国政府が産廃焼却施設相手に民事の操業差し止め仮処分を提起した。その際、環境総合研究所に調査をそして裁判を友人の梶山正三弁護士らに依頼してきた。 下の写真は、厚木基地内で松葉を採取する池田こみちさん。後ろにいる男性は、左側が米国の環境弁護士、右側が梶山正三弁護士(理学博士)である。 厚木基地内で松葉を採取する池田こみちさん 撮影:青山貞一 この調査は、産廃施設から出る排ガスをヘリコプターを使い上空から撮影するなど大々的なものとなった。下の写真はヘリで飛び立つ前に安全についての説明を受ける青山貞一。 ヘリを使った調査について安全説明を受ける青山貞一 撮影:鷹取敦 以下は厚木基地内で行った大気中のダイオキシン測定結果と松葉を使ったダイオキシン測定の結果の比較である。 出典:環境総合研究所 厚木基地の裁判は実質勝訴し、産廃施設はすべて撤去された。 この後、松葉を生物指標とした大気中のダイオキシン調査は全国規模で市民参加により行われることになった。 下は1999年から2001年にかけて行われた九州、中国地方の松葉ダイオキシン調査の結果である。ダイオキシン分布図中、赤系の色が濃度が高い地域、紺系の色が濃度が低いところである。測定分析結果をもとに市民団体が自治体に各種の政策提言を行いわずか3年間で大幅に環境が改善されて行くことが見て取れる。 この九州、四国地方の調査は、環境生協であるグリーンコープが中心となり若いお母さんらによって行われた。 九州、中国地方の松葉ダイオキシン調査の結果の一部 下の記事は、2002年2月6日の朝日新聞の科学欄に大きく掲載された首都圏の松葉調査結果である。この時点で全国で4万人が参加していたが、現在までに約10万人の市民が参加している。 この首都圏の調査は、環境生協である生活クラブ生協が中心となりやはり若いお母さんの参加で行われた。 2002年2月6日の朝日新聞の科学欄に掲載された松葉調査 池田こみちさんと私は、市民参加による松葉ダイオキシンの測定結果を英語の論文にして国際ダイオキシン会議で発表し続けた。下の写真は最初に発表したお隣の韓国慶州(、キョンジュ)で開催された国際会で口頭発表する池田さんである。 本来、国や自治体がすべき全国規模の調査を市民参加、しかも費用も自分たちで負担しての調査結果に参加した欧米、アジアの研究者が驚嘆し、質問ぜめとなったことを思い起こす。 韓国慶州(、キョンジュ)で開催された国際会で口頭発表する池田さん 撮影:青山貞一 今の早大理工学部には女性の学生全体の25%程度おり、熱心に池田さんの特別講義に聞き入っていた。大いに奮起しミッション、パッション、アクション有る池田さんのような研究者になってもらいたいものだ。 |