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平成二十八年

丙申の池田社中初釜

無事終了

池田こみち(宗蹊)
掲載月日:2016年1月11日
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※ 独立系メディア E-wave Tokyo 茶道 文化

 暖冬の年明けとなりましたが、みなさま佳いお年をお迎えのこととお慶び申し上げます。国内外の政治情勢は昨年来、各地で不穏な動きが相次ぎ、新たな中東戦争や世界大戦へと進みかねない状況となっております。国内でも暖かいのは気温だけで経済も人心も冷たくすさんだニュースも多く流れました。

 そんな中ではございますが、お陰様で丙申年の今年も無事に社中十名での初釜を滞りなく、いつも通り執り行うことが出来ましたことは大変有り難いことでございました。母の代から永年続けてきた同じ料理をひとつひとつ時間をかけて準備し、お正月にふさわしい華やかでお目出度い道具組で、きちっとした初釜ができ、社中一同もまた一年、気を引き締めてお稽古に励む心構えができたと思います。同時に、心静かに永年一緒に茶道に親しんできたお仲間と一緒に穏やかな時を過ごし改めて平和の大切さ、有り難さを感じることもできました。

 一緒にお稽古をみて呉れる八十五歳の叔母が、唯一戦争の体験者ですが、戦後再び茶道に親しめるようになるまでの苦労話は今では貴重なものとなっています。

 初釜の手順は毎年同じですので、ここでは割愛させて頂き、今年の道具組について、少しだけご紹介させて頂きます。

■掛け物

 玄関には、五節句の最初の節句である、「人日(じんじつ)」の軸を掛けました。本来は1月7日を「人日」とし、七種粥を食べることから七草の節句ともいいますが、お正月ということで、富士山、凧揚げ、松飾りなどの画がお客様をお迎えします。

 寄付(よりつき)には、昨年暮れに八十七歳で亡くなられた表千家教授 山下恵光宗匠の筆による「春風 弄新陽」(春風、新陽をもてあそぶ)という色紙を軸に表装したものを掛けました。これは二回り前の申年(平成四年壬申)に書いて頂いたもので、私も一時期お教え頂いた山下宗匠を偲んで掛けさせて頂きました。

 本席には、毎年お馴染みの先代表千家家元即中斎宗匠による「鶯 春入千林」です。これは、表千家家元には元伯宗旦居士の揮毫になるこの句の軸が伝えられており、家元の初釜の床に掛けるのを恒例としていることから、我が家でも毎年、初釜には欠かせないお軸となっています。今年は京都のお家元でも1月10日から初釜が始まったようでした。

◆茶道表千家で初釜始まる 上京区の不審菴 朝日新聞(京都)
http://www.asahi.com/articles/ASH1B4J2DH1BPLZB005.html


 写真 1 玄関


 写真 2 寄付


 写真 3 本席

 その他、床の間には、爪紅の桂盆に白い小石を敷いて「コウネンキ」を飾り、琵琶床の奥の柱には薬を入れた「カリロク」を掛け、花入れは青竹に結び柳、蝋梅、椿を飾ります。みずみずしく芽吹いた柳のしなやかな枝振りにも春を感じます。また、既に満開となっている蝋梅の香りもお座敷を満たしました。


 写真 4 床飾り全体

■道具組

 毎年、初釜では、4つの大棚を交替で使用しています。今年は及台子(きゅうだいす)を用いました。及台子には木地のもの、真塗りのものなどいろいろありますが、今回使用したのは宗旦好みの青漆爪紅の艶やかなものです。これは、宗旦が東福門院(徳川秀忠の五女和子、後水尾天皇の中宮)へ献茶の折に好んだものといわれています。

 棚には、水指・杓立て・建水・蓋置きがセットになっている「皆具(かいぐ)」を用いました。華やかな源氏香の柄をちりばめた仁清写し(真葛焼)です。それに合わせて炉縁にも柳桜蒔絵を用い、お正月らしさを演出しています。


 写真 5 棚の皆具


 写真 6 炭点前(炉縁は柳桜蒔絵)

■香合

 初炭で用いる香合は「ブリブリ」(振り振り、夫利婦利とも書く)。これはもともと車と紐をつけ子供が引っ張って遊ぶおもちゃだったものを、江戸中期に活躍した表千家六世家元覚々斎が香合に好まれたとされています。 家のものは、奈良彫りで蓋には高砂と松竹梅の絵があり、全体が金色に塗られた派手やかなものですが、ご夫婦の円満長寿、家族の健康を願うものとしてお正月に用いられます。焼き物でも同じ形、同じ絵柄のものがあります。


 写真 7 羽、香合

 後炭では、干支に因んで、萩焼きの三番叟を用いました。


 写真 8 萩焼三番叟香合(灰器の上)

■茶入れ、茶杓

 濃茶に用いる茶入れは、信楽焼の灰被り、銘「寿山」を用いました。大ぶりなので毎年これを使っています。銘もお目出度いのでお正月にふさわしい茶入れです。茶杓は、即中斎宗匠の「松の翠」でした。

 薄茶に用いた棗は、梨地に海老の蒔絵を施した大棗。茶杓は大徳寺浩明和尚のご銘で「瑞鶴」を用いました。

 いずれの組み合わせも、お目出度い取り合わせでお正月ならではです。


 写真 9 濃茶点前と三器拝見挨拶


 写真10 濃茶点前と三器拝見挨拶


 写真11 薄茶点前 

 その他、茶碗も、濃茶には、内側を金銀に塗った紫野窯の「重ね茶碗島台」、薄茶には、「曙」(楽)を主に、替え茶碗には、乾山写し「寒牡丹」(永楽)、乾山写し「南天に雪」(永楽)、「初音の坂」(真葛)、「紅白梅」(八事焼)、「三番叟」(志野焼)、「括り猿」(永楽)などを用いました。干支の茶碗は12年振りにお目見えでした。

 このように、茶道では、その季節、時候はもとより、茶会の趣旨に合わせて、お客様をもてなすための道具を揃えて楽しみます。亭主の心を理解し、客同士、亭主と客が楽しい会話を楽しむことも茶道の愉しみであり、まさに歴史と文化、絆を感じるひとときでもあります。道具は使い続けてこそ価値があると思います。茶道を通じて日本の奥深い伝統工芸も連綿と今に伝わっているのです。

 東京の片隅での小さな行事ではありますが、我が家の無形文化財としてこれか
らも料理も続けて行ければと思っております。


 写真 12 煮物腕(初釜の懐石料理のメインディッシュ、鴨しんじょうと
       梅花にんじん、亀甲椎茸、松葉牛蒡、筍、菜の花、扇面柚子)

お粗末様でした。


(完)