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動物虐待のない世界へ 
シンポジウムに参加して


池田こみち
環境総合研究所顧問
掲載月日:2016年9月26日
 独立系メディア E−wave Tokyo  無断転載禁


 2016年9月23日金曜日、午後2時半から5時半まで、衆議院第一議員会館大会議室において動物愛護週間のイベントの一環として、下記シンポジウムが開かれました。筆者は、ボランティアとして、サンフランシスコから参加されるゲストの当日通訳及び、講演原稿の翻訳をお手伝いすることになりました。

・会 合 名 「動物虐待のない世界へ−動物と人の未来を考えるサミット」
・主 催 者 非営利一般社団法人 日本動物虐待防止協会 http://www.nipponspca.com/
・開催場所 衆議院第一議員会館大会議室

・プログラム

  第一部 「大震災発生−その時ペットは?」
        震災報告基調講演 熊本在住獣医師 徳田竜之介先生
        
  第二部 「米国動物虐待防止の取り組み」
        サンフランシスコのアニマルポリスと犬裁判所
        巡査部長 シェリー・ヒックス氏
        調査官・裁判官 ジョン・デニー氏

  第三部 パネルディスカッション
        「動物虐待のない未来にするには?」
      パネリスト
         デヴィ婦人 
         藤野真紀子氏(元衆議院議員)
         鶴田真子美氏(特定非営利活動法人CAPIN代表)
         徳田竜之介氏(獣医師)
      コーディネーター 
         藤村晃子氏(非営利一般社団法人日本動物虐待防止協会代表)

 当日は、悪天候の中でしたが、300名ほどが参加され三時間に亘るシンポジウムに熱心に耳を傾けられました。ここでは、第二部のサンフランシスコの取組について、来日されたお二人のお話をご本人並びに主催者の了解を得て掲載いたします。当日は時間の関係で十分なお話しをお聞きすることが出来ませんでした。

 サンフランシスコは全米でも動物愛護、動物虐待への取組が最も進んだ州として知られており、アニマル・ポリスの活動は全米のみならず、世界的にも有名になっています。動物への虐待、ネグレクトの定義を法的に明確にするだけでなく、人の犯罪取り締まりや裁判と同じように、対応する組織・仕組みが出来ています。

 その背景には、動物虐待をするような人は、子供や高齢者など人間の弱者に対する犯罪を引き起こしかねないというFBIによる調査結果があります。人とペットが狭いエリアで共存し安全に快適に暮らすためには欠かせない社会の仕組みであり制度であると言えます。お二人の講演からその実態を理解して頂ければ幸いです。

1.サンフランシスコ警察巡査部長 猛犬・危険犬担当部門 
  シェリー・ヒックスさんの講演
  @お仕事の概要について PDF
  A講演 PDF


出典:非営利一般社団法人日本動物虐待防止協会提供

2.サンフランシスコ警察 猛犬・危険犬裁判所 調査官・判事 
   ジョン・デニー氏の講演

  Bお仕事の概要について PDF
  C講演 PDF


出典:非営利一般社団法人日本動物虐待防止協会提供

 なお、以下の動画は会場で流される予定でしたが、これも時間がなく割愛されましたので、ご紹介しておきます。2015年9月26日に放送された「サンフランシスコ犬裁判所」を紹介する番組です。動画の内容を日本語化した資料も作成しましたので、それもご紹介しておきます。人への犯罪の容疑者を裁くのと同じように、被害者、加害者双方から事情を聴取し公平に取り調べを行っている様子がわかります。

 Dアニマルポリス動画 内容PDF
   https://vimeo.com/146826171

DogCourt_FINAL_26SEPT2015_LOWRES from Jackson Front on Vimeo.



まとめ

 日本でも動物への虐待事例が多く報道されていますが、マスコミで取り上げられるのはごく一部であり、日々、全国各地で多数の虐待事案が発生しています。悪質ブリーダーの残酷な子犬、子猫の繁殖、ネグレクト。生体動物の店頭販売やネットオークション。一般飼い主のネグレクト(水や餌を与えず、運動もさせず、ケージに入れたまま衛生環境も悪く病気を放置しているなど)も多数報告事例があるようです。

 そうした事案を発見して警察や行政に通報しても、現状では適切な処置がされず、問題解決に至らないのが日本の実態です。ペットを個人の財産とみなす、現行法律の定義も動物をすくう上でネックとなっているようです。法律の不備、対応する部署がないなど責任の所在の曖昧さ、国民の意識の低さなど問題は多岐に亘りますが、サンフランシスコの例から学び、少しでも現状を改善できる制度の構築に繋がればと思います。

 今回、ご縁があって、はじめて動物愛護の市民グループの活動をお手伝いしましたが、3.11の大震災や熊本の震災においても、ペットと共に避難することの困難さ、ペットを失った被災者の苦悩などの事例をみるにつけ、今は家族の一員だけで無く、社会の一員ともなっている、ペットをどう保護するのか、また人と一緒に避難させるのかといった検討は緊急な課題です。また、日頃からの動物の保護、愛護、虐待防止などについてどのように子供達に教育し、また、社会の共通認識としていくのかといった検討も必要です。

 関連法制度の整備に向けて、市民も陳情や署名活動を展開していますが、法律制定過程にいかに市民が適切に参加・関与し、意見を反映させていくかが重要なポイントです。まずは、現状の問題点について、市民が声を上げ、現状の制度の不備を「大きな声で」訴えていくことが大切です。シェリーさんは次のように指摘していました。

 「子犬や子猫を早く親から離していけないというの問題について、8週齢というのは最低限の期間です。良いブリーダーは15週間までは親から離しません。また、生体の動物をお金のために売ることもしません。生体動物を売るという行為そのものが、悪いブリーダーを見極めるポイントです。犬や猫は、早く親や兄弟(姉妹)から離されると、社会性が育たず、成犬・成猫になってから凶暴性が強かったり吠え続けたりする問題行動を起こしやすくなるのです。」

 最近の猫ブームで子猫を販売するペットショップが増えていますが、保護された成犬や猫でも十分に人間のパートナーとなるので、子犬、子猫のみが商品価値がある、人に懐くといったまちがった考えを改める必要があります。サンフランシスコでは、生体動物を販売するペットショップは市民に受け入れられなくなっています。ペットショップでは、保護された犬や猫を店頭で紹介し里親への斡旋に協力するようになっています。そうした日が日本にも来るのはいつの日か分かりませんが、その日に向けてそれぞれができる活動、情報発信を続けていくことが必要です。

  国会で国の法律を整備することも重要ですが、都道府県や市町村が独自に条例を設けることもできるはずです。札幌市は2016年10月1日、動物の福祉の向上を全国で初めて掲げた「札幌市動物の愛護及び管理に関する条例」を施行します。

  飼い主がイヌやネコを譲渡する場合でも生後8週間は親子を離さず飼育してからにするよう求めるほか、イヌ・ネコ合わせて10頭以上を飼うときには市への届け出を義務付ける、などが定められます。市民の動物への愛護意識を高めるのが狙いとのことですがこうした議会の動きは注目に値します。是非、東京都やその他の自治体でも国に先駈けて取り組みを進めて欲しいものです。