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静岡県三島市における
がれき問題講演会
開催記
池田こみち 環境総合研究所顧問
掲載月日:2013年2月14日
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 がれきの広域処理がほぼ年度末で収束する見通しが明らかとなった後、初めての瓦礫広域処理問題学習会が、静岡県三島市で開催された。東京は北風が冷たい朝だったが、新幹線で三島駅に降り立つと、暖かい日差しがあふれ、コートやショールを脱いで歩けるほど春を感じる好天に恵まれた。

 会場は、三島市立図書館に併設された生涯学習センターの多目的ホール。立派なホールの割にはスクリーンの設備がなく、移動式のスクリーンはやや小さくて残念だったが、50名弱の市民が三島市やその近郊の町から参加して下さった。



 冒頭、主催者側からご挨拶があった後、静岡県内のがれき広域処理受入の現状について司会を務めた「三島自然を守る会」事務局の森田悠馬さんから次のような説明があった。


図1 静岡県の地図 

◆静岡県における瓦礫受入の現状について
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 今回の瓦礫受入について、静岡県では、西から浜松市、三島市、静岡市、富士市、裾野市の5つの町で受入を行っています。ここ三島に一番近いのは裾野市。

 当初の予定(契約)では、岩手県から23,500トンの木質系瓦礫を静岡県内に運び、1年半かけて平成25年度末までに処理することとなっていましたが、それが今年の3月(平成24年度末)で打ち切りとなり、それまでに処理する量は3,500トンと当初予定より2万トンも少ないことがわかりました。

 そもそも当初予定の23,500トンのがれきは、現地(岩手県内)で処理したとすると、岩手県では1日に1,190トン処理しているので、3週間足らずで処理が出来る量です。ましてや計画見直し後の3,500トンを岩手県内処理のたった3日分に過ぎません。それを静岡県はおよそ1億5000万円の予算をとって、膨大な費用を掛け、遠くまで瓦礫を運び、県内の市町村で処理しようとしている訳です。


三島講演会の池田こみち講演スナップ

 今回の処理については、一般廃棄物の中に被災地の瓦礫を少しずつ混ぜて処理することになっているので、受入による新たな処理費用は実質的には発生しません。それにも拘わらず、今回のスキームでは、1トン当たり2万円〜3万円以上という処理費を請求しています。

 そのため、この処理費がまるまる自治体に入ってくることになり、これは利権構造に他ならないと思います。これでは被災地の支援にならないと私たちも主張し訴えて参りました。それなら1億5000万円を直接被災地に援助した方がよいと。

 これ以外にも様々な放射性物質や化学物質の汚染の拡散の問題もあるにも係わらず、それらの調査はほとんど行われないまま瓦礫が運ばれてきていることにも疑問を感じます。



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 森田さんの説明についてもう少し補足すると、受入を行っている静岡市、浜松市の焼却炉はガス化溶融炉タイプのもので比較的新しく処理能力も大きいのだが、裾野市、富士市の焼却炉は規模も小さく、バグフィルターも付けられていない県内でも古いタイプの焼却炉である。裾野市に至っては受入量はわずか86トン、現地で処理すれば数時間で処理が終わる量である。

 通常、瓦礫の焼却を受け入れるかどうかの判断においては「受入余力があるかどうか」「焼却灰の埋立処分場について問題がないか」がもっとも重要なポイントである。それにも拘わらず、焼却炉の規模が小さく、処分場の余力もないところが手を挙げること自体、疑惑を持たれても仕方がない。

 また、いち早く瓦礫受入に手を挙げた島田市では、最終処分場の地権者の協力、合意が得られていないために焼却灰の搬入が滞り、遂に桜井市長は搬入を妨害しているとして、妨害行為の禁止を求める仮処分を静岡地裁に申し立てるという暴挙に出た。

 明らかに必要性がなく、経済性や環境面からの妥当性もなく、受入に係わる手続きや手順に正当性がないと言わざるを得ない。

 静岡県民は今年度末で瓦礫の受入が終わることで追求の手をゆるめるのではなく、この間、環境省・岩手県・静岡県・受入自治体5市の間でどのような議論がなされ何を根拠に受入を行うこととなったのか、お金の流れを含めて検証していくことが必要だ。

 聞くところによると、裾野市や富士市は新たな処分場建設のための補助金が喉から手が出るほど欲しかったという。そのために瓦礫の受入に手を挙げたのであればこれほど被災地に失礼な話はない。また、納税者を騙す偽善であると言える。

 もっとも瓦礫の受入を検討しただけで受け入れなくても補助金が出たという、この国の公費の無駄遣いぶりは、もはや付ける薬がないほどの酷い状態であることは間違いない。



 瓦礫の処理に群がったのは、がれき量の推計を行った土木系コンサルタント、処理を一括請負したゼネコン各社、住民に安全神話を刷り込むための膨大な分析を請け負った分析機関、通常の何倍もの高額で瓦礫を運んだ運送業界など枚挙にいとまがない。もちろん、仮設焼却炉を建設を請け負った大手プラントメーカーも含まれる。



 もっとも怒りを覚えるのは、この機に乗じてごみ処理のための事務費や固定費ががれき受入によって支給されることを当てにした基礎自治体である。各地の県議会や市町村議会も全く機能不全だった。さらには、広域処理が必要だという情報誘導を熱心に行ってきたマスメディアも忘れることは出来ない。その費用は二年で24億円にも上っている。

 がれき問題はこれで終わりではなく、2年で1兆800億円もの巨費を投じて何が行われたのか、第三者的な組織、メンバーで検証を行うことが不可欠である。そして、各地でどのようにお金が動いたのか、自治体や業者が動いたのか、市民からの現場の情報を集約していくことも必要である。



 そこでも本来ならメディアが実態を明らかにしていく役割を担っているが、この国では到底期待できない。市民が自ら情報発信し、連携してこの国の腐敗を暴いていく以外にない。そもそも、瓦礫の広域処理が必要なかったことについて、メディアから一言の反省や総括的なコメントも出されていないことが、それを物語っている。

 この間、がれき問題の講演会、学習会で、各地の市民団体と接する機会を頂いたが、明らかに市民の感覚、意識は目覚めてきていると感じる。これを踏み石にできるかどうかは、私たち日本人の意思と行動とにかかっている言っても良いだろう。

 最期に、今回の講演会を主催した市民グループから三島市を中心とする東静岡の市民性について興味深い情報を頂いたので紹介しておきたい。


<三島界隈の歴史と特徴について:森田さんから>

 三島界隈はとても珍しい地域です。過去にコンビナート建設を阻止するなど元来環境活動が盛んな地域なようです。三島からすぐの僕の住んでいる韮山というところも、日本では珍しく改革者などが多い土地のようです。歴史的にも元来静岡東部は韮山県という自治体でして、後に三島に代官所が移るのですが、韮山と三島はとても面白い地域です。

 「三島自然を守る会」の取り組みの一番は、ミシマサイコと呼ばれる漢方薬の原料の野草の保護です。世界でここにしか自生していないと呼ばれる野草で絶滅危惧種です。元々韮山が発祥地であり、ミシマの宿場で旅人の病気改善で飲まれていたためミシマサイコとなりました。

 今後三島界隈は、東北の方々の避難の受け皿になってくると思います。何としてもこれ以上汚染をさせないように取り組んでいきたいです。先生のご活躍で国の行っているおかしさに気がついた方もたくさんいます。本当にありがとうございます!!とてもストレスのかかる社会構造ですのでお体には十分お気をつけ下さい。


絶滅危惧種ミシマサイコ  出典:Wikipedia