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松葉を使った
宇都宮市中心に建設された
産廃焼却炉の監視活動
〜ダイオキシン・重金属汚染〜
池田こみち
環境総合研究所(東京都)
掲載月日:2013年4月1日
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 栃木県の県庁所在地として人口51万人余を擁する宇都宮市は新幹線を利用すれば東京からも1時間足らずの通勤圏にあり、今も発展を続けている。

 また、宇都宮は、日光、那須塩原、そして東北への玄関口として交通の要衝であり、商業業務の中心地、餃子の町としても有名である。

 その宇都宮駅から東に2km余り、道が空いていれば車で5分ほどのところに、平出工業団地がある。同工業団地は昭和41年に造成を終え、栃木県の発展を促すために、製造業の誘致を進めてきた。

 現在では、100社以上が進出する県内有数の工業団地となっている。開発当初、この区域の工場は,原材料及び製品等の輸送が鉄道や自動車によらなければならないことから、内陸型工業としての機械工業、特に、一般機械及び電気機械、化学工業、鉄鋼業、衣服身廻品製造業、食料品工業、印刷、木工業、紙製品及び玩具工業等が適正業種と想定され、これまで廃棄物の焼却工場などは一社も進出していなかった。

 工業団地の概要については、以下を参照のこと。

 ●一般社団法人 宇都宮工業団地総合管理協会 Webサイト
 
 この工業団地は、東西は国道4号と4号バイパスに挟まれ、南側は宇都宮市を東西につなぐ県道64号に接している。その県道64号を挟んで、わずか1km以内のエリアに宇都宮市内の主要な複合商業業務施設ベルモール(スーパー、大型家電量販店、スポーツクラブ、TOHOシネマス、天然温泉施設など)と宇都宮大学、高層住宅、既存住宅地などが接している地域でもあり、週末には交通渋滞がおこるほど市民が集まるレクリエーションゾーンである。


地図1 宇都宮市広域図


地図2 立地地域周辺ズームアップ図

 問題となっている産業廃棄物焼却施設は、平出工業団地の南端に近い位置で操業している、栃木県木材リサイクルセンター工場の敷地内に、既に完成していた。既にプラント建設が終わっているその産業廃棄物焼却炉とベルモールの距離はわずか600m程と近い。


写真1 産廃焼却炉の写真(池田撮影 2013年3月17日)

この間、周辺住民の反対はあったものの、宇都宮市の設置許可が下り稼働が目前となっている。

 ●平出産廃建設の白紙撤回を求める会
  
 ●平出工業団地の産業廃棄物焼却施設について(宇都宮市)
    
 筆者は、2012年5月に宇都宮大学で開催された市民グループ主催の災害がれきの広域処理の問題についての学習会に出かけた折、参加された市民の方からこの問題についてはじめて相談を受けることとなった。

 反対運動を続けてこられた周辺住民の方々の話を聞いてみると、現地では、既に建設が終わり、周辺住民(プラントから300mの範囲とされている)との協定の締結が始まろうとしている段階とのことで、まずは、稼働前の環境の状況を把握しておくことが重要であることから、クロマツの針葉を生物指標としたダイオキシン調査を提案することとした。

 そして、2012年12月11日に建設されたプラント周辺おおむね500mの範囲からクロマツを採取し、ダイオキシン類(PCDD/PCDF/Co-PCB)と金属類12項目の測定を行った。

 結果は、下記の通り、稼働前の工業団地周辺の松葉1g当たりのダイオキシン類濃度は、0.86pg-TEQ/g(WHO方式)となり、大気中ダイオキシン類濃度の推定値は0.086pg-TEQ/m3と評価された。行政が大気をサンプルとして測定するダイオキシン類濃度に比べて高いものの、著しい焼却由来の特徴は見られないことがわかった。


結果1 ダイオキシン類測定結果(松葉)
 

結果2 大気中ダイオキシン類推定値


 結果3 PCDD/PCDFの同族体パターン図

 また、同時に測定した金属類12項目の測定結果についてみると、12項目の内、ヒ素とクロムについては不検出となったが、その他の項目については、濃度が検出された。今後、これらの金属類とダイオキシン類の濃度がどのように変化していくかがが注目される。

 金属類の濃度について、他地域の調査結果と比較してみると、愛知県内の住宅地周辺地域の調査結果と比べると、宇都宮市平出工業団地周辺の濃度は鉛の濃度がやや高く構成比でも突出していることがわかった。なお、ここでは、植物にとって必須元素である、銅、マンガン、ニッケルは除外して評価している。


結果4 濃度比較


結果5 濃度構成比比較

 また、埼玉県内の廃棄物焼却施設が集中する寄居町の「彩の国資源循環工場」敷地内及び周辺地域の調査結果と比較すると、平成12年度の結果で見ると、平出工業団地周辺は、循環工場周辺の寄居町・小川町の農村地域と比べて高いものの、現状では工場の敷地内よりはやや低めであることが分かった。


 結果6 濃度比較


 結果7 濃度構成比比較

 松葉によるダイオキシン類、金属類の調査を行ったことにより、周辺住民の関心も高まり、操業開始後の産廃焼却施設への監視の目が一層厳しくなることは必然であり、大きな抑止力となることが期待される。



 宇都宮大学のセミナールームで開催された報告会には、予想に反して周辺町内会自治会長はじめ大勢の方が参加され熱心に説明に耳を傾け、また、今後の活動方針などについての議論も盛り上がった。

 この問題については、まだまだ市民の関心が低いが、今後試験焼却が開始され、常時煙が目に付くようになればベルモールで買い物やレクリエーションを楽しむ市民の目も変化してくることと思われる。市民が科学的なデータをもって市民運動を展開することの重要性について、今後
に期待する声が多く聞かれた。




写真2 報告会会場の様子

 工業団地内とはいえ、初めて食品工場の目の前の産業廃棄物焼却施設立地を許可した宇都宮市の今後の対応に注目していきたい。また、事業者自身が周辺地域住民に対して、どのように真摯に接していくのかにも注目したい。

 現状では300mまでの住民・町内会が近隣住民として協定締結協議の範囲としているようだが、一度稼働を開始すればその影響はより広い範囲に及ぶ可能性がある。開かれた場での丁寧な説明や議論と透明性のある情報提供を心がけて欲しいものである。