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日本の廃棄物処理の現状と課題


池田こみち Komichi Ikeda
環境総合研究所(ERI 東京都目黒区)
Environmental Research Institute, Tokyo

掲載月日:2015年4月16日
 独立系メディア E−wave  
無断転載禁


 2015年1月末に環境省が発表した「一般廃棄物の排出及び処理状況(平成25年度)」の報告内容について、概説するとともに、日本の廃棄物処理の現状と課題をまとめてみました。

 こうした政府の報告書をどう見るか、立場によって異なるとは思います何よりも納税者であり、ごみの排出当事者である国民の視点から考察することが重要です。文中の図はいずれも同報告書から引用したものです。


1.ごみの排出量

 日本のごみの総排出量は、平成20年度に年間5000万トンを切って以来漸減し、25年度には4500万トンを下回りました。


図1 ごみ総排出量の推移

 ごみが減少しているのは、人口が減っていること、そして、市民の意識が高まっていることが大きな理由です。


2.ごみ排出先(事業系、家庭系、集団回収)の内訳

 一般廃棄物がどこから排出されるかをみたものです。10年前から大きな変化はありません。事業系一般廃棄物が約30%、家庭系が65%です。平成15年度から25年度の11年間で、事業系廃棄物は23%減少しているのに対し、家庭系廃棄物は15%の減少にとどまっています。一方、集団回収により収集されるごみの量は減少しています。

 集団回収が減ったということは、資源として回収されず、ごみとして収集される量が増加したということを示しており、「なんでも燃やせる、燃やす」という焼却依存の傾向が強まっていると言えます。


図2 生活系ごみと事業系ごみの排出量の推移


3.処理方法別処理量の推移

 次に、収集されたごみがどのように処理されているかです。下図の通り、この11年間で、排出されるごみが焼却処理される割合は78%から80%へと少しずつ増加しています。一方で、資源化等のために中間処理される量や直接資源化される量はまったく増えず、減少傾向を示しています。一方、埋め立て処分量は69%も大幅に減少しています。


図3 ごみの総処理量の推移

 国や自治体にとって、処分場の延命化が重要課題であるため、廃プラなどの焼却処理が進み、焼却量が増加しています。それによる環境影響については、ほとんど真面目に調査も検討もされていません。松葉を生物指標とした市民参加による調査では、廃プラ焼却後に大気中のダイオキシン類濃度や水銀等の濃度が悪化していることが明らかになっています。


4.資源化についてみると

 焼却依存度が高まる中、リサイクルの進展はどうなっているでしょうか。(直接資源化量 + 中間処理後再生利用量 + 集団回収量)の合計量は、平成20年度までは微増していましたが、その後は年々資源化が減ってきています。そのため、リサイクル率は、この11年で17%から21%へとわずか4%しか増加していません。


図4 総資源化量とリサイクル率 注10) の推移

 排出されたごみの80%以上が「減容」のために焼却されると資源化、リサイクルは進みません。



 リサイクル率は上の式で算出されますが、集団回収のごみ量は、分母と分子の両方に入っているので、それを切り捨てると実際のリサイクル率はもっと低くなります。

 集団回収はもとから資源として集めているのでそれを加えるのは問題です。
せっかく家庭で分別しても最終的に焼却施設に持ち込まれることにもなりかねません。


5.ごみ焼却施設は

 平成15年度から25年度までの11年をみると、ごみ焼却施設(直接焼却、ガス化溶融炉、炭化炉、その他)の合計施設数は、1396施設から1172施設へと224施設減っています。しかし、直接焼却炉が273施設減っている一方で、ガス化溶融炉は49施設増加、炭化炉が4施設増加、その他が6施設増加しています。


図5 ごみ焼却施設の種類別施設数の推移

 1993年(平成5年)当時は1854の焼却施設があり、世界の7割の焼却炉が日本に集中していると言われていました。今でも世界における焼却炉の集中度は日本が一番だと思います。ただ、プラントメーカーは政府と一緒になって途上国を中心に焼却炉の売り込みを行っていますのでじわじわ世界における焼却炉の数は増加していると思われます。


6.ごみ焼却施設の処理能力は

 ごみ焼却施設が全体で224施設(16%)減少しているにも拘わらず、処理能力は、この11年間でわずか11,000トン/日の減少に過ぎず、減少率は5.6%に過ぎません。焼却炉が減った分、ガス化溶融炉が大幅に増加し、処理能力を補っています。


図6 ごみ焼却施設の種類別処理能力の推移

 焼却炉の大型化、ガス化溶融炉化、灰溶融炉導入などが進めば、その分だけトラブルも増加し、メーカーへの外部委託・依存度も増加するのでコスト的には増加します。


7.焼却炉の規模は

 国内の焼却炉を規模別に見ると、100〜300t/日の規模が最も多く、次いで30t/日未満と、規模が小さい焼却炉が多くなっています。


図7 ごみ焼却施設の規模別施設数

 合併や広域連合、一部事務組合等のもとでのごみ処理施設の大型化が進んでいますが、まだまだ小規模な焼却炉が多いのが実態です。

 環境省の「循環型社会形成推進交付金制度」のなかに、「廃棄物処理施設における長寿命化計画策定支援事業」というメニューがあり自治体はその制度を使って、古い焼却炉の延命化を計ることができます。それは、プラントメーカーにとってこの上ない美味しい仕事となります。埼玉県所沢市では、東部クリーンセンターの長寿命化に100億円もの工事費がかかることが明らかとなり議会でも問題視されました。


8.焼却炉の余熱利用

 現状では、余熱利用をしている焼却施設は全体の66%、利用していない施設が34%となっています。

 環境省は交付金(以前は補助金)を出すに際し、「高効率発電施設」であれば、補助金を上乗せするとしているので、全国何処でも国の交付金を利用した焼却炉は発電が必要となります。


図8 ごみ焼却施設の余熱利用の推移

 小さい規模の焼却施設では余熱利用が出来ないため、更新時に大規模集約化し、高効率発電を条件に補助金を出しています。小型焼却炉では効率的なごみ発電はできません。ごみ発電のためにごみが将来にわたって安定的に必要となるというのは、どこが循環型なのか理解に苦しみます。事業者の生産者責任はどう問われるのでしょうか。


9.ごみ焼却施設の発電の状況

 平成25年度時点で、発電施設数 328 、総発電能力 1,770MW であり、発電効率は平均で12%となっています。総発電電力量 7,966 (GWh)で240万世帯分とされています。平均で、発電効率がわずか12%のごみ発電のためにかかっている費用は膨大です。発電しているごみ焼却施設の運転にも膨大なエネルギーが必要となります。ごみ発電をしている焼却炉全体の70%が発電効率15%未満です。


図9 ごみ焼却施設の発電効率別の施設数

 人口の集中する大都会ならまだしも、北海道から沖縄の過疎地域まで一律の「高効率発電施設」という偽名の下に焼却炉を作り続けるのは愚の骨頂です。どこが「高効率」なのか疑問です。


10.最終処分場の状況

 焼却強化とガス化溶融炉の導入、灰溶融炉の導入により、最終処分量は順調に減少しています。結果として最終処分場の延命化が進み、全国の最終処分場の残余容量は、この11年間漸減し、145百万立方メートルから107百万立方メートルに減っていますが、その一方で残余年数は14年だったものが19年まで増加しています。


図10 最終処分量の推移


図11 一般廃棄物最終処分場の残余容量と残余年数の推移

 ごみは燃やして灰にして、少しずつ長く埋め立てるということでしょう。灰溶融炉でスラグにしても、利用先は限られていますので、費用をかけてスラグ化することが妥当な方策かどうか疑問です。

 循環型社会推進形成交付金のなかの「最終処分場適正処理事業」は、古い処分場を掘り返し、掘り出したごみを焼却して灰を溶融することにより、埋め立て容量を増やし延命化しようという事業も含まれます。その中には安定型処分場を管理型処分場につくりかえる事業も含まれています。しかし、そうした「適正化」や「改良」事業による副次的な環境影響については、まったく考えられていません。過去に埋めた廃棄物を掘り起こしたり、掘り起こした廃棄物を焼却処理することによる有害物質の排出について、環境省も自治体も非常に無頓着です。


11.ごみ処理経費

 全国のごみ処理経費は10年ほど前までは、2兆円前後かかっていましたが、ダイオキシン対策が一段落したこともあり、この11年間では漸減し、1兆7800億円程度になっていました。しかし、平成25年度には増加に転じています。


図12 ごみ処理事業経費の推移

     
図13 ごみ処理事業経費の内訳

 内訳を見ると、中間処理費(主に焼却施設の建設や維持管理コスト)とその委託費が大きな割合となっていることがわかります。

 各地の焼却炉が建替の時期に来ていることもあると思います。また、メーカー等への外部委託費が増加していることもその一因と言えます。

 一人あたりのごみ処理経費は全国平均が15000円〜14000円の間で推移していますが、これは自治体によって大きく異なります。何にいくらかかっているか、各自治体で調べておく必要があります。これは議員の仕事でもありますが、一部事務組合などで運営している場合、透明性が市町村に比べて悪く、住民に見えないところで高額の予算を通し、勝手に不必要なごみ処理施設を建設しているケースが多くなっています。

 以上、簡単に25年度の報告を概説してみました。焼却炉のトラブルは全国各地で頻発していますが、メディアの関心は低く(その背景には市民の関心が低いことがありますが)ニュースにはなりません。機会があったら是非、自分の町の焼却炉、処分場を見学、視察し、何が問題か直接見聞きすることが重要だと思います。そして、ごみ処理に伴う費用と環境影響について改めて考えてみていただければと思います。