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 テレ朝調査報道 

福島県田村市の

除染廃棄物不法投棄事件


池田こみち

 (株)環境総合研究所(東京都目黒区)


掲載日:2014年8月16日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁

 
 2014年1月、テレビ朝日報道ステーションディレクターから、福島県田村市における除染廃棄物の処理に関連し、多重下請けと不法投棄にまつわる事件が発生しており、第三者的な立場からの検証ができないかという相談が持ち込まれた。

●事件の背景

 震災から3年5ヶ月、これまで除染には膨大な予算が投じられてきた。産業技術総合研究所は昨年7月、福島県内の除染費用だけで5兆円に達する見込みであると試算している。そうしたなか、福島県田村市の東部は、避難指示区域である葛尾村、浪江町、大熊町、川内村に囲まれ、市民の一部が住居を無人にしたまま避難を続けている地域であり、除染作業が必要な地域が多く広がっていた。


図00:福島県の除染地域地図 (Tamuracitymap.jpg)

 その田村市では震災前の市の予算全体で230億円規模だったものが、2014年には、除染連予算だけで240億円と市全体の予算を上回る規模にふくれあがり、多くの業者が群がる事態となっていた。市の有力者が経営する企業(といっても従業員規模はわずか10人規模とのこと)ではそれまでと比べて利益が1000倍以上になったところもあるほど、「濡れ手に粟」状態となっていることも漏れ聞こえていたのである。

●事件の経過

 そうしたなかで、田村市東部のある民家の庭に除染廃棄物を無断で埋めてしまったという内部告発がテレビ朝日に寄せられた。地権者立ち会いのもとで現場を掘り起こしてみるとビニール類や瓶缶類などの廃棄物が発掘されたことから、家人が避難して無人であることをいいことに、勝手に除染廃棄物を不法投棄した疑いが浮上した。

 その段階で、テレビ朝日と地権者は市役所や警察にも連絡したが、「もともと地権者が埋めたごみではないか」と言われ、なんらの対応もしてもらえなかったのである。

 しかし、地権者は庭を掘り起こすユンボや重機もないし、そもそも避難していて人が居ない状態だったので庭にゴミを埋めるようなことはしてないと主張した。


 写真01−以前に掘り返した場所をビニールシートでカバーしてある現場


 テレビ朝日報道画面1


 テレビ朝日報道画面2

第三者的調査を伴う二次掘削調査

 そこで、テレビ朝日報道ステーションのクルーは、地権者の証言を裏付けるため、雪が溶けるのを待って、第二次の掘削調査を行うこととしたが、万一うまく掘り出されなかった場合のことも考えて、もともと埋めてあったのではなく、新たに掘り返してゴミを投棄したことを証明するために、第三者的な調査を行うことができないか、という相談を持ちかけてきたのである。

 そこで、環境総合研究所の提携先でもある分析機関とも協議し、今回のケースは、化学分析調査では、掘削前のデータがないことから比較ができず、有効ではないと考え、庭の3地点をボーリング調査し、併せてそれぞれのボーリング地点の土壌を採取し、物理特性を比較することとした。調査項目は以下の通りである。

@土粒子密度試験
A含水比試験
B粒度分布(篩い分析、沈降分析)
C液性限界(塑性限界試験)
D収縮限界(収縮定数試験)
E強熱減量試験

 廃棄物が出てきた付近の土と少し離れた地点の土を比較し、これらの物理特性を比較すれば最近になって掘削して埋め戻した土かどうかが明らかになると考えたからである。

 そして、今年4月23日、私も現場に立ち会うこととし、早朝に東京を出発し、郡山駅からテレビ朝日クルーと合流してバンで現場に向かった。

 現場には環境総合研究所が依頼した、土壌分析・地質調査の専門会社のスタッフが掘削機とともにすでに到着しており、別途、テレビ朝日側が依頼していた掘削調査のためのユンボも到着し、改めて地権者・弁護士立ち会いのもと、庭の掘り起こしを行った。


 写真02:ユンボで掘り返しているところ


 写真03:出てきたごみ


 写真04:掘り返したごみの放射能を測定しているところ

 ユンボによる掘削作業とともに、土壌調査のためのボーリング調査の一部始終がテレビカメラに収められていった。

 掘り起こした廃棄物の中にはプラスチック製の肥料か農薬の袋や瓶・缶類など雑多なものが含まれていた。放射能測定のための計測器を近づけてみると、地上に比べて掘り起こした廃棄物の濃度は高めとなっていた。(単位はBq/cu)


 写真04-2:掘り返したごみ2


 写真05;ボーリングしているところ


 写真06:ボーリングコア取り出し中


 写真07:ボーリングコア箱に入れている


 写真08:ボーリングコア取り出し中

 2カ所目の地点を掘り進むと庭の中央部分、約2m〜3m付近から次々に内部告発の内容通りのごみが大量に発見された。地権者が庭に置いておいた車のタイヤや自転車までも放り込まれていた。


 写真09:二カ所目で掘り出されたごみ


 写真10:同上


 写真11:同上

 ここまで物証がでれば証拠としては十分とも言えるが、ごみが出てきたところから数m離れた場所を3地点目とし、ボーリング調査を行い、物理特性の分析を行って比較検討を行った。

 本来、除染作業によって出たごみは、放射性物質の濃度が高いことから適切に保管管理される必要があるが、内部告発者(三次下請けの作業員)によれば、「早く除染が終わったことを示すためにも、現場がきれいになっていることが重要であり、その場に穴を掘って埋めることがもっとも手っ取り早かった」と述べている。

 結局、もともと地権者の庭に置かれていたタイヤやホイール、自転車などもいっしょに埋めてしまったということで、まさに掘削調査により証拠が出たことになる。


テレビ朝日報道画面3

 その後、現場では、市役所と警察にも連絡し現場を確認してもらっている。また、テレビ朝日ディレクターは、内部告発者の話の裏をとるべく、田村市から除染業務を請け負った元請け業者一次下請け、二次下請けをそれぞれ訪問して話を聞いたところ、まったく現場もみておらず、何らの管理も行っていない事が明らかとなったのである。もちろん、三次下請けの業者もまともな返事はしていないし責任も取っていない。


テレビ朝日報道画面4

 斯くして、二度に亘る現場での掘削調査によって掘り起こされた物証と、関係者の証言に加えて、今回は、土壌の物理特性試験の結果も添えて、田村市のこの現場の除染作業においてどのような不正が行われ、それによってどれだけの公費が無駄となったかを明らかとすることができたことになる。

 しかし、ディレクターの報告によれば、現場はいまも掘り起こした廃棄物がそのまま残されており、不法投棄された現場の原状は回復されていない。いったい、誰がどう責任をとるべきなのか、すみやかに明らかにした上で被害者の権利の回復を図るべきであろう。

土壌物理特性分析結果の概要

 第三者的な土壌調査は、テレビ朝日の依頼に基づき、環境総合研究所が専門の分析機関に委託して実施したものであるが、ここで簡単にその結果の概要だけを報告しておくことにする。なお、今回は、掘削現場から内部告発者や地権者の証言に合致する廃棄物が多数発見されたことから、この土質調査の結果は補足的なものとなったが、証言を裏付ける証拠のひとつとなったことは間違いない。

−−以下報告書より抜粋


    土質物理試験結果について概要解説

                       平成26年5月14日

                         環境総合研究所 池田こみち

1.調査の目的

本調査は、白戸秀一氏宅(福島県田村市都路町古道東久保2)の敷地内に不法に埋め立てられた廃棄物が発見されたことを受けて、廃棄物が掘り起こされた場所の直近(地点1)及び地点1から1m 離れた場所(地点2)と、掘削されていないと思われる場所(地点3)について、ボーリング調査を行い、土質の物理試験を行うことによって土質を比較し、廃棄物を投棄するために掘り起こされ、覆土された可能性について、客観的にデータを示すことを目的として行われた。地権者の敷地内(裏庭)において、土質のボーリング柱状図や物理試験結果に大きな違いがあるということは、掘削や埋立、覆土、埋め戻しなどが行われたことを示唆するものとなる。

2.結果の概要

 今回のボーリング調査から、地点1、地点2には多様な廃棄物が混入しており、目視で掘り返されたことが明らかであったが、土質物理試験の結果からも比較対照地点とした地点3の土質と地点1、地点2は若干異なっており、有機物も多く、細粒粘土が少ないなど、数値的にも僅かな違いが見られ、掘削、埋設、埋め戻し工事などの影響を受けたことが明らかとなった。

 一般に、土は一度掘ると、短期間では元の状態には戻らないと言われている。従って、ボーリング調査を行えば、その違いは明確となる。中でも、違いが一番はっきり現われるのは、土層の固さであり、ひとたび掘り返したりすると、どのような方法で突き固めても、元の固さに戻すことは困難である。

 掘削により土は膨らみ、土量が増加するためである。今回のように廃棄物が埋め立てられた土層では、このような視点からの確認は難しいが、物理試験の中で土の粒度試験(粒径加積曲線)の結果を見ると、地点1だけに粗粒分(粗礫分)が現われており、また、粘土分とシルト分が少なくなっている。このことからも、掘削、埋め戻しが行われたことは明らかであると言える。