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福島第一原発から環境中に放射性物質が出続ける中、市民の間では、身の回りの放射性物質のレベルへの関心が高まっている。テレビや新聞では毎日、天気予報のように、空間線量率を伝えるようになってきているが、測定ポイントは少なく、必ずしも市民の不安を払拭することができていない。 原発事故発生後の放射能線量や放射能測定は文部科学省のホームページに掲載されているが、空間線量率、降下物(ダスト・雨)、土壌(水田土壌、畑地土壌、草地、一般土壌)、水質(飲料水、海水、河川、湖沼、地下水)、農作物、魚介類(魚、貝類、海草類)などが測定主体別に整理されているため、必要なデータを見つけるのはなかなか難しい。 しかも、やっと見つけ出しても、測定機関、測定方法、評価結果などがわかりやすく示されていないために、数値をどのように理解してよいのかがわからない、という声も多い。例えば、空間線量率であれば、地上高何mのところでの測定結果なのかが明記されていなければ、子供への影響を評価しにくい。また、分析項目も、セシウムとはセシウム134とセシウム137の合計値なのか、いずれか一方の濃度なのかによって評価が変わってくる。 さらに、単位も土壌の場合、Bq/kg とBq/uがあり、どう違うのか、どう評価すればいいのかもわかりにくいし、人体への影響を見るためには放射能(Bq:ベクレル)を線量率(sV/h:時間当たりのシーベルト)に変換しなければならない。 加えて、評価基準が国際的な物差しなのか、国内で事故後に定めた暫定基準なのか、事故以前の平常時のレベルとの違いなのか、原発に対して定められている排出規制値等に対する超過の程度なのか、その都度どの物差しを当てはめるのがわかりにくい。 高濃度の汚染水が海域に流出した際には、しきりに基準値の何万倍という報道がなされたが、海水中の放射性物質の環境基準は定められていない。正しくは、原子炉に対して定められた「炉規則告示濃度限度」(別表第2第六欄周辺監視区域外の水中の濃度限度※)に比べて何倍かを言っているので、数値の意味が正しく伝わらない。 つまり、ヨウ素131について言えば、告示濃度限度が40Bq/Lなので測定値が10000Bq/Lだったとすると、250倍となる訳であり、測定値や評価基準となる根拠とその数値を示さないで、何倍、何倍と言われてもますます社会が混乱するばかりである。 ※原子炉等規制法による安全規制 の中の「試験研究の用に供する原子炉等の 設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、線量限度等を定める告示」 さて、都内では、従来、バックグランドとして、新宿区百人町の測定局で放射能の測定が行われてきた。空間線量率、野菜(葉物、根菜)、降下物(雨水・ちり)、精米、牛乳などが測定されている。 しかし、新宿区1地点だけで都内あるいは23区全体を代表することは困難であり、現在のような非常時には到底役に立たない。 特に、神奈川県内の茶葉から暫定基準値を超える放射能が検出されたり、近畿大学の研究者の調査により都内の土壌の放射能が高いことが報道されて以降住民からの要望も相次いでいるのが現状である。 そうした中、以下のNHKの報道にあるように、各自治体(市区町村)が独自に放射性物質の測定を開始する動きが広がっている。しかし、23区について言えば、独自の測定を表明している区は一部に過ぎず、私の住む練馬区は含まれていない。人口70万人超、農地もまだまだ多い練馬区にあって測定しない理由はないはずだ。 参考までに、私の自宅の土壌について分析した結果を以下に示す。たったひとつのデータではあるが、練馬区内住宅地の土壌の測定値として見て頂ければと思う。
放射性物質の影響は今後、何十年も監視していかなければならない。国民の不安を解消するためにも、各自治体での測定が科学的にも意味があり、区民にわかりやすい方法で公表されることを期待したい。
<参考> 以下の図は、2000年度から2009年度までの放射性セシウム137の濃度をグラフ化したものである。表層土壌と深層土壌を含めた全データである。(グラフ作成は筆者) 図 2000年度〜2009年度の放射性セシウム137の濃度推移 出典:文部科学省.“環境放射線データベース”. http://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top, (参照 2011-05-19) 注)毎年同じ日に4つのデータがあるのは、表層土壌、深層土壌が各1検体で重量あたりの濃度(単位:Bq/kg)と面積あたりの濃度(MBq/ku=Bq/u)をそれぞれ別の測定器で測定しているためである。 |