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共謀罪:
5月19日に起きた
出来事の意味と来週の
予測される展開


弁護士 海渡 雄一

2006年5月20日



・18日法務委員会理事会

 18日午後3時からの法務委員会理事会は休憩を挟んで夕方まで継続された。ここで、与党は19日の委員会採決を提案し、これに対し、野党側は強く反発し、実質的な修正協議に入れなかった。石原伸晃委員長が職権で、19日午前の理事会と同日午後の委員会開会を決定した。

・法務委員会は強行採決モード

 19日午前11時から開催された法務委員会の理事会の場では、修正協議が決裂し、質疑終局・採決という提案がなされていた。そして、この時間帯に自民党の武部幹事長は「審議には終局がなければならない。採決する」と明言した。

 午後1時から委員会が開会された時点では、すくなくとも委員会室の中は強行採決モードとなっていた。

 午後3時に採決なしで審議が終わった時点で、杉浦法務大臣は「何が起こったのかわからない」と首を傾げていたという(朝日 20日)。

・この動きが止まったのはなぜか。

 当初の報道では、河野洋平衆議院議長が河野議長は19日の昼前に自民党の細田博之、民主党の渡部恒三、公明党の東順治の3国対委員長と会談し、「共謀罪は国民の一大関心事となっている。強行採決は好ましくない」として、採決の見送りを求めたこととなっている。

・河野洋平衆議院議長は一体誰の意向で動いたのか。

 衆議院議長が強行採決後に国会が空転しているときに、調整に乗り出すのはよくあることである。しかし、強行採決前にこれを止めると言うのは珍しい。今朝の朝日新聞の報道がこのような異例なことが起きた謎を解き明かしてくれている。

 小泉首相が細田国対委員長に密かに採決をするなと指示をし、細田氏の斡旋依頼で河野議長は動いたという。「共謀罪成立を強行した首相」と言われることが、「国民の人気」を何よりも気にする小泉氏には耐え難かったと言うことだろう。だとすれば、我々市民の声が、首相までを動かしたといえる。

・来週の考えられる展開

 新聞は、与党が議長を担ぎ出して強行採決を回避した以上、強行採決は不可能となったと見ており、共謀罪の会期内成立は困難となったと書き始めている。そうなれば、本当にすばらしいことである。しかし、最後の大逆転の可能性が浮上してきている。

 与党が、民主党案を丸飲みする可能性があると言うことである。

 民主党案と与党案の間のハードルは高い。

1)対象犯罪を600から300に半減する。
2)犯罪の越境性を要件に盛り込む。
3)密告奨励の自首減免制度を原則として削除する。

 これまで、与党は1)2)は条約の一部を留保しても不可能と説明してきた。そういう意味では、与党がこの民主党案を丸飲みすることはできないと見られてきたし、いまも普通の見方ではそうなるだろう。そうなると、大幅延長がない限り、今国会の会期中の成立は困難で、継続審議にしても成立のメドはないこととなる。この展開では、我々の大勝利となるのだが、そうならない展開も残されている。

 それが、与党側がこれまでの説明を突然反故にして、民主党案を丸飲みするというウルトラCが示される可能性である。そうなると、一気に国会が正常化され、修正案が成立するという事態もありうるのである。
 
・やはり、共謀罪の本質的な危険性を訴えることが大切

 これまで民主党が対案を示して論戦を仕掛けてきたことは、大いに意味のあることであった。対案がなければとっくに採決されていた可能性が高いからである。しかし、昨日平岡議員は私に「国会で審議をすればするほど共謀罪というのは訳がわからなくなる」「こんな制度を持つとされるアメリカやイギリスで実際どんな使われ方をしているのか、人権侵害が起きているのではないか、十分勉強する必要がある。」と語ってくれた。

  本当にその通りだ。アメリカとイギリスはイラクに軍隊を送っている中心だ。小選挙区制度の下で、議会内での思想の多元性が失われている国でもある。戦争に向かう政府を止められないのは、共謀罪的な監視社会の中で表現の自由が抑圧されていることと関連があるのではないのか。どんなに適用対象を限定しても、犯罪の合意だけで人を処罰できるという共謀罪の本質的な問題は解消できない。このことをもう一度訴えていくことが必要だ。

・国連条約の起草過程の民主制の有無を争点化していく必要性がある

 もし、万が一にも与党側が民主党案を丸のみにしてきても、共謀罪に反対する思想と論理を構築する必要がある。そのためには、国連による条約の起草過程にかかわったのが外務、法務、警察官僚の代表だけであり、市民の代表がいなかったということを問題にし、民主的正当性を持っているのかという問題も提起していく必要があるだろう。

・国民世論の大勢は明らかに共謀罪法案の修正可決ではなく、廃案を求めている。

 いま、国民世論の大勢は明らかに共謀罪法案の修正可決ではなく、廃案を求めている。

 民主党が対案を示して闘ってきたことは反対の声を強める上で役に立ったし、その努力には深く敬意を表するものである。

 しかし、民主党内でも十分討論して、仮に与党側が民主党案を丸のみにしてきても、たとえば、時間を掛けて、アメリカやイギリスの共謀罪の適用の実態を議員の海外調査を実施して徹底した調査をしたり、条約締約国が条約5条の実施のためにどのような制度を創設しているのか、包括的な調査を行うことなどを求め、将来の禍根を残さないような慎重なうえにも慎重な審議を求め続ける姿勢を貫いて欲しい。