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オンズブズマンが問う
公共事業


その1 港湾事業(5)神戸港


川田賢司

全国市民オンブズマン連絡会議 幹事
市民オンブズ・なら 代表委員

掲載日:2006.7.7

 平成18年2月神戸港の新港湾計画が決まりました。この改訂された港湾計画は、平成7年1月の神戸市港湾審議会の審議から始まっています。

 平成7年1月に発生した阪神淡路大震災によって重大な打撃を受けた港湾施設が、災害復旧工事で回復し港湾として平常の機能に戻った神戸港が、一定の安定に達した状況の下で平成20年代後半を目標とする貨物取扱量等を定め次期の港湾整備に移っていくことを決めたものです。
 
 港湾計画目標年次(平成20年代後半)における取扱貨物量、船舶乗降旅客数を次のように定めています。

取扱貨物量
外国貿易       6千220万トン
(うちコンテナ)    (4千750万トン(320万TEU))
内国貿易       4千210万トン
(うちフェリー)     (2千280万トン)
合計         1億430万トン
船舶乗降旅客数    315万人

 阪神淡路大震災以前の神戸港の状況、大震災から復興に至る経過、復興から今日までの貨物取扱量の推移などを比較し、港湾計画と港湾施設整備が整合性の取れた合理的で効果的なものか検討します。

神戸港は、
慶応3年(1868年)兵庫港として開港。
明治25年(1892年)勅命で「神戸港」となる。
大正12年(1923年)重要港湾。昭和26年(1951年)特定重要港湾に指定。
昭和41年(66)ポートアイランド着工。
昭和42年(67)開港100年、コンテナ船初入港。
昭和45年(70)ポートターミナル竣工。
昭和47年(72)六甲アイランド着工。
昭和62年(87)摩耶埠頭再開発着工、ポートアイランド第U期着工。平成 元年(89)兵庫突堤再開発着手。
平成 4年(92)中突堤再開発着手。
平成 7年(95)阪神・淡路大震災発生。平成17年次目標の港湾計画改訂。再開発3地区埋め立て着工。
平成 8年(96)日本初の大水深高規格コンテナバースPC14、15供用開始。中突堤西地区再開発埋め立て竣工。
平成 9年(97)震災復旧完了。開港130年。
平成10年(98)六甲アイランド南着手。明石海峡大橋開通。
平成11年(99)神戸空港島埋立工事着手。神戸港港島トンネル開通。
平成13年(01)神戸沖埋め立て処分場廃棄物受け入れ開始。
平成14年(02)コンテナバースPC13供用開始。
平成15年(03)コンテナバースPC18供用開始。
平成16年(04)スーパー中枢港湾(阪神港)指定。
平成18年(06)旅客ターミナルリニューアルオープン、神戸空港開港。(出典:神戸市みなと総局神戸港の歴史)

 神戸港はその港の歴史の一時期、日本1の取り扱いを誇る港でした。外国貿易の貨物取扱量が多いのが特徴で、輸入量が輸出を大きく上回るわが国の外国貿易において、輸出の割合が長らく輸入を上回ってきました。平成6年の外貿貨物は全外国貿易量の5.6%を占め、コンテナの取扱量では平成6年まで日本1を続けていました。
表1 神戸港貨物取扱量推移(単位:千トン)



出典:港湾統計及び神戸市統計書


1.大震災による復興はどんな神戸港にしたか

 平成6年の神戸港の貨物取扱量は1億7千100万トン、外貿貨物(輸出・輸入合計)5千552万トン、内貿貨物(移出・移入合計)1億1千577万トンでした。阪神淡路大震災が発生した平成7年には貨物取扱量は9千170万トンと前年の53%に半減しました。平成8年、平成9年に貨物が増えているのは、震災復興及び港湾整備資材の搬入によるものです。

 平成11年以降の貨物取扱状況は、震災によって利用者の使用港湾が変動し定着した結果の状態と国内経済及び関西経済並びに神戸周辺の産業等復興状況の実勢を反映した通常の貨物取り扱いになったと考えられます。
平成11年から平成16年までの貨物取扱量は、震災前平成6年の取扱量の5割以下で推移してきました。平成16年に漸く5割ライン(8千500万トン)に回復しています。

 この間に神戸港は、3地区埋め立て着手、六甲アイランド拡幅に着手し高規格大水深コンテナバースPC14、PC15、PC13、PC18が相次いで供用を開始しています。

 平成9年に復興宣言が行われ、被災した港湾施設は復旧しています、その時点で平成6年の貨物取扱量1億7千100万トンを取り扱える機能は一応回復し整ったと考えると、震災前の施設に大幅な港湾施設の増強が同時に行われていて完成した増設の施設を含めると、相当な施設機能となっていました。

 しかし平成16年の貨物取扱量は、8千566万トンと平成6年の50%程度の取扱量しかありません。復興事業と同時に大幅な施設増強事業行われたのは、将来の需要が増加することを見込んでのことですから、又、震災後の一次的な港湾計画の改訂目標は、平成17年を目標にしていたので、平成16年の時点で神戸港の港湾施設は、取扱量の倍以上(2億トン以上を取り扱える能力)の施設がある、巨大な港湾になっていたと評価することができるのです。

 取扱量は半減しているのに、震災前の施設をはるかに上回る増強された施設が出来上がっていたのは、復興の美名に隠れて、巨大ハコモノ公共事業を行ったのが実態ではなかったのかと考えさせられます。


2.外国貿易におけるコンテナ化の現状

 神戸港の貨物の最大の特徴であるコンテナの取扱量は、スーパー中枢港湾「阪神港(神戸港、大阪港)」の現状を把握するのに有効です。

 なにしろ神戸港は、震災前年までコンテナは日本1の取扱量を続けており、平成2年に神戸港は238万TEU(20フィートコンテナ換算)大阪港は50万TEUと約5倍の格差があり、震災の前年の平成6年神戸港は270万TEU、大阪港は79万TEUと約3.5倍の格差がありました(平成6年取扱量は両港合計350万TEU)。大震災の年の神戸港は135万TEU、大阪港は135万TEUと同数になっています。

 神戸港は前年比で半減し、大阪港は神戸港減少分の36%が増加したことになります。神戸港はその後200万TEU前後と震災前の4分の3に回復させた取扱量となりましたが平成13年(01)180万TEU、平成14年(02)175万TEUと減少しています。

 大阪港は平成8年に神戸港の回復による減少から平成14年には、150万TEUを取り扱うまでになり、神戸港減少分の相当量が大阪港に移転し定着した状態となっています。トータルでは324万TEUと震災前の両港の合計取扱量に達していないのです。コンテナも増加したとは言い難いことが分かります。

 しかしここでもいえることは、コンテナバースは大幅に増強されているということです。復興に合わせて、高規格大水深コンテナバース6バースが既に完成し、さらに新規、再開発のコンテナバースの整備が行われています。

 取扱量は震災前と比較すると平成14年65%程度、平成16年73%でしかないのに、コンテナ施設の増設は続いています。(大阪港については港湾事業4に記述。)


3.神戸港の現在の港湾施設と新港湾計画

平成6年
取扱貨物量
合計       1億7千100万トン
外国貿易       5千522万トン
(うちコンテナ)    (4千263万トン)
内国貿易     1億1千577万トン
(うちフェリー)     (9千720万トン)

平成16年
取扱貨物量
合計         8千566万トン
外国貿易       4千324万トン
(うちコンテナ)    (3千082万トン)
内国貿易       4千242万トン
(うちフェリー)     (2千344万トン)

平成18年2月
港湾計画改訂
計画取扱貨物量(平成27年目標)
合  計       1億430万トン
外国貿易       6千220万トン
(うちコンテナ)    (4千750万トン)
内国貿易       4千210万トン
(うちフェリー)     (2千280万トン)

 災後に新たに増強された神戸港の港湾施設の主なものは次のとおりです。ポートアイランド第U期コンテナバース高規格大水深6バース増設。摩耶埠頭18.5ha埋め立て再開発。新港東ふ頭96ha再整備。港島トンネル開通。など、又、さらにポートアイランド(T期)コンテナバースの高規格化再開発など施設増強事業が進められています。港湾施設の全体とその他の増強施設については、この項の次に詳しい説明を資料としてつけているので参照してください。

 震災前年の平成6年に神戸港は、1億7千100万トンの貨物を取り扱っていました。震災後神戸港は平成9年に復旧し、その後も現在に至るまで各種の施設増強事業が行われ、今も続けられています。

 すなわち、復旧の完了によって震災前の貨物取扱量と同等の能力を回復したとするなら、新港湾計画が策定された平成18年2月には、震災後増強された施設を加え、1億7千100万トンの貨物処理能力をはるかに上回る施設能力を持つ神戸港が存在したのに、新港湾計画の算定の基礎となった数値は、平成16年の貨物取扱量の約8千500万トン(震災前年平成6年の貨物取扱量1億7千100万トンの半分)を基準にしているのではないかと考えられることです。

 神戸港の震災後の新規の増設された施設を加えるなら、2億トン以上の処理能力があると評価することが合理的だと思われるのに、復旧された上に増設された港湾施設の能力を半分以下の能力に減少させた評価しかしていないことになります。震災で大きな損壊をしたとはいえ来年140年の歴史を迎える神戸港の港湾施設は、強大なものに復元増強されています。

 新港湾計画で策定された平成27年目標の計画取扱貨物量は1億430万トンですが、現在においても神戸港は少なくともこの2倍以上の貨物取扱能力を有していると考えられるので、何らの施設の増強の必要はありません。

 しかし、平成16年貨物取扱量8千500万トンを2千万トン増強するとの目標で増強の計画は作られ事業が行われているのです。現在の港湾能力を低く見積もったのは、港湾整備公共事業を続けることだけが目的であったと断定してもいいのではと思います。

 内国貿易貨物の取扱量は、平成6年では1億1千500万トンを超えていました。平成16年は4千230万トンでした。これの新港湾計画での計画取扱量は4千210万トンになっているので、10年後の予測は若干の減少を見込んでいます。平成6年の実績と比較すると、7千300万トンの減少となります。

 大震災の復旧と一般貨物取り扱い施設の増強事業が進められ、より能力の高まった港湾となっているのに、今後の取扱量は施設能力の3分の1以下で済むことになります。計画取扱量の3倍以上の施設能力のある神戸港ができているのです。

 これ以上の施設は絶対必要ない、これまでも不要で無駄な巨大施設造りをしていただけだったのに、さらに施設増強工事を続けるのは、工事のための事業を行いたいだけと思わざるを得ません。

 スーパー中枢港湾「阪神港」の大阪港は、神戸大震災前の数倍の港湾として整備されました。貨物取扱量も倍以上となっています。神戸港と併せると、震災前の2倍以上の能力を持つ阪神港が生まれています。又、さらに大阪港、神戸港とも施設増強の計画と事業が進められているので、強大な「阪神港」の出現は確実です。

 重複投資の排除や効率運営を謳い文句に港湾整備が行われたのとは裏腹に、実際は両港とも計画目標の何倍もの過剰で不要な施設をもつ、「モンスター港湾」となっているのです。

   資料:神戸港の港湾施設(神戸市みなと総局港湾施設より)

ポートアイランド

 昭和55年度(1980年度)に埋立てが完成した総面積443haの人工島外周部に各種バース、公共上屋などの港湾施設を整備し、その背後に港湾機能用地を配置。

 現在、ポートアイランドのコンテナバースについては、近年のコンテナ輸送に伴う主要航路のコンテナ船の大型化が急速に進展していることから、バースの再編を図り、それに応じた再開発を進めている。

●ポートアイランド第2期

ポートアイランド(第2期)は、ポートアイランドの南に建設中の総面積390haの人工島。

 国際化・情報化など新たな時代のニーズに対応した港湾施設、水深15mの高規格コンテナバース(6バース)を震災後に整備し供用開始。

●六甲アイランド

昭和47年(1972年)に着工し、20年の歳月をかけて、平成4年度(1992年)9月に埋立てが完了した総面積595haの人工島です。

 周囲には、コンテナバースや、関西国際空港への航空貨物のアクセス基地としてK−ACT (神戸航空貨物ターミナル)が整備
摩耶ふ頭

 昭和42年(1967 年)に第1突堤から第4突堤までからなる、 くし形のふ頭として完成しました。第4突堤は我が国最初の公共コンテナターミナルとして建設されましたが、 第3・第4突堤間(約 9.5ha)を埋め立て、本格的な公共コンテナターミナルとする再開発を行い、 平成3年(1991 年)に完成

 第1から第3突堤間(約 18.5ha)についても、 阪神・淡路大震災後、市街地で発生したガレキなどを利用して埋め立て再開発を行い、 全体面積約103haの近代的ふ頭として生まれ変わりました。

新港突堤・新港東ふ頭

 第1期修築工事(新港第1突堤から第4突堤)は大正11年(1992 年)に、第2期修築工事(第5突堤、第6突堤)は昭和14年(1939 年)に竣工され、この結果、神戸港は日本を代表する貿易港としての地位を確立しました。第7突堤、第8突堤は戦後に建造された。

 現在、第4突堤は、外航客船・国際フェリーの専用ふ頭となっており、旅客施設「神戸ポートターミナル」は、内外のクルーズ客船でにぎわっている。
第5突堤から第8突堤間(約 34.5ha)については、全体面積約96haの近代的なふ頭として再整備を行い、 平成9年(1997年)11月に第5突堤から第6突堤間、平成10年(1998年)7月には第6突堤から第8突堤間の埋立が完了し、名称も新港東ふ頭と変更

 港島トンネルの開通(平成11年7月)や新港東ふ頭連絡線工事により、国道2号線、国道43号線への交通アクセスを向上させた。
兵庫ふ頭

 第1突堤から第3突堤までからなる、市民生活に直結した物資を扱うふ頭 として整備。

●神戸港港島トンネル

 神戸港港島トンネルは、ポートアイランドと新港東ふ頭を結ぶ海底トンネル。ポートアイランド第2期や神戸空港などの整備に伴い、予想される交通量の増加に対応するため、神戸大橋に続くアクセスとして、平成4年より工事に着工した。平成11年6月末に工事が完了し、7月30日に開通した。

●東部臨海部計画

 市街地復興の先導的プロジェクトとして、「神戸東部新都心」計画が中央・灘区にまたがる地区(約 120ha)。大規模工場の遊休化などに伴い臨海部75haを港湾整備事業、土地区画整理事業等により、土地利用転換を図る事業。
フェニックス事業(神戸沖埋立処分場)

 2期事業として六甲アイランド南の一部に神戸沖埋立処分場を計画し、整備。神戸沖埋立処分場については、既に外周護岸が概成し、平成13年12月より近畿2府4県195市町村から発生する廃棄物の受入れ開始。