〔第十二条〕
第十二条は、米軍による調達、調達資材等の免税、労務問題等につき定める。
一調達に関する一般的問題
1 米国は、「この協定の目的のため」又は「この協定で認められるところにより、」需品又は工事のための供給者又は工事者の選択に関して制限を受けないで契約することができる(1項第一文)。この規定は、調達に関してのいわゆる契約自由の原則をうたったものである。米軍は、わが国内法上一般には自由に需品及び役務を調達しうるのであって、右の規定が直接その根拠であると考える必要はない。この意味で右の規定は、当然のことを述べたものといえるが、強いていえば、右規定は、米軍による調達の自由を認めないとする趣旨の立法を排除するという点で一定の法的意味を有している。米軍は、日米の当局間で合意される時は、日本政府を通じて調達することもできる(同第二文)が、現実には殆どすべて直接調達によっている(日本政府が物品調達をしているのは、現在は昭和四三年よりの南鳥島・硫黄島におけるコーストガードに対する燃料の供給の例があるだけである。なお、労務については4項参照)。
2 米軍がわが国で調達する物資は、第三国に駐留する米軍等に仕向けることができるかという点がいわゆるヴィエトナム特需との関連で問題となったことがある。この点については、第十二条は、調達物資の使用につき地域的限定を定めたものではないと解されている。又、「この協定の目的のため又はこの協定で認められるところにより…」とは、米軍の調達が公用のためであるべきことを意味するのであって物資等の仕向先が「協定の目的」の範囲内であるか否かの問題は、生じない。第十二条3項の免税規定も米軍の公用調達という点にのみ着目しており仕向地は問題でない。(注65)
(注65)以上の解釈は、昭和四一年当時の政府の考え方による。政府の答弁は、調達物資等の仕向地等につき米軍は、日本側に通報する義務はなく、わが方は、仕向地には関知しないとのラインで行われ、「協定の目的」とは、施設・区域の提供目的であり、従って「極東の範囲」に限定され(以下判読不能)頁、昭和四一年二月十二日、衆・予議事録十四頁、同七月二十日、衆・外議事録十四頁、昭和四二年五月三十日、参・内議事録八頁等)。
3 なお、「地位協定の実施に伴う外国為替管理令等の臨時特例に関する政令」によって、米軍は、輸出貿易管理令に規定する義務又は制限を免除されているが、これは、米軍が協定上、イ調達について自由に契約を締結できること(第十二条1項)、ロ税関検査を免除されていること(第十一条5項)、ハ物品税その他の課税を免除されていること(第十二条3項)等を考慮し、安保条約・地位協定によって米軍の駐留を認める以上貿管令の右義務を免除することは当然と考えられたからである。(米軍の調達物資が輸出される場合には、このように国内法上も規制できないこととなっている訳である。)
4 米軍の調達が日本の経済に不利な影響を及ぼすおそれがある場合は、日本政府と調整の下に、又、望ましい時は日本政府を通じて間接調達をしなければならない(2項)。この規定は、本来希少物資(例えば、アルミニューム地金、米麦等)の調達を対象としたものである。なお、米軍は、調達計画の主要変更について、可能な限り事前に日本政府に関係情報を提供することになっている(第十二条に関する合意議事録第1項)。
5 合同委員会その他なお、適当な者は、日米両国の経済関係の法令及び商慣習の相違から生ずる調達契約に関する紛議の満足すべき解決につき研究することとなっている(合意議事録第2項)。なお、合同委員会は、契約様式等技術的事項を定めている(要旨には未掲載)。
6 「公認調達機関」なる用語が協定第十一条2項及び第十二条3項において使用されているが、これは、米軍の各軍別の調達機関(例えば陸軍では「在日米陸軍調達部」)の総称である。米軍の調達機関がわが国において米国と第三国とのMSA協定による域外買付の業務を兼ねて行なっていることが国会で問題とされたことがあるが、米軍調達機関のかかる活動は、日米相互防衛援助条約第六条1項(b)によって説明されている。(注66)
(注66)昭和三五年三月二六日、参・予二分科、同五月二日、衆・安保特。
二 調達物資の免税
1 米軍又は米軍公認調達機関が公用で調達する資材、需品、備品及び役務は、(a)物品税、(b)通行税、(c)揮発油税及びd電気ガス税を免除される(3項第一文)。米軍又は米軍公認調達機関以外の者(これは、第十四条契約者のみならず通常の日本人業者も含まれると解される。)が右の物品等を調達する場合でも、それが最終的には米軍の使用に供されるものである場合には、右の(a)及び(c)の租税は、免除される(同項第二文)。この場合、最終的には米軍の使用に供されるとの点につき米軍の適当な証明が必要であり(同項第二文)、この点についての課税免除を確保する手続が合意議事録において規定されている(第3項)。
右に挙げられていない日本の現在の又は将来の租税で、右の如く調達される物品等の購入価格の重要なかつ容易に判別されうる部分を構成すると認められるものについては、第十二条の目的に合致する免税又は税の軽減を認めるための手続が合意されることになっている(3項第三文)。この規定は、行政協定以来同文であるところ、今日まで追加的に免税が認められているものとしては、地方道路税、軽油引取税及び石油ガス税がある。
2 以上の課税免除については、「地位協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴う地方税法の臨時特例に関する法律」が免除を規定している。なお、通行税につき右の所得税法等の臨時特例法は、軍人が軍隊の用務を遂行するため列車等を利用する場合の通行税免除を規定している(第七条)ところ、実際には国鉄は軍属・家族の乗車についても通行税を免除扱いしている模様であり、事実とすれば問題がある。
3 軍人・軍属及びその家族による物品及び役務の個人的購入には、租税は、免除されない(第十二条8項。なお、第十五条機関による商品及び需品の購入にも租税が免除されない。第十五条2項)。
4 3項の租税の免除を受けて調達された物は、日米の当局が相互に合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、免除の特権を有しない者に対して日本国内で処分してはならない(9項)。この点について合同委員会に詳細な合意があることは、既に述べたとおりである。
三 労務問題
1 日本における労務に対する米軍及び第十五条機関の需要は、日本側当局の援助を得て充足される(4項)。この規定は、いわゆる間接雇用を定めたものである。この規定により、米軍等の必要とする日本人労務者は、原則として日本政府が雇用し、米軍等に提供している。従って、労務者の雇用主は、日本政府(施設庁)であって、かかる労務者の労働条件等が日本の関係法令によって規律されることはいうまでもない。なお、かかる労務者は、政府に雇用されるものではあるが、国家公務員ではない(「地位協定の実施に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律」第八条)。(注67)(注68)
(注67) 間接雇用の労務者の労働条件等には右の如く日本の関係法令が適用されるが、かかる労働条件等の遵守を具体的に確保するため日米間で合同委員会を通じて特定の合意が行なわれている。即ち、米軍に提供される労務については「基本労務契約」、第十五条機関については「諸機関労務協約」、及び船員として提供される労務については「船員契約」がそれぞれ日米間で締結され、右の労働条件等の確保のほか、日米両国間で処理されるべき問題(例えば、政府が労務者に支払う給与等の米側によりの政府への償還問題等。なお、第二十四条の項参照)につき細目を定めている。なお、右の基本労務契約等の内容がわが国憲法・労働関係法令の範囲内で実施しえない事項を含みえないことは当然のことである。
(注68) 行政協定時代は、第十五条機関の労務については、間接雇用の規定はなく、従って、直接米軍に雇用されていたが、解雇に関連する事案につき第十五条機関を当事者として裁判所・労働委員会の判決・命令が出された場合その実行につき複雑な問題があった(米側は、かかる事案につき裁判所等の管轄権を否定)ので、地位協定では、第十五条機関についても原則として間接雇用によることを定めたものである。なお第十二条6項の規定も行政協定には存在しなかったものである。
2 5項は所得税等の源泉徴収義務及び「相互間で別段の合意をする場合を除くほか」労働関係に関する労働者の権利は、日本の法令いよるべき旨定めるが、間接雇用の労務者については前述の如く日本政府が雇用主であるのでこの規定は、間接雇用については意味がなく従って、米軍が直接日本人労務者を雇用する場合のことを予想したものであると説明されている。(注69)
(注69) 昭和四十年四月二七日、参・外議事録八頁。尤も、5項の規定が間接雇用には当然のことで意味がないとする考え方については政府部内で意見が分かれる。即ち、安保国会当時の擬問擬答は、5項の「相互間で別段の合意をする場合」の例として6項の場合を挙げているが、6項の規定は、間接雇用にのみ適用される規定であるので、この解釈によれば、5項は、間接雇用をも念頭においていることになる。また、前述の基本労務契約等は、日本の法令の範囲内のものでなければならないが、米側としても、5項により、日本法令の範囲を越える基本労務契約等の締結をわが政府に要求できないこととなるのでその限りで5項は意味があるとする考え方がある。以上の点については、第十二条に関する合意議事録第5項が第十二条5項の「日本国の法令」とは、6項の規定に従うことを条件として裁判所・労働委員会の決定を含む旨規定していることからみても5項の規定は、間接雇用についても一定の積極的意味があると解するのが妥当であろう。なお、直接雇用の根拠については、右の考え方をとる場合には、「5項は主として直接雇用を念頭においたものである」との趣旨の説明で処理しうるものと考えられる。
3 米軍又は、「適当な場合」には、第十五条機関が労務者を解雇した場合で、雇用契約が終了していない旨の日本の裁判所・労働委員会の決定が最終的なものとなった際には、6項の(a)から(d)までに定める手続が適用される(6項頭書き)。この手続は、いわゆる保安解雇(施設・区域内の軍紀の維持の攪乱を含む安全上の理由による解雇)のケースについてのみ適用されることとなっている(合意議事録第6項)が、いかなる場合がこれに該当するかは、具体的な事例について判断されるものであるが軍隊の存立及びその目的達成上不可欠な紀律を乱すという積極的な行為を指すものであり、従って、通常の制裁解雇又は正常な組合活動による場合は含まれない(即ち、かかる場合は、合意議事録第5項にあるとおり、米側は、裁判所・労働委員会の決定に服する。)。
6項(a)…日本政府は、米軍又は第十五条機関に裁判所・労働委員会の決定を通報する。(注70)
(注70) 6項頭書きの「…適当な場合には、第十五条に定める機関」とは、地位協定による第十五条機関労務者が間接雇用に切り換えられるまでの時間を考慮した表現であり、従って「適当な場合」とは「間接雇用に切り換えられている場合」の意であり、現在は既に意味のない表現である。又、合意議事録第7項の「第十五条に定める諸機関は当局間の相互の合意に基づき第十二条6項の手続に従うことが了解される。」との規定も右の「適当な場合」を受けた規定であり、かかる当局間の合意としては「諸機関労務協約」がある。
6項(b)…米軍又は第十五条機関が当該労働者を就労させることを希望しない時は、米軍又は前記機関は、日本政府から6項aの通報を受けた後七日以内にその旨を日本政府に通告しなければならず、暫定的にその労働者を就労させないことができる。
6項(c)…前記の通告がある時は、日本政府と米軍又は前記の機関は、事件の実際的な解決方法を見出すため遅滞なく協議する。「実際的な解決」とは、米軍の保安上の理由から裁判所等の決定に従い労働者をもとの職場に戻すことができない場合には例えば他の職場への配置転換を行なうことも考えられるのでこのような解決を指すものである。
6項(d)…(c)の協議の開始から三十日の期間内に実際的な解決ができない時は、当該労働者は、就労することができない。このような場合には、米政府は、日本政府に対し、「両政府間で合意される期間」の当該労働者の雇用の費用に等しい額を支払う。右期間については、「…6項(b)に定める通告の後一年をこえないものとし、双方が同意しうる基準に基づいて6項(c)の協議の際決定されうる」趣旨を取り極めた交換公文が行なわれている(昭和三五年一月十九日)。右取極中の「基準」については、「基本労務契約」等に詳細が定められている。なお、6項(d)の規定によって労働者が現実に就労できなくなることと当該労働者と日本政府との間の雇用関係とは別の問題であり、6項(d)後段は、日本政府が労務者の雇用に要する費用につき米政府が償還する限度を定めたものであって、この限度(具体的には一年)以後も、労働者と日本政府との雇用関係は継続し、その終了は、専らこの両者の間で処理されることとなる。(注71)
(注71) 6項の規定は、軍隊の駐留を認める以上は軍の保安上の必要からする解雇(従って、裁判等においては米軍は軍機密の観点から証拠も出しえず、結果として敗訴になる場合がある)というものは認めざるをえず、又それが国際的にも当然であるとの立場にたちつつ、その場合の解決を軍の安全と労働者の保護の両者を考慮し、又通常諸外国でとられている措置(例えばボン協定)を参酌して定められたものである。
4 施設・区域内における通常の労働組合運動がどの程度まで認められるかという問題がある。この点については、協定第十二条5項にあるとおり、米軍に雇用される日本人労務者に対しても労働関係法令が適用されるものではあるが、一般に労働者が使用者の管理する施設内で組合活動を行なう場合には、当該施設内の秩序にしたがわなければならないものと考えられているところ、特に軍の使用する施設においては、その性質上、一般私企業等に比し、より厳重な規律が存在することから、組合活動についても、そのような制約を受けることは止むをえないものと考える。(従って、米軍が施設・区域内におけるハチマキ着用や集会を禁止しても直ちにこれが違法であると結論することはできない。)(注72)
(注72) 軍といえども施設・区域内の規律の維持及び業務の正常な運営に必要な限度を越えて不当労働行為となるような干渉をするようなことが認められないのは協定第十二条5項の規定から明らかである。
5 更に、米軍の海上輸送部隊にかかる日本人労務者は、かかる米軍とともに海外へ出かけて(具体的にはヴィエトナム水域)活動することが認められるか(労務者はあくまでも在日米軍の労務者であり、日本を離れるとともに在日米軍ではなくなるのではないか)との点が問題になったことがある。(注73)
(注73) 右の場合、米軍の軍事海上輸送司令部は、わが国を根拠として駐留し、これにかかる日本人労務者には、直接雇用になるLST乗組員(LSTは、Landing Suport Trausport)と間接雇用になるMC労務者(船員契約=Mariner’s Contractに基づく労務者でMC労務者と通称)とがある。
右の点については、船舶にかかる労務者は、航海することがその本質的任務であり、その船舶が日本の根拠地、司令部のある米軍輸送司令部に所属するものであるので、かかる米軍船舶の活動目的が安保条約第六条の目的(「極東の範囲」云々が問題となる。)に合致するものである限り、地位協定上問題がないと説明されている。(注74)なお、通常の陸上勤務の労務者についてもその用務に関連する海外出張が認められることは協定上何ら問題なく、「基本労務契約」においてもかかる出張を予想した規定がある。(注75)
(注74)昭和四十年二月二七、衆・予二分科議事録一九頁。昭和四二年六月十三日、衆・社労議事録十頁等。
(注75) LST労務者に関しては、右の問題のほか、これら労務者は、12条5項の規定により米軍により所得税等を源泉徴収されているにも拘わらず、他方において、船員法(陸上の働者にとっての労働基準法に相当する)の適用を除外されているので通常の日本人労務者(MC労務者は船員法で保護されている。)と同様の保護がないのは不当であるとされる問題がある。この点については、米軍から見れば、日本の国内法にLST労務者の労働関係の保護に関する規定がないので遵守すべき「日本国の法令」 充分でないというだけのことであって、国内官庁としては、米軍の遵守すべき国内立法を行なうか又は実質的に同等な保護基準を合同委員会で合意する等の措置をするか、又は現状でも実際は十分に保護されているのであればその旨説明すべきものであって、あたかも地位協定の規定に欠陥があるかの如き説明をすべきものではない。なお、日本国民として所得税等の納付義務のある限り誰が源泉徴収するかは単なる技術的問題であって、船員法自体の適用問題とは本来次元の異なる問題である。(尤も、本稿印刷中、昭和四八年六月末を以てLST労務者は全員解雇されることとなったのでこの問題は今後はなくなる。)
6 なお、第十二条7項は、「軍属は、雇用の条件に関して日本国の法令に●●(二文字、判読不能)ない。」旨規定するが、●●●(三文字、判読不能)、軍属の雇用条件等は専ら米軍内部の問題との趣旨に出るものであり当然の規定である。
〔第十三条〕
第十三条は、米軍財産、米軍人の所得等に対する課税の免除につき定める。
1 米軍が日本において保有し、使用し又は移転する財産について「租税又は類似の公課」は、課されない(1項)。免除される租税とは、国税たる法人税、所得税、地方税たる不動産取得税、都市計画税、法定外普通税等である。ボン協定には同様の規定がある(第六十七条1項)。ナト協定にはないが、いずれにしろ外国軍隊の駐留を認める限り当然の規定と考えられる。
2 米軍人・軍属及びその家族は、これらの者が米軍に勤務し、又は米軍・第十五条機関に雇用された結果受ける所得について租税が免除される(2項第一文)。免除される租税とは、国税たる所得税、地方税たる都道府県民税、市町村民税等である。ちなみに、右の者が軍人・軍属及びその家族であるという理由のみによって日本にある期間は、租税の課税上日本に居所又は住所を有する期間とは認めないこととなっている(2項第三文)。
3 第十三条の規定は、軍人・軍属及びその家族の「日本国の源泉から生ずる所得」について日本の租税を免除するものではない(2項第二文前段)。「日本国の源泉から生ずる所得」とは、例えば日本の学校、商社、テレビ放送局等に勤務等をして得る所得であり、右規定の意味は、右の如き所得は当然日本の税法に従って課税されるということである。なお、米軍・第十五条機関による雇用等の結果として、又は米政府と米国において結んだ契約に基づいて日本で受ける所得は、日本の源泉から生ずる所得とは認められない旨合意されている(第十三条に関する合意議事録。ちなみに、これらの所得には米国内法上所得税が課せられている。)なお、更に、第十三条の2項第二文後段は、米国の所得税のために日本に居所を有することを申し立てる米国市民に対し所得についての日本の租税は免除されない旨規定するが、これは、軍人・軍属及びその家族が米軍・第十五条機関による雇用等以外の事由によって報酬を得た場合、米国内法上は一定期間以上海外に居住する者にはその所得について米国所得税を課されなくなるが、このような場合には当然日本の租税を課することになるという趣旨であって、2項第二文前段の意味を更に確認したものであると解されている。(注76)
(注76) 第十三条2項の規定(第二文)は、右で述べた如く、軍人・軍属及びその家族がわが国において米軍との雇用関係以外から所得を得ることがあることを予想しているが、いかなる範囲で通常の職業活動が認められるかとの点については協定は何ら定めていない。この点は、これらの者が在留資格等の条件を免除されている(第九条2項)のは、あくまでも軍人・軍属及びその家族としての身分に着目してのことであるので、その身分を逸脱する如き活動(通常の職業活動があたかも本業とみられる如き活動)は認められないと考えるべきである。
4 軍人・軍属及びその家族が一時的に日本にあることのみに基づいて日本に所在する有体又は「無体の動産」(米国の株券、債権等を指す。)の保有、使用、移転についても租税が免除される(3項第一文)。免除される租税とは、国税たる所得税、贈与税、相続税、地方税たる都道府県民税、市町村民税、法定外普通税等である。右の免除は、投資とか事業のため日本で保有される財産又は「日本国において登録された無体財産権」(特許、商標等の工業所有権を指す。)には適用されない(3項第二文)。
5 第十二条の規定は、私有車両による道路の使用について納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない(3項第三文)。日本には、この規定でいうような道路の物理的使用の程度に応じて課する税がないので(例えば自動車税は、道路使用税的部分と偖侈品に対する租税的な部分とから成っており「道路の使用について納付すべき租税」そのものではない)、私用車を所有する米軍人等は、自動車税、自動車重量税のうち道路使用税的部分と観念される一定割合を日本政府に納付している。(注77)
(注77) 米側は、これらの租税は第十三条3項第一文の「これらの者が一時的に日本国にあることのみに基づいて日本国に所在する有体……動産の保有、使用……についての租税」であるとの立場から課税の全面的免除を主張したものであるが、交渉の結果右一定割合につき納付の義務が合意されたものである。非納付部分の免除理由については、協定上説明としては第十三条3項第一文によることとなる。
6 第十三条の規定を受けた国内法としては、「地位協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴う地方税法の臨時特例に関する法律」がある。
〔第十四条〕
第十四条は、米軍のいわゆる特殊契約者の指定、特権免除等につき定める。
1 通常米国に居住する人(米国法人を含む。)及びその被用者で、米軍のための米国との契約の履行のみを目的として日本にあり、かつ、米政府が2項の規定に従って指定するもの(以下特殊契約者と略称)は、第十四条に規定のある場合を除くほか、日本の法令に服する(1項)。右の指定は、第一に日本政府と協議して行なうことを要する。第二に、競争入札を実施することができない場合(その理由としては、安全上の考慮、関係業者の技術上の適格要件、米国の標準に合致する資材・役務の欠如又は米国の法令上の制限が挙げられる)に限り行なわれる(2項前段)。米政府は、特殊契約者が(a)その指定にかかる契約の履行を終了した時、(b)日本において米軍関係以外の事業活動に従事していることが立証された時、又はc日本で違法とされる活動を行なっている時は、右の指定を取り消す(2項後段)。(注78)
(注78) 本条の趣旨は、米軍が日本で必要とする建設や役務は通常は日本において調達されるものであるが、どうしても日本で間に合わないような場合にのみ米国業者の使用を認め、これに協定の特定の条項の利益を享有させるというものであり、この趣旨の規定は、各国の地位協定にも見られる(例・ボン協定第七十二条)。
なお、右の競争入札によれない理由のうち、安全上の考慮とは、秘密保持のことを指し、米国の法令上の制限とは、例えば特許法の関係で外国人に技術や資料等を提供できない場合等のことを意味している。
2 特殊契約者は、その身分に関する米当局の証明があるときは、協定の次の利益が与えられる(3項)
(a) 第五条2項の出入及び移動の権利
(b) 第九条の規定による日本への入国「第九条の規定」とは、具体的に何を指すかは必ずしも明らかではないが、従来より同条1項を指すものと解釈されており(安保国会当時の擬問擬答)、従って、第五条1項第二文の「協定による免除を与えられない旅客」に該当する。(注79)
(注79) この点、法務省側は、第九条の適用上特殊契約者は、軍属・家族と同様であるとの考え方であり、実際にもそのような取扱いをしている模様。
(c) 軍人・軍属及びその家族についての第十一条3項の関税その他の課徴金の免除
(d) 米政府の認める場合は、第十五条機関の役務を利用する権利
(e) 第十九条2項の米ドルの日本外への移転の権利
(f) 米政府の認める場合は、第二十条の軍票を使用する権利
(g) 第二十一条の軍事郵便施設の利用
(h) 雇用の条件に関する日本法令の適用除外
3 特殊契約者は、その身分であることが旅券に記載されていなければならず、その到着、出発、日本の居所は、米軍が日本側当局に随時通告する(4項)。
4 特殊契約者が前記の指定にかかる契約の履行のためにのみ保有し、使用し、又は移転する減価償却資産(家屋を除く。)については、米軍官憲の証明があるときは、日本の租税又は類似の公課を課されない(5項)このほか、6項及び7項は、特殊契約者につき、それぞれ第十三条3項及び同条2項と同様のことを規定している。
5 なお、日本側当局は、特殊契約者の日本における犯罪につき第一次裁判権を有しており、日本側がこれを行使しない場合にのみ米軍当局が裁判権を有する(8項)。
〔第十五条〕
第十五条は、米軍の才出外資金機関の取扱いにつき定める。
1 米軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の才出外資資金による諸機関は、米軍人・軍属及びその家族の利用に供するため、米軍が使用している施設・区域内に設置することができる(1項(a)第一文)。これらの機関は、米政府の機関(「国防省の不可欠の部分」、米最高裁判決)であって、米軍人等の福祉、士気及び能率を維持することを目的として設立・運営されているものであるので、地位協定においてもこれら機関の活動を認め、協定上一定の利益を与えることとしているものである。(注80)
(注80) これら機関は、その機能の継続のために毎年の又はその他の予算配賦を受けず、かつ、その収入を国庫の才入に納付することを要求されていないので才出外資金機関といわれる。これら機関の存立の法的根拠は、各軍の軍規則にあり、それぞれの長官の権限・監督の下におかれている。
これら機関の活動は、各国の地位協定においても認められているところである(米比協定第十八条、ボン協定第七十一条等)。
2 国会等においては、社交クラブ等の娯楽施設は、いかなる意味で日本・極東の安全(施設・区域の使用目的)と関係があるのかとの問題が提起されるが、軍隊の福利厚生施設は、軍人等の福祉、士気、能力等の維持に必要なものであり、従って、一般に第十五機関の活動は、軍隊の通常の活動の一環と考えられ、安保条約に基づいてわが国で施設・区域の使用が認められている米軍がかかる福利厚生施設の維持を認められることは当然のことである。昭和二九年、東京地裁は、東宝を原告とする行政訴訟(いわゆるアーニーパイル事件)において、土地等を米軍人の娯楽等のため提供する場合は、必ずしも土地等の使用等に関する特別措置法第三条にいう「適正かつ合理的」に該当しないと判決した(本件は政府が控訴中和解)が、これは、かかる娯楽施設の提供が同法で強制的にできるためにはそれだけの客観的必要性(米軍にとっての必要性と地主等の受ける不利益との均衡の問題)がなけらばならないとの考えを示したものであって、米軍の娯楽施設が施設・区域を使用すること(又は、現在では実際には考えられないが、一般の娯楽施設をそのまま施設・区域として提供すること―アーニーパイル事件はこれに該当)を一般的に排除したものであるとは解されていない。
3 1項(a)第一文は、第十五条機関は「合衆国軍隊が使用している施設及び区域内に設置することができる」としているところ、これら機関の関係施設だけのため一つの独立した施設・区域を提供しうるかとの問題がある。しかし、この規定の趣旨は、これら機関の活動の性格(例えばピー・エックスについて言えば輸入品を免税価格で販売する)に鑑み、わが国の社会・経済秩序に与える影響を最小限にするためかかる機関の施置は施設・区域内に限るということであって、たまたまこれら機関が場所的な必要性等から一つの施設・区域の全部を占める(即ち、これら機関のために独立の施設・区域が提供される)ことが右規定により排除されるということではない。
4 第十五条機関は、協定に別段の定めがある場合を除くほか、日本の「規制、免許、手数料」「租税」又は類似の管理に服さない(1項(a)第二文)。この「規制、免許、手数料」とは、食品衛生法上の知事の許可、薬事法上の登録、クリーニング業法上の許可等を指すものと考えられる。又、「租税」とは、法人税、酒税、印紙税等である。
5 第十五条機関の利用者は、軍人・軍属及びその家族(1項(a))のほか、第十四条の特殊契約者(同条3項c)であるが、第十五条に関する合意議事録は、通常海外で「同様の特権」を与えられている米政府のその他の官吏及び職員(主として外交官がこれに該当することとなろう。)は、第十五条機関を利用することができる旨定める。右の「同様の特権」とは、主として物品の輸入に関する関税・内国消費税の免除特権であるが、米外交官等はいずれにしろ右特権を享受しているのでこれらの者が右機関を利用してもわが国として何ら問題がないので特にこれを認めたものである。なお、右機関利用の特権は、米国の外交官等に認められたものであるので第三国の外交官等がこれを利用することは認められない。
6 米軍当局が公認し、かつ、規制する新聞が一般の公衆に販売されるときは、当該新聞は、その頒布に関する限り、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服する(1項(b))尤も、この規定に該当する新聞は、現在ない(米軍の新聞としては、「スターズ・アンド・ストライプ」があるが、一般の公衆には頒布されていない。)。
7 第十五条機関の販売する物品は、日米の当局が相互間で合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、右機関の利用を認められない者に対して日本国内で処分してはならない(3項)。この規定は、第十一条6項及び第十二条の項と同趣旨であり、合同委員会で処分取極が合意されている。
なお、右機関は、日本の当局に対して、日本の税法が要求するところにより資料を提供することになっているところ(4項)、ここにいう資料とは、所得税法上の給与支払者の申告、給与支払調書、源泉徴収表等である。
つづく