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機密文書「地位協定の考え方」
第8条〜第11条

琉球新報 2004年7月〜8月

 
掲載日:2004.10.18
改訂日:2009.11.16

初出:独立系メディア「今日のコラム」 


〔第八条〕

第八条は、気象業務に関して、日本側が米軍に与える協力を定める。

1 第八条は、日本側が同条の(a)から(d)までに列挙される気象業務を米軍に提供すべき旨規定しているが、軍隊の活動にとって気象条件は、最も重要な情報の一つであることを考慮すれば、同条の定める日本側の協力業務は、いわば当然の規定であると考えられる。なお、第八条は、米軍が自ら行なう気象情報収集活動には触れていないが、かかる活動は、軍隊の当然の機能の一つであると考えられ、協定上当然認められるところであると解される。また、第八条は、日本側のみの協力義務を定めているので一見片務的ではあるが、実際には、台風情報、飛行機観測資料、北米大陸の気象資料、その他の気象資料が米軍からも日本側に提供されている。(注59)

(注59)第八条については、合同委員会において「気象業務」に関する事項が合意されており、米軍が気象庁に提供すべき気象業務についても規定している。

2 なお、第八条の(a)から(d)までに列挙されている業務について述べれば、次のとおり。

(a)「地上及び海上からの気象観測」については、観測の結果が気象庁に集められ、気象庁で内外の気象機関の用に供するためラジオテレタイプ放送(JMG)を行なっているが、これとほぼ同様の資料が府中にある米軍気象中枢へ専用線を通じて送られている。

(b)「気象資料」については、主として気象庁の刊行する気象月報等の定期刊行物等を提供している。その他刊行されない資料についても、要請により閲覧の便等を与えている。

(c)「航空機の安全かつ正確な運航のため必要な気象情報を報ずる電気通信業務」としては、気象庁が気象解析を行なうために、近隣諸国の気象放送を受信しているものを、専用線により分送しているものが大部分である。

(d)「地震観測の資料」としては、気象庁が気象業務法に基づいて発表する津波警報が米軍に伝達されるようになっている。


〔第九条〕

第九条は、米軍人・軍属及びその家族の出入国について定める。

一 出入国及び在留
1 第九条の規定に従うことを条件として、米国は、軍人・軍属及びその家族を日本に入国させることができる(1項)。本項は、安保条約・地位協定の趣旨からして当然の規定であるが、法的には、これらの者の入国を一般的に認めないとする趣旨の国内立法が本項により排除される点に意味があると考えられる。なお、日本政府は、入国者及び出国者の数及び種別につき定期的に米側より通報を受けることとなっている(第九条に関する合意議事録)。

2 米軍人は、「旅券及び査証に関する日本国の法令」の適用から免除される(2項第一文)。又、軍人・軍属及びその家族は、「外国人の登録及び管理に関する日本国の法令」の適用から免除される(同第二文)。以上から明らかなとおり、軍人については、出入国及び在留に関する日本国の法令の適用をすべて免除される。このことは、外国軍隊の駐留を認める限り当然のことであって、例えばナト地位協定にも同様の規定がある(第三条)。軍属・家族については、旅券及び査証に関する法令を除き出入国及び在留に関する法令の適用が免除される。旅券及び査証に関する法令の適用とは、旅券及び査証の所持義務のみならず、出入国管理令のうちの上陸拒否(第五条)、上陸審査(第六条)等の入国に直接関連する諸規定の適用を含むものと解される。しからざれば、わが国としては、出入国管理令第五条1項の各号に列挙されるもの(例えばらい病患者―一号、精神障害者―二号、麻薬不法所持者―六号等)に該当する場合でも、軍属・家族については自由に入国させることとなるが、地位協定がかかる義務までわが国に負わせたものとは解せられない。ちなみに、軍属・家族が出入国管理令中のこれらの規定を免除されるとする場合は、これらの規定が外国人の管理に関する法令に含まれると読まざるを得ないが、第九条は、旅券→査証→登録→管理という入国滞在の手続の順序に着目して規定していることは明らかであり、上陸審査、上陸拒否等の規定を入国後の管理を念頭においた規定に含めて考えることが困難であることは明らかである。(注60)

(注60)軍属・家族も上陸審査等を免除されるとの考え方は、法務省のものであるが、その背景には、従来、これらの者についてはその身分確認しか行なっていない(五条使用地からの上陸の場合。施設・区域からの上陸の場合には、米軍に身分確認を委せている。)との実体がある。しかし、かかる実体と協定の解釈とは別であって、かかる実体については、別途その手続の省略を説明すべきものと考える(例えば、従来の軍属・家族の入国実績からみて行政裁量の範囲内で一定の手続を省略しても差支ないと判断された等)。

なお、入管令第五条の上陵拒否事由に該当する場合、人管令上非強制的退去命令(第十条)と強制的退去命令(第二十四条)とがあるが、軍属についても前者の命令は発出しうると考えられる。強制退去については、第九条6項の問題となる。

以上のように解すれば、外国人の登録及び管理に関する法令とは、外国人登録法及び出入国管理令のうちの在留資格・在留期間等に関する規定がこれに該当すると考えられる。なお、第九条2項ただし書は、軍人・軍属及びその家族が在留資格・在留期間に関する規定の適用を免除されることからいって、日本における永久的な居所又は住所を要求する権利を取得したものとはみなさない旨規定しているが、これは、当然の規定である。

3 軍人は、日本への出入国に当って、身分証明書及び個別的又は集団的旅行命令書を携帯し、又、日本にある間は、身分証明書を携帯し要請がある時は日本側当局に提示しなければならない(第九条3項)。なお、旅行命令書には、休暇命令書も含まれる。

軍属・家族は、米当局の発給した「適当な文書」(第九条2項第一文の反対解釈として、これは旅券である。)を携帯し、出入国の際及び日本にある間その身分を日本側当局が確認することができるようにしなければならない(第九条4項)。なお、以上の点については、合同委員会に詳細な合意がある(「出入国」に関する事項)。

二 強制退去
1 米国が第九条1項により軍人・軍属又はその家族として日本に入れた者の身分に変更があって(例えば軍人の現地除隊、これに伴なう家族の身分変更等)入国資格がなくなった場合には、米当局は、日本側当局にその旨通告し、又(ロ)日本側当局がその者の国外退去を要求した時は、米国は、日本政府に負担をかけることなく相当の期間内に日本から送り出さなければならない(第九条5項)。そもそも米軍の軍人・軍属及びその家族は、その身分が変更されたことにより協定の特権・免除等を全く受けない一般外国人となるのであり、当然日本の出入国管理令等外国人に対する法令の全面的適用を受ける。従って、日本政府が必要と認める場合には、自ら出入国管理令第二十四条等に基づいて退去強制を執行することも当然できる訳である(6項参照)が、本項の規定により、日本政府が米当局に対しその者の日本からの退去を要求すれば米当局はその責任において日本から送り出すことを約した訳である。

2 第九条6項は、日本政府が軍人・軍属の日本からの送出を要請する場合及び(ロ)旧軍人・旧軍属及びその家族並びに軍人・軍属の家族に対して強制退去命令を出した場合には、米当局は、それらの者の自国領域内への受入れ、その他日本からの送出措置をとることにつき責任を負うことにつき規定している。この場合、旧軍人・旧軍属及びその家族につき出入国管理令上の強制退去をなしうることについては、1で述べたとおりである。(注61)

(注61)尤も、これらの者に対する強制退去は、5項後段の日本側当局の退去要求にも拘らず米当局が「相当の期間内に」送出することをしない場合に行なわれることが予想されるところ、6項がかかる米当局の義務不履行をあらかじめ前提としたものとすれば問題がある。6項は、もともと行政協定にはなく、地位協定においてナト協定にならって追加されたものであるところ、第九条全体における6項の位置は、理論的に不安定で釈解上問題がある。

軍人・軍属につき送出要請の制度をとっているのは、軍人・軍属が外国人の登録及び管理に関する法令(強制退去は、これに含まれると解される。)の適用免除により軍人軍属には、国内法上退去命令を出してないことによる。この点は、2項によるかぎりこれらの者の家族についても同様であるが、6項は、家族との関係では、強制退去につき右法令の適用免除の例外を設けたものと解される。(この点、軍属は、それが軍の公務の目的のため日本に在留しているものであるので6項との関係では軍人に準ずるものとして取り扱われている訳である。)なお、合同委員会の出入国に関する追加合意(昭和三六年三月の合意)には、軍人・軍属の送出要請原因となる事項が列挙されているが、実質的には出入国管理令第二十四条に列挙される強制退去事由と大差がない。


〔第十条〕

第十条は、米軍人等の運転免許の効力等につき定める。

1 日本側は、米国が軍人・軍属及びその家族に対して発給した運転免許証等を試験又は手数料を課さないで有効なものとして承認する(第十条1項)。この意味は、これらの運転免許証等を道路交通法に基づいて発給される免許証と同様の効力を有するものとし、その所有者に対し自動車の適法な運転を認める趣旨である。これらの者は、その車両の運転については、日本において道路交通取締法規を遵守する義務を有するものであり、その違反については、司法処分が行われているが、米国の発給する免許証等については、その場合にも、日本側当局は、免許の取消し、停止等の行政処分を行なうことができない。

本項の立法趣旨は、軍人等にとって車両の運転は、重要な軍活動の機能の一つであること及び軍隊は、随時各国を移動するものであることに着目して、軍隊の効率的な活動をわが国においても確保するという点にあるが、この趣旨の規定は、同様の理由からナト地位協定にもみられるところである(第四条)。(注62)

(注62)(尤も、右の立法趣旨からすれば家族の免許証の有効性まで承認することは、立法論としては問題があるといえよう。ちなみに、ナト協定では、軍人・軍属の免許証のみが承認の対象となっている。(仏は、国内法上家族にまで特権を及ぼしている模様である。)

2 米軍隊及び軍属用の「公用車両」は、それを容易に識別させる明確な番号標又は個別の記号を付けることとなっている(2項)。右の「公用車両」とは、米陸海空軍及び軍属部並びに第十五条機関の所有に属する車両である。これらの公用車両には、道路運送車両法、自動車損害賠償保障法等の法令は、適用されない。

3 米軍人・軍属及びその家族の私有車両は、日本国民に適用される条件と同一の条件で取得する日本の登録番号標を付けていなければなちない(3項)。これらの車両には、日本法令が全面的に適用される。

4 以上の点については、合同委員会において「軍人・軍属等の私有車両の登録」に関する事項が合意されている。又、国内法では第十条実施のため「地位協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律」が制定されている。


〔第十一条〕

第十一条は、関税・税関検査の免除、特権乱用防止のための当局間の協力等につき定める。

一 関税免除
1 米軍人・軍属及びその家族は、協定中に規定のある場合を除くほか、「日本国の税関当局が執行する法令」に服する(l項)。右の法令としては、関税法、関税定率法、酒税法、砂糖消費税法、物品税法、トランプ類税法、揮発油税法、とん税法、たばこ専売法、塩専売法等がある。なお、本条の実施に関連する特例法としては、「地位協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴うたばこ専売法等の臨時特例に関する法律」等がある。

2 第十一条の規定に基づき関税その他の課徴金の免除を受けて輸入できる物品は、大別して二種類ある。

(1)第一の種類は、第十一条2項に掲げる次のものである。

(イ)米軍叉はその公認調達機関(具体的にはArmy Procurement Agency等の軍機関)が米軍の公用に供するため輸入する物品(当該米軍又は機関が米軍の公用に供するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。)

(ロ)ピー・エックス等第十五条機関が軍人・軍属及びその家族(及び第十四条特殊契約者)の用に供するため輸入する物品(当該機関がこれらの者の用に供するため輸入するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。なお、これらの物品については、第十一条に関する合意議事録第1項は、合理的な量に限らるべき旨を規定しているが、これは、これら物品が大量に輸入され、不当に横流しされたりすることをあらかじめ防止しようとの趣旨に出るものである。

(ハ)米軍、その公認調達機関及び第十五条機関以外の者が、米軍の専用に供するため又は米軍の使用する施設、物品に合体するため輸入する物品(当該物品がこれらの目的のため輸入するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。

(2)第二の種類は、第十一条3項に掲げる次のものである。

(イ)軍人・軍属及びその家族(及び第十四条契約者)の引越荷物及び携帯品(3項(a))(これに関しては合意議事録第二項において、貨物の船積みが所有者の旅行と同時であるを要せず、また、積込み又は船積みが一回であることを用しない旨規定している。)

(ロ)軍人・軍属が自己又は家族の私用のため輸入する自動車及びその部品(3項(b))

(ハ)軍人・軍属及びその家族(及び第十四条契約者)の私用に供するため合衆国軍事郵便局を通じて郵送される通常かつ相当量の衣類及び家庭用品(3項(c))(注63)(注64)

(注63)2項及び3項にいう「関税その他課徴金」とは、輸入に直接関連して課されるもののみでなく、むしろ「関税等の間接税一般」と解するのが妥当である。そうでないとすれば第十二条3項に基づく米軍による国内調達(一定の間接税が免除される)の場合と第十一条2項との均衡がとれない。従って、例えば輸入自動車に対する自動車取得税(自動車登録の際に課税)の課税免除は、公用車については第十一条2項、私用車については同3項によって説明されうるものである。(ちなみに、国内で購入される自動車の取得税は、公用車については、第十二条3項により課税免除、私用車については同8項により課税される。)

(注64)なお、2項第一文は、米軍隊等が公用のため輸入する資材、需品等は、「日本国に入れることを許される。」旨規定するが、右の「許される」とは、これらのものが米軍隊等の公用物品であることが証明される限り、わが国の輸入に関する法令上の規則をすべて免除される(輸入貿易管理令等の法令のみならず、例えば、米軍が医療用に麻薬を輸入する場合の厚生大臣の輸入許可―麻薬取締法第十四条―等を含む。)ことを意味するものと解される。

3 2項及び3項で与えられる免除は、物の輸入の場合のみに適用するものとし、関税及び内国消費税がすでに徴収された物を購入する場合に、当該物の輸入の際税関当局が徴収したその関税及び内国消費税を払いもどすものと解してはならない(4項)。

関税の免除を受けて日本に輸入された物は、日米の当局が相互間で合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、関税の免除を受けて当該の物を輸入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない(6項)。なお、この処分については、合同委員会の詳細な合意がある(「米軍人等の免税品の処分」「米軍人等の私有自動車の処分」「米軍機関の物資処分」)。これらの物は、関税等の免除を受けて再輸出することもできる(7項)。

二 税関検査
税関検査の免除に関して5項は、免除を受けることのできるものの範囲を行政協定に比べ狭くしている。すなわち、3項(a)において、

「合衆国軍隊の構成員」の字句を削除し、「命令により日本国に入国し、又は日本国から出国する合衆国軍隊」のみに限っている。したがって、軍人は、部隊として軍命令により集団的に出入国する場合のほか、税関検査を受けることになる。

3項(b)において、

「公用の封印がある公文書」に、「合衆国軍事郵便路線上にある公用郵便物」を加えている。これは従来cに「合衆国軍事郵便線上にある郵便物」の字句があり、公用のもののみならず私用のものも含んでいたが、これを公用郵便物に限定したものである。

3項(c)において、

前記のとおり、「合衆国軍事郵便路線上にある郵便物」の字句を削除し、「合衆国政府の船荷証券により船積みされる軍事貨物」とされている。

なお、cの「軍事貨物」に関しては、合意議事録第3項において、これは武器及び備品に限定されるものでなく、米国政府の船荷証券により米軍に向けて船積みされるすべての貨物をいうものとされ、さらに、この用語は、米軍に向けて船積みされる貨物を米政府の他の機関に向けて船積みされる貨物と区別するため用いられている旨規定している。

三 特権乱用防止のための協力
米軍は、日本側当局と協力して第十一条によって与えられる特権の乱用を防止するため必要な措置をとらなければならないことになっており(8項)、又は(9項)は、関税関係法令の遵守を確保するための日米双方の協力に関する事項を定めている。合同委員会は、施設・区域から出入国が行われる際の日本側税関吏の施設・区域立入りにつき合意している(「税関検査に関する事項」)。なお、合意議事録第4項は、米軍は、その持込みが関税法規に違反するような物品が軍人・軍属及びその家族によって、又はそれらの者のために輸入されないよう実行可能(判読不明)。定している。ここにいうその持込みが関税法規に違反するような物品には、関税定率法第二十一条に規定されている公安、風俗を害するおそれ、ある物品、麻薬、阿片等が該当する。

更に、税関当局は、第十一条の規定に基づく米軍人等による物品の搬入に関連する濫用又は違反があると認められる場合には、米当局に対しその問題を提起することができることとなっている(合意議事録第5項)。

つづく