八ツ場ダムの本体工事の予算化については2011年12月末に野田首相の決断が下り、幹事長裁定の二つの条件をクリアーすることが前提になりました。早急に河川整備計画を策定し、基準点における河川整備計画相当目標量を検証することの条件は、ダム建設の是非により重大な条件になることは言うまでもありません。
現在「八ツ場ダム建設事業の検証に係わる検討」では、向こう20年〜30年の工事期間の目標流量は流量確率1/70〜1/80の17000m3/sに決定されています。ダムと代替案との比較でも目標流量は17000m3/sにおいて実施されています。
八ツ場ダム建設反対の市民団体や学者の一部に、基本高水流量不信論や無用論があることはよく知っています。しかし国交省の治水の理念や基本的な河川政策を変更するには、民主党への政権交代程度では無理であることは、今回よく分かったことです。
もっと革命的な政権交代が実現しない限り、河川法の見直しなどは不可能でしょう。
また基本高水流量不信論や無用論を主張していては、利根川の基本高水流量についての見直しが実現する可能性はないと思います。国交省の用意した土俵の上での議論をして、利根川の治水安全度1/200における基本高水流量22000m3/sが過大であることを立証するのが、現実的な対処法であると考えます。
ある流量確率のピーク流量を基本高水流量に決定した場合に、流量確率は治水安全度になります。基本高水流量に関しては流量確率と治水安全度は同じと考えることができます。
利根川の治水安全度1/200における基本高流量22000m3/sは、関東地方整備局が開発し日本学術会議・流出モデル基本高水評価検討等分科会で学術的に裏付けられた総合確率法で決定されています。総合確率法は流出解析の方法ではなく、治水安全度を考慮した雨量から計算された複数の流量からの基本高水流量の決定に関する方法です。
総合確率法は一定の流量における雨量群の超過確率を対象に、雨量確率と雨量の超過確率の積から計算しています。しかし(雨量確率 x 雨量の超過確率)では雨量と流量の同時確率は求められません。
雨量と流量の同時確率は(雨量確率 x 雨量の条件付確率)または(雨量確率 x ピーク流量の超過確率)から計算できますが、(雨量確率 x 雨量の超過確率)からは求められないのです。
よって(雨量確率 x 雨量の超過確率)の積和から流量の周辺確率、つまり流量確率は求められないのです。一定流量における雨量群の超過確率を対象にした場合、(流量確率
x 雨量の超過確率)で雨量と流量の同時確率が求められます。
しかし流量確率は分かっていません。そもそも流量確率が求める対象なのです。そこで流量確率と雨量確率が1:1で対応するとの仮定をおいて、(雨量確率
x 雨量の超過確率)から雨量と流量の同時確率を求めようとしたと推測しています。
このような計算方法から求められた治水安全度1/200における基本高水流量22000m3/sは正しい値ではありません。
総合確率法では一定雨量におけるピーク流量群の超過確率を対象にして、(雨量確率
xピーク流量の超過確率)から雨量と流量の同時確率を求め、その値から流量確率を求めるべきなのです。この計算方法では雨量確率と流量確率が1:1で対応する仮定はおいていません。簡単に計画雨量(336mm/3日)におけるピーク流量群の平均値を基本高水流量に決定し、その治水安全度は雨量確率に等しいとしてもよいのです。
学術会議分科会で公開された確率雨量と計算流量の散布図(第11回分科会配布資料)から、確率雨量が336mm/3日におけるピーク流量の中央値を読み取ると19000m3/s程度になります。
全計算流量が記入されていなかったので、散布図からの読み取りで平均値は求め得ませんでした。この結果から治水安全度1/200における基本高水流量は19000m3/s程度であると推定できます。一定雨量におけるピーク流量群を対象にして、(雨量確率 x ピーク流量の超過確率)から積和法で治水安全度1/200における基本高水流量を求めるように、関東地方整備局に提言していますが反応はありません。
いずれにしても総合確率法で治水安全度1/200に見合う適切な基本高水流量を決定する方法を開発すべきです。
もしも治水安全度1/200における基本高水流量が19000m3/sであれば、目標流量17000m3/sの流量確率は1/120〜1/130になります。向こう20年〜30年の河川整備において、目標流量の流量確率が1/120〜1/130であるのはまことに奇妙です。
そもそも日本の河川に関して、実績で河川整備計画の目標流量の流量確率は1/20〜1/70になっているそうです。平成17年に決定された河川整備基本方針によって、暫定的に流量確率1/50の目標流量15000m3/sが決定されていたのですが、利根川の治水の重要性から今回の見直しで流量確率を上限の1/70〜1/80に変更したものです。流量確率1/120〜1/130は明らかにこの上限値を超えています。
基本高水流量が19000m3/sであれば、流量確率1/70〜1/80の目標流量は14500m3/s程度になります。ダムと代替案の比較検討をこの目標流量で実施するとなれば、結果が変わることが考えられます。基準点八斗島の流下能力は16500m3/sとされています。既設6ダムの洪水調節量と八斗島上流部の流下能力を考えた場合に、八ツ場ダムの洪水調節量は直ちに期待されるか検討する必要があるでしょう。
「基準点(八斗島)における河川整備計画相当目標量」はまさしく流量確率1/70〜1/80の目標流量で、その流量が17000m3/sでなく14500m3/s程度であれば、八ツ場ダム建設の是非の議論の帰趨は大きく変わると思います。八斗島上流部の流下能力の向上と八ツ場ダムの建設費用の比較になります。同時に今まで関東地方整備局が隠していた八斗島上流部での想定氾濫問題が明らかになります。基本高水流量相当の洪水が発生した場合に、八斗島上流部でどの程度の氾濫があるのか関東地方整備局は明言をしていません。
基本高水流量は八ツ場ダム建設の費用対効果、ダムと代替案の比較の計算の基礎となる数値であることは言うまでもありません。この基礎的な数値を曖昧にしたまま費用対効果や比較の計算をしても意味はありません。
以上のような現状から、「基準点(八斗島)における河川整備計画相当目標量」の決定のため、総合確率法の計算法を見直して治水安全度1/200に見合う適切な基本高水流量を求めるべきです。
そのためには現在の一定流量における雨量群の超過確率を対象にせずに、一定雨量におけるピーク流量群の超過確率を対象にした計算法に切り替えるべきです。総合確率法は、現在の基準である計画雨量まで引き伸ばした対象降雨からのピーク流量群の最大値を基本高水流量に決定し、その流量確率を雨量確率と同じであるとして、過大な基本高水流量に結びついてきた国交省の計算方法を改善した方法であることは事実ですが、更にピーク流量群の平均値を基本高水流量に決定し、その流量確率は雨量確率に同じであるとすべきなのです。
以上
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