エントランスへはここをクリック   
 投稿

      山林の保水力について

            峯 弘


               2007年8月20日



 今の森林法における「森林の保水力」については事実誤認の可能性があります。すなわち樹冠(樹木の枝葉部分)に雨水を貯留し、川に緩く流す機能が山地の「保水能力」の大きな要素であるとしています。

 このために水源かん養保安林は、ha当たり3千本も植林する事を強要します(指定施業要件)、しかし、2006.12.3日本の森と自然を守る全国集会(熊本大学)で東大・蔵治光一郎氏は、次のように主張されています。

 「森林には洪水緩和と渇水緩和の機能が期待されているが、森林は水資源の涵養には「一時保水力」はプラスに働くが、蒸散により川の水量そのものを減少させる機能がある」とし、「これまで世界中で行われてきた調査、研究の結果、森林が渇水を緩和したと認められる事例は一つもなく、森林は渇水を激化させたか、または渇水と森林が無関係であるかのどちらかであった。

 この事実は渇水緩和機能に対しては、「消失保水力」の方が「一時保水力」よりも強く作用するという事を意味している。日本では、森林を伐採した実験では例外なく渇水時の川の流出水量は増加した。つまり森林の存在が渇水時の流出水量を減少させていたことになる。林業(植林)を推し進めると水資源の枯渇を招くという事態は世界中の半乾燥地帯で起きている。

 植林は限られた水資源を人と森林が奪い合うことになるので十分な注意が必要である。「森林は水の消費者」「スギ・ヒノキは広葉樹林よりもたくさんの水を消費する」という科学的事実は森林を扱うものの誰もが知っていなければならない基本的知識である。」

 次に元熊本大学教授は、「保水に関して平成16−17年、民間人と国交省が協同して、山林の水に対する浸透保水の実験をされている。この実験で植種は全く影響がない、いや分からないという結論である。これは当然のことである、最も大きな影響を及ぼすものは、地質的要因、土質的要因である。」以上を補完するサイトをご紹介します。

「杉ヒノキは山を荒れ地に」
http://www.net-work.ne.jp/~mm1215/keigi-tokuda.html

「森林組合支所長も認める渇水」
http://www.kyoto-np.co.jp/kankyo/mizuno_wa/06.html

「林業の現状」
http://www.d1.dion.ne.jp/~bwe/genjyo1.html

「台風による大災害」
http://www.kosonippon.org/mail/bk_2005/c_050204.php

「雑木林の役割り」
http://www.pref.osaka.jp/suisan/rich-sea/naniwamori.html

 さて、植林が水源涵養にマイナスに作用することは知られているにも関わらず、森林法は樹冠(樹木の枝葉部分)の量こそが山地の保水能力の大きな要素と主張し、水源涵養保安林はha当たり3千本も植林する事を強要します。

 この理由を次のように推定します。高密度の植林は経済的に合わないのは確実で林家は実施できない、そこで役所は高率の補助金を出す、当然役所は巨額の裁量権を握る(既に4兆円近くの赤字)。

 間伐は是非必要であるが、林家ではどうにもならない、そこで専門組織に依頼が必要となる、行政と専門組織は既に緊密な関係となっている。こうしてみると「森林法のha当たり3千本」は何の為誰の為に存在しているのかは明らかです。自民党林政族も当然植林推進派でしょう。

 参院選では民主党が大勝利しましたが、民主党は、従来の「林業は環境分野」との認識を改め、「50年に一度の林業再生のチャンス、木材生産体制を確立し、産業として成り立たせることを目指す。経済産業につながる森林経営の施策を行う」そうです。とりあえず伐採コスト低減化のために作業道を作る。

 「10年後の木材自給率50%」「ふる里で100万人の雇用創出」「林業・木材産業で活性化」を主張しています。これには木材価格が僅かに上向いてきたこともありそうです。

 施策の全てに相当な補助金も必要になるでしょう。しかし2001年3月23日のネクスト・キャビネット では、「森林のもつ保水機能や土砂流出防止機能に着目し、森林の再生、つまり緑のダム化を進めることによって、コンクリートのダムにできる限り頼らない治水対策を確立します。

 そのため、現在計画中または建設中のダムについては、これを一旦すべて凍結」としています。これは落葉広葉樹を視野に入れた構想でした。思い起こせば戦後莫大な補助金を出し、広葉樹の天然林を大面積で切り払い、生長が早く加工しやすい、高値のつくスギ、ヒノキを全国で一斉に植林しました。

 そして半世紀ばかり経た今、4兆円近くもの赤字、世界でもまれな環境・生態系の破壊です。さらに保水力の低下からダムそしてスーパー林道と出費は膨れるばかりでした。少し価格が上がったからと6年前の考えを捨て、再び山地をスギ、ヒノキの経済林として利用しようという事ですが、巨額の補助金を采配できるお役所にとっては非常に好ましい構想です。

 しかしいくら補助金をつぎ込んだとしても若い労働力の参加は期待できません。もしも高年者を参加させスギ、ヒノキの経済林が成功したとしても、生態系を破壊し、山地を崩落させ、保水力を減らし(河川の渇水と鉄砲水を招き)、花粉症を招き、腐植や有機ミネラル減から漁業を衰微させた事が再現するかもしれません(注:スギ、ヒノキの経済林では腐植が出来ないために、地面が露出、降雨で表土が流れます、勿論保水力がないので鉄砲水ともなります。

 土壌は岩石と微生物と腐植から100年で1センチしか作られません。林野庁は国の宝とも言える豊かな土壌の天然林を債務返済の一助にと年100億円規模で現在伐採し続けているのは犯罪と見られても仕方がないでしょう。

 山主は極く少数、林業従事者は6万人程度と言われる今、補助金行政の温存、関係公務員の職場の為に、民主党へ役所からの入れ知恵なのでしょうか。ドイツも似た経過を辿り、今は自然林化を軸にしていると聞きます。

 さて異常気象が年々深刻化し、反対に食糧の自給率は年々低くなっています。中低開発国の人口増加もあって世界的に食糧価格が高騰しつつあります。

 危機に備えて森林法8条1項。10条の5−10項25条34条などを削除し、「山林を自由化」し、栗・胡桃など食糧樹木を植えさせよという主張があります。経済林と言ってもこれなら地域の活性化・生物多様化につながるかも知れません。

「山に果物を」
http://www5b.biglobe.ne.jp/~hideokun/

「森林の理水機能について」