昨日コメントした毎日新聞の以下の速報記事だが、2004年3月11日の毎日新聞朝刊本紙の記事を含め、増加の理由が分かりにくい。
「環境省は「工場を主とする産業部門は90年比で5.1%減っているが、企業活動全体では排出量が逆に増加していることが明らかになったと話している。」としている点だ。
<環境省>CO2総排出量を初公表 基準年より4.5%増
環境省は10日、国内の企業から排出されるCO2の総排出量を初公表した。 01年度は9億7100万トンに上り、京都議定書の基準年より4.5%増えていた。環境省は「工場を主とする産業部門は90年比で5.1%減っているが、企業活動全体では排出量が逆に増加していることが明らかになった」と話している。(毎日新聞2004年3月10日速報) |
読売、朝日、日経、東京等他紙が一切書いていないのでスクープ報道かと思ったが、対象としている総排出量の年次が2001年度である。どうみてもスクープとは言い難い。そこで環境省のホームページを徹底的に検索してみた。以下の図が最終的にひっかかった。「2001年度(平成13年度)の温室効果ガス排出量について(概要)」である。出典はもちろん、環境省である。
このグラフを見ると、次のことがわかる。
すなわち、産業部門(グラフ中最上段)は確かに1990年度の基準年より2001年度が若干(5.3%)減っている。しかし、運輸部門、業務その他部門、家庭部門はそれぞれ23%、30.6%,19.4%と大幅に増加していることだ。
毎日新聞の記事では全体が1990年から2001年度の間に4.5%増えてたこと以外は、ほとんどわけがわからなかった。しかし、以下のグラフを見ると、やっぱりと言うか、運輸部門、業務その他部門、家庭部門では大幅にCO2が増えていたのである。
ところで、増加している3部門のうち、運輸部門の大部分は自動車から排出されるCO2のはずである。
国土交通省(当時、建設省道路局)は道路を建設することが地球温暖化対策となるなどとして、道路建設予算を温暖化対策費に計上していた。グラフを見ると、これがいかにこれがおかしなものか、間違っているかが数字で立証されている。そもそも、道路建設が温暖化対策等という施策をメニューに入れた国土交通省も問題だが、それに明確に抵抗しなかった環境省も環境省である。
次に、業務その他の部門だ。増加率ではこれが一番大きい。
この部門の中身は、工場ではなく、企業の製造部門、工場以外の本社部門、事業所である。1990年から2001年と言えば、失われた10年が含まれ、経済は未だかつてないデフレに見舞われていた10年間のはずである。にもかかわらずCO2が大幅に増えていることに注目すべきである。なぜならこの間、建設されたビルなどは本来省エネ化されているはずだからだ。しかし、その実態は、機器は省エネタイプとなっても、使う全体量が増加していることをこの結果は示している。
最後に家庭部門だ。ここでも20%弱CO2の排出量が増えている。
家庭部門での増加は、たとえば冷蔵庫を例にすれば、ひとつひとつの冷蔵庫は大幅に省エネ化、省電力化された。しかし、容量が増えたり、使う数が増えたことがある。空調などはその典型例である。従来はリビングルームなどにひとつ、と言った具合であったのが、寝室にも、子供部屋にもなど一家での利用が複数化して行ったことが伺える。
運輸部門、業務その他部門、家庭部門がわずか10年間で19.4%〜30.6%と大幅に増加したことは重要だが、日本の場合、とくに留意すべきは、排出量全体に占める産業部門の割合が欧米諸国に比べて圧倒的に大きいことである。戦後、日本では殖産興業など、産業部門ばかりが量、質ともに成長、肥大化し、家庭部門はGDPや一人当たり所得が世界第二位となっても、欧米に比べ非常にみすぼらしい状態が継続している。その観点からすれば、ここ10年、家庭部門でで19.4%増えたことは問題は問題だが、産業+業務+運輸のうちの企業関連部門が減らない、逆に増えていることこそ問題といえるのではないだろうか。
いずれにしても、この種のデータは、毎年決まった時期に環境省がつつみ隠さず国民の前に公表し、忌憚のない意見をもらうべきものである。
結果として言えることは、我が国は京都会議(COP3)による目標値、すなわち1990年度対比でマイナス6%はどうみても達成でそうにもないことである。
環境省は大都市における二酸化窒素大気汚染濃度の環境基準達成に関連し、過去私が知る限りでも3回、大本営発表を繰り返してきた。今後、環境省は二酸化炭素総排出量についても同様の大本営発表を繰り返すのではないかと非常に憂慮する。と言うよりは、おそらくどうみても達成が困難であるから、なるべく黙っていよう、と方向転換することが今回の一件から伺える。
私見だが、CO2削減についての目標達成が困難な主たる理由、それも霞ヶ関における主たる理由は、言うまでもなく経済産業省、国土交通省にあると思われる。
徹底してマイナス6%の目標設定に反対してきたのは旧通産省、現在の経済産業省である。また先に述べたように、幹線道路建設費を温暖化対策費に計上して来たのが旧建設省、現在の国土交通省である。当時、どちらも時代錯誤の省庁であると感じていたが、環境省同様、ぜひとも結果責任をとってもらいたいものだ。