世論無視で米追随した政権の末路 青山 貞一 掲載日:2004.3.21 |
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2004年3月20日は、米英がイラク戦争を開始した日である。 米英両国は一方的に大量破壊兵器がイラクにあるとし、世界中の世論の大勢や国連安全保障理事会の大方の意向を無視し、強引に米国のブッシュ政権と英国のブレア政権がイラクへの戦争を開始した日でもある。 3月20日にさきがけ、3月16日、米国のブッシュ大統領、英国のブレア首相、スペインのアスナール首相は、大西洋に浮かぶポルトガル領の孤島、アゾレス諸島に集まり、3月7日に国連安保理に提出した修正決議案への対応を協議した。ここで米英西3国のイラク戦争への決意を確認したのである。 出典:米国ホワイトハウス:左から二人目がアスナール前首相 こうして始まった米英西によるイラクへの侵略戦争は、米英群の圧倒的な火気兵器、最先端武力により、あっという間に終了した。そして、米英西を中心にポーランドなど東欧諸国を含め30数カ国がこの1年間、戦後復興などの名目で多くの兵士をイラクに派遣した。この中には日本の自衛隊も含まれる。 しかしどうだろう、イラク戦争の最大の大義であった肝心な大量破壊兵器は、約1年も時間をかけ必至に探したものの何もでてこなかった。たとえフセイン政権がどれだけ専制政治を行った独裁政権であろうとも、一方的に他国を先制攻撃することは、戦後の国際的枠組みのなかで許されない。 そのなかで強引に3月20日、米英が行ったイラク戦争は、まさに「侵略戦争」そのものと言ってよい。事実米国の現役の共和党議員もそう言っている。まして世界を脅威に陥れると喧伝し、それを他国攻撃の最大の理由としたことを考えれば、大量破壊兵器の不存在は決定的である。 2003年暮れから2004年のはじめにかけ、ブッシュ政権のオニール財務長官や大量破壊兵器探査の責任者でもあったケイCIA顧問が大量破壊兵器が存在しないことを暴露し、財務長官やCIA顧問の要職を辞職した。米国の第三者的なシンクタンク、カーネギー平和研究所も大量破壊兵器は存在しないと言う報告書を出した。 一方、この間、イラク国内では一般市民を中心に米国のNPO、ボディー・カウント(下図参照)の調査によれば、1万人以上が死んでいる。また米英など兵士500人以上が死亡している。 ブッシュ政権は苦し紛れに、イラク戦争の大義を大量破壊兵器の存在から、民主化、さらにテロとの戦いと、勝手に変えている。米英などアングロサクソン流の民主主義と違う政治形態をもつ国家であれば、米英が一方的に戦争をしかけてよいなどと言う理由は、まったくあり得ない。またテロとの戦いについても、いわゆる西欧諸国、とくに米英へのテロ行為は、元はと言えば米英的価値観をアラブ諸国、イスラム諸国に押しつけたことに大きな原因が求められるはずである。 出典:Iraq Body Count,21 March,2004 ところで、2004年3月に起きたスペイン国内での列車爆発に対し、スペインのアスナール首相は、すぐさまスペイン北部にいるETA(バスク祖国と自由)の犯行であると言明した。私はこの大規模列車爆発事件の一報を聞いたとき、すぐさまイラク戦争に全面荷担したスペインのアスナール前政権への仕返しではないかと感じた。 列車事故の直後に分かったことだが、アスナール首相はすぐそばに迫った選挙との関係で、もしイラク戦争にアスナール前政権が荷担したことへの報復で列車爆発が起きたことになれば、選挙が大いに不利になると判断した。そこでアスナール首相は誰が列車爆発を行ったかについて事実を確かめることなく、「ETAの仕業であると」言明したのである。さらに、アスナール首相は、何と新聞社や通信社に直に電話を入れ、ETA首謀説を流したのである。 周知のようにその数日後、アルカイダ筋から列車爆破の犯行声明が出るに及び、アスナール首相の情報操作が明るみに出てしまった。2004年はじめから3ヶ月間、ブッシュ大統領が自らの侵略戦争を覆い隠すためさまざまな情報操作をしてきたことが明るみに出たが、アスナール首相もその例外ではなかった。
その結果、列車爆発事故の直後に行われたスペインの総選挙でアスナール首相派は全面敗北し、政権交代が起きた。しかも新たなシャッパセロ政権は、イラクに派遣しているスペイン兵を6月以降撤兵する可能性があると言明した。 これは大義のない戦争に国内、国際世論を押し切り、一方的に荷担したスペインの末路と言えるわけだ。事実、3月20日前に行われたスペイン国内世論調査では、何と77%が国連承認なしのイラク戦争への参戦に反対していたのである。その意味で、国民世論に逆らって米英に追随したアスナール政権の末路がここに明白になった言える。 こんな時、小泉首相は、イラク戦争は「正しい戦争」であると記者団に強弁した。そもそも正しい戦争などあり得ない。今この時期に至ってこんなことを言っている首相をいただく我々日本人は、スペインの二の舞になる可能性が高まったと言っても過言ではない。まさに、理不尽な侵略戦争に諸手をあげ支持した小泉首相の責任が問われるときが来たと言える。 理不尽な戦争に反対しながら多数の死者を出したスペイン国民に追悼の意を表したい。 |