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NHK「圧力」問題 済まされぬ「藪の中」

中国新聞 2005年1月21日朝刊 社説

掲載日:2005.1.21
 

 NHKの特別番組の改編で、自民党の安倍晋三・幹事長代理と中川昭一・経済産業相の圧力があったかどうかをめぐって波紋が広がっている。論議は水掛け論の様相を呈しているが、ジャーナリズムの根幹にふれる問題をはらんでいるだけに、「藪(やぶ)の中」では済まされない。

 問題となった番組は二〇〇一年一月に放送した従軍慰安婦問題を扱った「問われる戦時暴力」。前年の十二月、市民団体が開いた「女性国際戦犯法廷」を取り上げ、教育テレビで放送された。

 発端は今月十二日の朝日新聞朝刊の「中川経済産業相と安倍幹事長代理が、放送前日にNHK幹部を呼んで『偏った内容だ』などと指摘した」との記事。翌日には、番組制作を担当したチーフプロデューサーが「政治的な圧力を背景にした番組の大幅な作り替えがあったと思う」と告発会見した。

 このチーフプロデューサーによると、NHK幹部が安倍氏と会った後、放送総局長らの立ち会いのもとで試写が行われた。その際、内容の一部が変更され、予定より四分も短くなったという。

 これに対し、安倍氏はNHK側から予算の説明をしたいというので会った。番組について説明があり、偏った内容であるためNHKに求められる公正中立の立場で報道すべきだと指摘した。中川氏はNHK側と会ったのは放送の後だ―と述べ、いずれも圧力を否定している。

 さらに、安倍氏と面会した当時の放送総局長が記者会見し、朝日新聞の報道について「故意に意図を変えて書かれた。極めて遺憾」と訂正と謝罪を要求。朝日新聞は「記事は正確だ」としてNHK側に抗議、謝罪と訂正を求めている。

 表現の自由を保障する憲法二一条は検閲を禁じている。放送法は放送番組に政治的公平や事実を曲げないよう求めると同時に、何人からも干渉されない、と不当な圧力がかけられないよう規定している。

 焦点は二つある。政治の介入が事実であったとすれば事前検閲である。水掛け論の応酬で事実関係をうやむやにしてはならない。国会が真相究明に乗り出すか、第三者機関に委ねて徹底的に調べるべきだ。

 もう一つはNHKの姿勢、体質である。NHKの予算や決算は国会の承認が必要であり、かねてから政治に弱い体質が指摘されてきた。予算の説明は当然としても、そもそも特定の番組内容を放送直前に国会議員に説明する必要があるのか。このこと自体が報道機関としては極めて異例であり、自殺行為と言ってもいいミスである。

 仮に圧力がなかったとしても、放送直前に放送現場の最高幹部が今回のような動きをして、番組内容の「異例の変更」が行われれば、現場の関係者ならずとも「何かあったのでは」と、疑念を抱くのは自然ではないか。

 NHKは昨年、番組制作費の詐取事件など不祥事が続出。海老沢勝二会長ら上層部の生ぬるい対応が、受信料不払いなど世論の厳しい批判を浴び、信頼が大きく揺らいだ。今回も対応を誤れば不信はさらに増幅されよう。