エントランスへはここをクリック    

元大阪高検部長裁判
公判前に判決文が国会議員へ流出!?

青山貞一

掲載日:2005.2.1

 2005年1月29日、以下の日刊ゲンダイの記事が出た。

 大阪地裁で審議中の元大阪高検公安部長、三井環被告をめぐる収賄事件の判決内容が、事前に国会議員等に漏洩していたと言うものである。日刊ゲンダイには、漏洩していた国会議員として民主党の河村たかし衆議院議員の実名がでている。

 日刊ゲンダイの記事を読むと、裁判所または法務省に関連職員からの内部告発なのか、それともいわゆる怪文書なのか分からない。

 そして2005年2月1日、大阪地裁で同裁判の判決が出た。

 日刊ゲンダイの記事と大阪地裁判決の主要な部分を比較すると以下の通りとなる。

求刑 内部告発・怪文書 大阪地裁初審判決
大阪地裁
判決
懲役3年、
追徴金28万2850円
懲役1年、執行猶予なし 懲役1年8ヶ月、執行猶予なし
追徴金22万2837円
収賄の一部は無罪 収賄の一部は無罪

 上記を見ると、内部告発・怪文書にある判決内容と2月1日の大阪地裁半径は、かなり近い内容であると思えるが、果たして事前に国会議員等に流出した判決文が単なる怪文書なのか、それとも日本の検察、裁判所、法務省からの内部告発なのか、明確であるとは言えない。

 もっぱら、万一、日刊ゲンダイの記事にある内部告発が事実だったとたら、検察、裁判所は大騒ぎとなることは間違いない。そして、判決当日の2月1日までに、当初の判決内容を何としても手直しし、内部告発は単なる怪文書に過ぎないことにせざるをえないだろう。そのような手直しが果たして手続き的に可能かどうかは分からないが、少なくとも物理的に不可能とは言えない。
       
 より重要なことは、元大阪高検の三井環部長が当時、「私は、検察庁が国民の血税である年間5億円を越える調査活動費の予算を、すべて私的な飲食代、ゴルフ、マージャンの「裏金」にしていることを、現職検察官として実名で告発する決意を固めていました。」と内部告発したことだ。

 なぜなら、三井環元公安部長が内部告発した内容は、その後、北海道警にはじまり全国各地の警察における公金不正支出による裏金づくりと不正使用の大きな前触れとなったからだ。

 不正を調査し、摘発すべき警察や検察、少なくとも警察がさまざまな方法を用いて「裏金」づくりをしていたことは、周知のことである。大阪地裁の判決は、検察の不正を内部告発した三井元公安部長の当時の言動をもとに、異例のコメントを出している。三井氏は、いわゆる別件逮捕され起訴されたわけだが、三井氏が当時、身を呈して国民に告発した内容は、現在でも、きわめて重要な意味をもっていると言える。

 その三井氏だが、当時、ジャーナリストの鳥越氏がキャスターをしていたテレビ番組に内部告発を前提に、出演予約を行っていた。その出演当日に三井氏は別件で逮捕され、収監されたことになる。

 国民にとって重要なことは、三井氏が別件で逮捕、送検されたことと、三井氏が内部告発したことを天秤にかけたとき、一体どちらがより重要であるかと言うことだろう。いまの日本では、あらゆる分野で「泥棒に金庫番」、「猫にカツオぶしの番をさせる」状況となっている。その意味でも、本事件を単なる収賄事件に終わらせてはならないと思う。

 以下は、元大阪高検部長、三井環氏のホームページである。
 裏金告発!三井環のホームページにようこそ

  
日刊ゲンダイ 2005.1.29

 ●関連記事
 三井被告に実刑、懲役1年8月 大阪地裁判決毎日新聞 2005.2.1
 捜査情報漏えい: 鳥越俊太郎さん「疑惑突かず判決は茶番」毎日新聞 2005.2.1
 「予想外の結果」実刑の三井被告、判決批判 読売新聞 2005.2.1

 

元大阪高検部長汚職事件:三井被告に実刑 収賄などで1年8月
大阪地裁判決
 毎日新聞 2005年2月1日 東京夕刊

 ◇検察の職務悪用

 捜査情報漏えいの見返りに元暴力団組員(42)から接待を受けたなどとして、収賄、公務員職権乱用罪などに問われた元大阪高検公安部長、三井環(たまき)被告(60)に対し、大阪地裁は1日、懲役1年8月、追徴金22万2837円(求刑・懲役3年、追徴金28万2850円)の実刑判決を言い渡した。収賄の一部は無罪とした。宮崎英一裁判長は、事件が検事としての職務と関連したり、暴力団との交遊の中で行われたと認定し、「検察幹部は高度の廉潔性が求められ、刑事司法に対する社会の信頼を損ない、悪質」と述べた。弁護側は控訴する。

 ◇「調活費は糾明必要」

 三井被告は、検察幹部による調査活動費(調活費)の不正流用疑惑を公判でも訴えた。判決は「調活費の不正流用問題は社会的に重大な問題。検察幹部として関与したとの被告の供述は軽視できず、問題糾明が必要なことは明らか」と踏み込んだ指摘をした。しかし「処罰とは別の問題で刑罰が減免されるものでない」と実刑の理由を述べた。

 三井被告は、調活費問題を実名で告発しようとした矢先の02年4月、大阪地検特捜部に逮捕され、「逮捕は口封じ」と無罪と公訴棄却を求めた。判決は、逮捕の経緯などから「捜査・起訴が口封じの意図に基づくものと主張するのは、無理からぬところだ」と弁護側に一定の理解を示したが、「被告が調活費問題を公表しようとする活動をしていたからといって、捜査を控えなければならないということにならない」と捜査の正当性を認めた。そのうえで「いずれも犯罪は成立し、起訴が裁量を著しく逸脱したとはいえない」と公訴棄却の主張を退けた。

 公判で検察、弁護側は全面的に対立。最大の焦点となった収賄罪について弁護側は「私的な接待」と主張したが、判決は、収賄の起訴事実6件のうち5件について職務関連性を認定。01年7月のホテルでの接待については、贈賄側の元組員の供述の信用性を認めず、無罪とした。

 判決は、前科調書を取り寄せるなどした公務員職権乱用罪について「捜査上必要がなく、公務執行の適正に対する国民の信頼が害された」と指摘。落札したマンションへの居住を装うなどした詐欺罪などについても「経緯に酌量の余地はない」と述べた。

 検察側は「逮捕・起訴と調活費問題は無関係」として論告は調活費問題に触れず「検事の職責を売った前代未聞の悪質な犯行」と指弾していた。

 三井被告は02年5月、懲戒免職された。【一色昭宏】


三井被告に対する判決の認定事実

 《電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺罪》01年7月、競売で落札した神戸市中央区のマンションに居住しているように装い、虚偽の転入届を区役所に提出した。翌8月には、登録免許税の軽減措置を受けるための「住宅用家屋」証明書1通を詐取した。

 《収賄罪》01年6〜7月、元暴力団組員(42)=贈賄罪の実刑判決確定、既に刑期終了=から、情報収集で便宜を得たいとの趣旨と知りながら、大阪や神戸の高級クラブなどで計4回約15万円相当の飲食の接待を受けた。さらに大阪市天王寺区のホテルで約7万円相当の女性の接待を受けた<北区のホテルでの女性の接待は無罪>。

 《公務員職権乱用罪》職務上必要がないのに、00年8月に松山地検、01年2月に神戸地検から、暴力団組織の活動状況などを記した捜査資料を部下に命じて入手した。01年7月と11月にも、贈賄側の元組員らの前科調書を大阪高検から取り寄せた。