価値紊乱者としてのホリエモンを評価する 田中康夫 初出:日刊ゲンダイ連載【奇っ怪ニッポン】2005年2月24日 掲載 掲載日:2005.2.24 |
毀誉褒貶相半ばするホリエモンこと堀江貴文氏なる人物を、我々は如何に捉えるべきでありましょうか。僕は思います。価値紊乱者としての彼を積極的に評価すべきではないか、と。
凡百の経営者や政治家が感情的批判を繰り広げる中、畏兄として僕が一目を置く三井住友銀行頭取の西川善文氏は22日、全国銀行協会長としての会見で企業買収に関し、一般論として以下の看破を行っています。 「企業買収そのものは、経営者が交代し、内部の事業再編も行われ、企業の活性化が進み、成長が促進されるなら、決して悪い事ではない。単に対象企業の経営者が同意しない、という事だけを以て敵対的と決め付けて良いのかどうか。それまでの経営者だけが困る、というケースも無い訳ではない」と。 その一方で畏兄・西川氏は、以下の発言も行っているのです。 「立会外取引は飽く迄も場内の取引で、株式の公開買い付け、TOBの制度とは異なる。企業の経営支配に至る程の取引が行われるのは恐らく想定外の事で、立会外取引の在り方は今後検討されるべき。又、企業買収への適切な対応策とは如何なるものか、色々と議論される事は意味があり、それが企業買収の正当性、透明性の確保に繋がっていくのでは、と思う」 実に慧眼であります。銀行や損保、生保が上場企業株の持ち合いをしている日本は閉鎖的であると述べ、開明的な自分を演じていた経営者や評論家が踵を返し、ホリエモンを批判するのは一種、滑稽です。さらには明日は我が身と怯えたのか、安定株主の金融機関や取引先はTOBに応じる姿勢、などと「安定株主」なる閉鎖的用語をマスメディアは不用意に用いて、報道しています。 政治や経済や社会を批判しながら、自身への批評は受け入れようとしなかったマスメディアは、護送船団「記者クラブ」なる保護貿易主義の鎖国状態下で「カルテル」を組んできた集団と言えます。記者クラブ所属の新聞、TVに携わる者のみがジャーナリストに非ず、市民誰もが表現者、との哲学に基づいて「『脱・記者クラブ』宣言」を4年前に発した僕と同じ”トロツキスト”な体制内変革をホリエモンは今回、敢行しているのです。ブログ日記の中で彼は以下の趣旨を語っています。 「経営陣が株主に文句言われず、自由に経営したいって事?だけど、会社は資本金無しでは運営不可能。じゃあ、誰が金を出してるの?株主でしょ。経営陣は株主から経営を委託されてるだけの存在なんだよ」 無論、それは彼自身にも戻ってくる科白であります。而して、企業市民として彼が今後、社会に貢献のみならず還元する企業を如何に展開していくか、という課題をも含んでいます。 とは言え、今までの株主の為の経営者、市民の為の企業という自覚も気概も覚悟も持ち合わせぬ儘、「資本の論理」の下で安穏としてきたアンシャンレジーム(旧体制)な面々が、ホリエモンを「資本の論理」だと非難するのは、実に不思議な話です。 |