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田中康夫知事、異例の議長申し入れの背景

〜法的検討(その1)〜
青山貞一
掲載日:2005.3.10

 田中康夫知事の異例の申し入れ(以下参照)にもあるように、長野県議会の一部議員による下劣きわまりない侮辱的なヤジや人格攻撃的質問への県民、世論の批判が日増しに高まっている。本来議論、審議の場であるべき議場でのおよそ聞くに堪えないヤジの数々は、由々しき事態であると言って良い。

議会答弁中の信州・長野県知事、田中康夫氏。

最近の主なヤジ

以下は、北山早苗県議のHP(さわやか早苗日誌)より

「嘘つけ、何言ってやがるんだ、笑わせるんじゃねえぞ」(当たり前のことを当たり前に語り合える開かれた県政を目指す、と説明していた時。以下カッコ内は知事説明)

「おめえのせいだ」(国地方合わせた借金で、国家的破綻状態)

「なるわけねえじゃねえか」(田中県政による財政改革プログラムが実行されなければ、今年度に財政再建団体へ転落していた)

「しかし、くだらねえ文章考えたもんだな〜、てめえの頭溶かせ、題目ばっか並べんじゃねえよ」(過去を溶かし、現在を育み、未来を創る)

「何言ってやがるんだ、このやろ〜」(ばか者・よそ者・わか者)

「おい、その前に長野県でやってみろ、おめえ」(他の知事とも協力して、国へ具体的提言をして行く)

「おめえが行ってこい」(ブラジルに日本語教師を派遣)

「おめえがやめれば、もっと増えるわ」(林業の新規参入定着者が増えた)

「詐欺はおめえじゃねえか」(振り込め詐欺やヤミ金による消費者被害を防ぐ対策事業)

「完璧、自分に酔っている、このやろう」「おあい、3文小説家書いてんじゃねえぞ、獄中で書いてこい、獄中で」(山口村申請にあったっての無念な想い)


以下は田中康夫知事のコラム(奇っ怪ニッポン)より

「水ぶっかけてやれ」

「能力無い奴は早く辞職しろ」

「この詐欺師、笑わせんじゃねえぞ」

「嘘八百、よく並べられるもんだ」

「立て、こら、早く」

「バカな事、こいてんな」

「この野郎、テメエの頭、改革しろ」

「にせオンブズマン、もう、辞めろ」

「おら、お前、腹を切れ」

 今の長野県議会では、非常に遺憾なことだが、理念、政策、施策、予算の真摯な議論は見えず、「政策」的な議論を敢えて「政局」化しようとする一部議員と一部メディアによって、未だかつてない緊張に包まれていると言っても過言ではない。44名の議員が田中康夫知事の不信任を決議した2002年に近い状況が現出していると言ってもよい。

田中康夫知事、長野県議会議長に異例の申し入れ!
北山早苗:品位のかけらもない長野県議会A
北山早苗:品位のかけらもない長野県議会@
北山早苗:議員説明へのヤジ

 このようなヤジや人格攻撃的な質疑を議会は、不規則発言などとして処理し、不問に付そうとしていることが多いが、日本の法律や規則、自治体の条例はこれら議場におけるヤジや名誉毀損、侮辱的な言動をどう懲罰などとして規定しているのであろうか。以下に地方自治法の第6章 議 会及び議会規則から関連する部分を引用する。

 それによれば今の普通地方公共団体の議会は、地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができることになっているが、現下の長野県議会のように圧倒的多くの議員が反田中知事で結束しているような場合には、「品位のかけらもない」(北山議員)発言をしても人身攻撃的質問をしても、懲罰どころか不問に付されることが多く、いわば無法状態の呈していると言えよう。

 もちろん、地方自治法の規定以外に、法的には名誉毀損、侮辱などの不法行為を受けた理事者は、民法709上などで議員対し損害賠償を請求できる。

 周知のように、日本国憲法51条には院外無答責がある。しかし、名誉毀損裁判では、仮に公務員や特別公務員(議員等)であっても議会で述べたことが虚偽だったり、顕示した事実が真実でない場合には、相手が議員であっても不法行為が成立する。もちろん、上記損害賠償の対象となる。したがって、議会内だから何を言っても良いわけでない。また相手を特定してのヤジ発言も同様だ。

 つい最近、かの鈴木宗男議員を指して「日本一ダーティーな政治家」と述べた民主党の議員に東京地裁は不法行為を認め、損害賠償の判決を出した。このように、顕示した事実が真実でない場合には、議員であっても損害賠償は成立するのである。


以下地方自治法より抜粋。黄色く色を付けた部分は青山

第2編 第6章
第9節 紀 律

第129条 普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。

2 議長は、議場が騒然として整理することが困難であると認めるときは、その日の会議を閉じ、又は中止することができる。


第130条 傍聴人か公然と可否を表明し、又は騒ぎ立てる等会議を妨害するときは、普通地方公共団体の議会の議長は、これを制止し、その命令に従わないときは、これを退場させ、必要がある場合においては、これを当該警察官に引き渡すことができる。

2 傍聴席が騒がしいときは、議長は、すべての傍聴人を退場させることができる。

3 前2項に定めるものを除く外、議長は、傍聴人の取締に関し必要な規則を設けなければならない。

第131条 議場の秩序を乱し又は会議を妨害するものがあるときは、議員は、議長の注意を喚起することができる。 

第132条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。

第133条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において、侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる。


第2編 第6章 第10節 懲 罰

第134条 普通地方公共団体の議会は、この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。

2 懲罰に関し必要な事項は、会議規則中にこれを定めなければならない。 

第135条 懲罰は、左の通りとする。

1.公開の議場における戒告
2.公開の議場における陳謝
3.一定期間の出席停止
4.除名2 懲罰の動議を議題とするに当つては、議員の定数の8分の1以上の者の発議によらなければならない。

3 第1項第4号の除名については、当該普通地方公共団体の議会の議員の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意がなければならない。 

第136条 普通地方公共団体の議会は、除名された議員で再び当選した議員を拒むことができない。

第137条 普通地方公共団体の議会の議員が正当な理由がなくて招集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議に欠席したため、議長が、特に招状を発しても、なお故なく出席しない者は、議長において、議会の議決を経て、これに懲罰を科することができる。

以下は議会規則

第118条 議員は、議会の秩序及び品位を重んじなければならない。
第121条 議員は、会議中みだりに議席を離れてはならない。
第123条 何人も、会議中は、みだりに発言し、騒ぎ、その他議事の妨害となる言動をしてはならない。