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ベルリンで聴いたジャスボーカル
Ann Hampton Callaway

青山貞一
掲載日:2005.5.6


  2004年の夏、恒例の国際ダイオキシン会議がドイツのベルリン工科大学で開催され参加した。この国際会議は、おおよそ1週間同じ場所で開催される。

 私は仕事でよくオーストリアのウィーンに行く。ウィーンと言えばウィーンフィルの拠点。モーツアルトやシュトラウスが町中で聴ける、宿泊先のホテルで当日券などを買っては、弦楽四重奏などを聞きに行ったものだ。

 ベルリンでも滞在中に何としても、何とか音楽を聴きたい。というのも前年、この国際会議がボストンで開催され、宿泊先のホテルがボストンフィルのすぐそばだったにもかかわらず、結局、聞きそびれたからだ。

 もっぱら、国際会議の開催地がベルリン。会議のオープニングセレモニーでまさしく弦楽四重奏がしばしの時間、演奏された。


国際会議のオープニングセレモニーでも(ベルリン工科大学にて)


 そこで国際会議の合間に、市内を縦横無尽に走る地下鉄を使ってコンサートホールめぐりをすることとした。最初に行ったのはミッテ地区にあるコンツェルトハウスだ。地下鉄駅はシュタットミッテ駅が最も至近。フランス大聖堂とドイツ大聖堂のに挟まれた広場にあるのがコンツェルトハウスだ。このミッテ地区は、旧東ベルリンに属し、近くには有名なフンボルト大学などもある。

ベルリンのコンツエルト・ハウス

 コンツェルト・ハウスはベルリンで最も美しいと言われる広場の一角にある。かのワグナーが「さまよえるオランダ人」を指揮したことで世界中に知られるコンサートホールである。入り口でここ1週間の予定をチェックするが、夏場はほとんどコンサートはないことが分かった。無念!


コンツェルトハウスの隣にある修復中のフランス大聖堂


 それではと同じミッテ地区にある国立オペラハウスに出向く。ベルリン市内には3つの国立歌劇場があるが、建築様式や格式では圧倒的にこの国立オペラハウスが秀逸である。すでに創立260年以上を迎えている。コンツェルトハウスから徒歩で約6分、国立オペラハウスに行くも、ここでも学会滞在中、オペラやコンサートの上演はない。がっくり。


ベルリンの国立オペラ座


 結局、この日は時間切れで学会の会議に戻ることとした。
 数日後、このままではベルリン滞在中、音楽が聴けない!と焦り、国際会議セッション終了後、ポツダマープラッツ(ポツダム広場)近くにある超有名なベルリンフィルハーモニーのコンサートホールにでかけた。ところが、最後の砦のはずのここベルリンフィルでも、滞在中クラシック音楽のコンサートはない。夏枯れ?か。

 だが、スケジュールをよく見ると、翌日の夜にジャズ・ボーカルのコンサートがぽつりと入っていた!

 当日券もある。アン・ハンプトン・キャラウェーと言う女性歌手だ。

 背に腹は替えられない。翌日の夜、池田さんとポツダム広場のソニーセンターの脇を通り、ベルリンフィルハーモニーのコンサートホールに急ぐ。ひょんなことから建物を間違えてしまい、到着したときはすでに演奏ははじまっていた。いつものことだが、日本以外ではたとえウィーンやベルリンでも、かなりの席が3000〜4000円で得られる。この日も、結構好い席に案内された。


ポツダム広場の一角にあるソニーセンター



SLOWのCDジャケット

実は、ベルリンで聴くまでアン・ハンプトン・キャラウェーなる米国の女性歌手のことは知らなかった。

 しかし、聴いてびっくり。何とすばらしい超一級のジャズボーカリストである。エンターテナーとしても一級だ。

 事実、私たちが知らなかっただけで、彼女は毎年、米国、カナダ、EU、オーストラリアなど世界中で歌いまくっている。

 この日は、彼女のニューアルバム、SLOWに収録されている曲を中心に10数曲歌ってくれた。

 どの曲もすばらしかった。CDのタイトルとなっている SLOWは忙しく、あわただしくゆとりのない、殺伐とした現代社会への批判、対極を描いたものとして秀逸だ。マンハッタンを歩きながら、ひとりでに浮かんできた曲、という彼女の解説もあった(池田さんのコメント)。

SLOWの歌詞
 

 その他、I’ve Dreamed of you も絶品だ。さらに、有名なスタンダードのYou Belong to Me もよかった。


ベルリンフィル・コンサートホール


 好きなクラシックをオーケストラで聴くことはできなかったものの、真夏の夜にベルリンフィルのコンサートホールで我を忘れるようなうっとりとさせられる女性ジャズボーカルが聴け、ことのほか、大満足だった。叙情をしっかりと丁寧に感情を込めて歌いこむ。けだるく、せつなく、こんな歌い手は、今までおめにかかったことがない。
 
 演奏のインターミッションでは複雑な建築構造となっているコンサートホールから抜け出たフロアでソフトドリンクや簡単な食べ物がとれる。ニューアルバムのCDも1枚1500円程度で購入できた(上の写真参照)。

 帰国後、池田さんがインターネットで検索し、彼女の他のCDなどを注文した。若い頃のCDを含め、どれもこれも秀逸だ。

 環境総合研究所の会議室の片隅においてあるBOSEのAWMで聴く、アン・ハンプトン・キャラウェーは格別である。

 いずれにしても、3000円そこそこでかくもすばらしい生のジャズボーカルに出会え、1500円そこそこでかくも秀逸なCDが買えると、日本のライブや売られている音楽CDの値段は一体何だ、と思えてくる。

 SLOWは、ぜひ、一度聴いて欲しいCDの一枚である。

 アン・ハンプトン・キャラウェーの今年の世界ツアー
 彼女の曲(CD)ラインアップ