末期的症状を呈する自民 その2 「道路公団民営化」が残したもの 青山貞一 掲載日2005.8.7 |
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郵政民営化法案をめぐり、自民党が分裂の危機に瀕している。その自民党議員にとっては、権力の座にい続けることが最重要課題であることが多い。 よって、おいそれ簡単に自民党は分裂することはないと思う。過去を見ると、社会党、や公明党と手を組み、無節操と言われようと何と言われようと、権力の座を死守し、奪取してきたことは記憶に新しい。今回の郵政民営法案問題でも、おそらくそう簡単に政権の座から降りるとは思えない。 だが、小泉首相が自民党をぶっ壊してまで、敢行すると言明した行財政改革が、果たしてどこまで本物なのか、見かけだおしのものなのか、国民からすればまさにそこが重要だ。 小泉首相が「官」から「民」へ、民でできることは積極的に民へ、を旗印に首相就任以来してきたことを振り返るとき、そこには一体、何のため、誰のための改革なのかで疑問を感じざるを得ないものも少なくない。 私も基本的に「官」から「民」へ、民でできることは積極的に民へと言う標語に表現される構造改革を支持する。しかし、小泉改革の背景にある、グローバルスタンダード、すなわち米国流のローカルに固有な問題を考慮せず、国際標準で米国の弱肉強食を押し付けるやり方は、日本を51番目の米国の州とするならまだしも、日本全体をトータルとしてダメにする可能性があると思う。 ところで小泉改革で最も首を傾げたくなるのが道路公団民営化である。これこそ、まさに小泉改革で、最も首をかたげたくなるものだ。 そもそも道路公団民営化の目的は何だったのか? 日本の公共事業額は、世界最大、国土で何十倍の米国を抜き、総額でも単位面積当たりでも、GDP比でも世界最大を誇ってきた(苦笑)。以下のデータは約10年前のものだが、まさに日本の公共事業費の総額が以下に大きなものであったかを例証するものだ。 日本の公共事業費の中で最も割合の多い事業は、道路事業である。もちろん、道路事業と言っても国土幹線自動車道路、都市高速道路などの高速道路、国、都道府県、市町村に至る一般道路などさまざまなものがある。 周知のように、日本の高速道路は、もともと個々の道路を利用する者が通行料を払う方式で出発し、ゆくゆく建設費を利用料で償還した後は維持管理のために必要となる分だけを利用者から徴収することとなっていた。たとえば首都圏では第三京浜でほぼそれが実現している。事実、東京から横浜(都築インター)まで利用してもわずか150円である。 しかし、上記の個々の道路ごとの建設費を利用料によりまかなう方法は、知らぬまに変更され、日本全国いたるところで道路公団により建設される高速道路の建設費に利用可能なもの、すなわちいわゆるプール制とされた。 これにより、何十年、いや100年経っても建設費が償還されないような、ほとんど自動車交通の需要がない、地域にも立派な高速道路が次々と建設されていった。 そのため、次のような課題が生ずるに至る。 1)いつになっても、先行する交通量が多い東名のような高速道路でさえ、建設費は償還されなくなった。そのため、第三京浜道路のように、利用料が実質的にゼロに近づくことはなくなり、逆に年を追って利用料が高くなっていった。 2)ある時期まで、高速道路の関連施設には、いわゆる郵便貯金などを原資とする財政投融資が投入されてきた。その金利負担も膨大なものとなっていった。この結果、古く利用率の高い東名のような高速道路でも、その利用料金は世界一高額となっている。 3)高速道路に付随して建設される連絡道路や一般道路、ランプ等の建設費が巨額なものとなり、国、自治体の財政を圧迫するに至った。これらは、利用料で償還されることはない。 4)連絡道路、一般道路はガソリン税、軽油税、自動車保有税、重量税などを財源とするものの、建設国債などの国庫補助、地方交付金、自治体の起債を当て込んで建設する。そのため、高速道路を建設すればするほど、国、自治体の累積債務が増加し、その利子補給で一般会計を圧迫するに至る。 5)上記に関連し、高速道路に関連する諸施設に、建設省やその外郭団体であった道路公団から膨大な天下りが起こる。その結果、維持管理、保守、サービスセンター、道の駅に至る関連施設が利権の種となった。 6)さらに、道路や関連施設の建設に際し、官製談合が頻発する。現在、全国各地で橋梁談合問題が噴出しているが、これらの談合ではもともと道路公団にいた理事等の幹部や職員がゼネコンや設計・測量会社、コンサルタントに天下っていることに大きな原因がある。 7)上記の道路公団にからむ各種利権が与党政治家の口利きの種となっている。 8)こうして道路公団事業は政、官、業の癒着のもと利権の種となってきた。官製談合によって建設費や維持管理・保守費は高騰し、国、自治体の累積債務は増え、結果として国民は世界一高い高速道路利用料金を支払わされることになった。 道路公団の民営化は、本来、赤字であれ政治家の口利きにより、次々に道路を建設する現行のシステムを止めさせ、不要な高速道路をつくらないこと、また高速道路利用料金を安くさせること、国、自治体の累積債務をこれ以上増やさないことなど、最終的に国民にメリットをもたすものとして行われるはずだった。 当初、道路公団民営化推進委員会が改革の基本としたのは、「新会社は道路資産のリースを受 ける返済機構から10年をメドに資産を買い取り、返済機構はその時点で解散する」という点であった。 官から民へと言う構造改革の観点から見ると、国土交通省(旧建設省道路局)及び自民党道路族からの呪縛を切り、自立経営が可能な特殊会社ではなく株式会社となるためには、道路資産を自社所有することが大前提であるはずだ。これにより貸借対照表、バランスシートを自ら描けることになり、事業経営が可能となる。まさに自己責任のもと道路事業が可能となるはずだ。 しかし、結局、国土交通省(政府)と自民党道路族(与党)は上記の大前提を無視したのである。政府は返済機構を時限的なものから、最終的に半永久的に存続可能なものとなってしまった。その結果、道路資産はいつまでも国のものとなる。高速道路は今後も国土交通省(国)の裁量のもとで建設を継続することになるのである。要約すれば、形の上で道路公団は民営化されても、新らたにできる株式会社は実質的に道路公団の看板がつけ代わっただけのものとなるのである。 本来、道路公団民営化と言う行革の核心は、国(行政)が無制限に権限行使できるしくみになっていることにあったが、結局、国(国土交通省道路局)と俗議員が権限を行使できる仕組みが残ってしまった、と言えるのである。 さらに、これでは、橋梁談合のような官製談合や自民党某大物参議院議員の天の声、ツルの一声で不要な高速道路が今後も建設される可能性が大となる。 建設省道路局、道路公団と土建業者、橋梁業者、維持管理会社、サービスセンター会社などの基本的関係は変わらず、 結局、泰山鳴動しネズミ一匹も出ないのが道路公団民営化であるといえる。 以上を総括すると以下である。 小泉内閣が「改革の目玉」としていた道路公団民営化における質は、過去、道路公団がためにためた40兆円もの債務(借金返済)をどれだけ少なくできるか、同時に無駄な道路建設をストップできるか、その結果、国民にとって廉価に高速道路が利用できるか、の3点にあった。 だが政府与党が成立させた法案は、これまでどおり政府保証つきの借金で道路を建設可能ととなるうえ、新たに税金も投入して、いわゆる自民党の道路族が金科玉条としてきた日本全体での整備計画路線、9342km、さらに予定路線1万千5百キロの道路を建設しかねないものであった。同時に、道路公団民営化の目玉、40兆円(国の一般会計予算の1/2に及ぶ)の巨額借金の返済のメドは立たず、民営化された道路公団がファミリー企業ともども、各種の道路利権の更なる温床となりかねない状況にある。 これでは、不要不急の道路建設に何の歯止めがかけられず、道路料金も下がらない。 ちなみに、民主党は道路公団を完全に廃止し、高速道路を無料化することを提言している。ここではその是非を論じない。
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