独立行政法人は廃止すべし 〜増える天下りと役員給与〜 青山貞一 掲載日2005.8.22 改訂 2007.9. 17 |
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本稿は、当初2005年8月22日に執筆したブログである。 その後、安倍内閣が頓挫する直前、渡辺行革担当大臣が、2007年9月4日の閣議後会見で、「無駄な事業が多い」という批判が出ている独立行政法人に関して、各省庁から提出された見直し案に法人を廃止する案がまったくなかったことに触れ(いわゆるゼロ回答)、各省庁に案を差し戻し、再検討を求める考えを示した。 もとより政府は「むだな事業が多い」という批判が出ている独立行政法人について 、本当に必要な事業以外はすべて廃止とした基本方針を閣議決定し、各省庁に8月末までに、所管する独立行政法人の事業の見直し案を提出するよう求めていた。 以下は、2005年8月22日に執筆したブログのうち、一部新たなデータを追加したものである。 ●独立行政法人設立の経緯 小泉政権による「民営化モドキ」の具体例は、何も道路公団の民営化に限らない。 公社、公団、特殊法人改革の一環として2001年4月につくられた独立行政法人制度も、そのひとつだ。 いわゆる廃止や民営化から逃れた公社、公団、特殊法人、国立試験研究機関を対象に独立行政法人制度が導入されている。 ※独立行政法人設立の経緯 独立行政法人の数は2003年末現在で95法人、また2004年の4月に全国津々浦々の国立大学89校が独立法人(国立大学法人)となった。その他としては、国立病院・療養所144が独立行政法人(国立病院機構)に統合された。 これら独立行政法人の実態を見るにつけ、独立行政法人が国立機関からの看板の掛け替えであり、弊害や無駄があってもプラスの面が少ない事が分かる。 一番の弊害は、関係省庁から独立行政法人への天下りである。国から独立行政法人への補助金額(税金等)が減っていないことからもこのことがも分かる。 さらに複数の組織をひとつの組織に統合した、と言っても、総務省主導の平成の大合併同様、合併後の合計職員数はもとの数と比べ、大して減っていない。 逆に理事等の管理職数が大幅に増えている。さらに問題なのは、税金等を使ってする必要がないことが、これらの独立行政法人において行われていることである。 結局、独立行政法人化は、表向きは国立機関や準国立機関が減り、公務員や準公務員数の一部が減っただけで、補助金、助成金、委託費など税金の投入額はさして減らない。そのうえ、天下りしてきた官僚らによる強権的な経営や運営ばかりが目立っている。 2005年8月24日の東京新聞に以下のような投書があった。 「省庁改革に伴い全国の労災病院が独立行政法人化されました。総合病院として地域の人々に五十年も親しまれている関東労災病院も例外ではありません。その結果、やはり心配通り病院の運営は採算優先となり、『地域医療の発展のために』と、きれいごとを言いながら、”症状の安定”とか、”これ以上の改善の見込みなし”とか理由をつけて、高齢者患者の切り捨てが堂々と行われています。そうした患者には、『介護保険を使え』といっているようですが、政府の言う『官から民へ』の正体を見た気がします。」と。 ところで独立行政法人の起源だが、1996年11月に橋本首相(当時)が設置した行政改革会議にさかのぼる。翌1997年の12月、行革会議は(1府21省庁)→(1府12省体制)への省庁再編と内閣機能の強化、独立行政法人制度を発足させることを軸とする最終報告を取り纏めた。 この最終報告を受け、2001年4月、独立行政法人が動き出す。 法によれば、「独立行政法人」とは 「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されない恐れがあるもの、又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として」設立される法人、と言うことになる。 小泉内閣は2001年12月、政府系金融機関などを先送りしたものの、特殊法人と認可法人163法人につき整理合理化することを閣議決定する。 この特殊法人等整理合理化計画で、38法人(統合して36)の独立行政法人化を決める。これを受け、2001年度に57法人が独立法人化されたのをかわきりに独立行政法人が増えることになる。 ●独立行政法人化の課題 次に、独立行政法人の課題について触れる。独立行政法人化の課題は多数ある。 そのなかでも、おそらくその最大の課題は、省庁から独立行政法人へのすさまじい天下りの現実、実態であろう。そのひとつの原因は、独立行政法人の管理運用を省庁にいわば丸投げしていることにある。 その結果、2003年12月の政府発表によれば、独立行政法人の理事等の役員に占める省庁官僚天下りの比率は、92法人、全役員528人中236人と45%(特殊法人は39%)、そのうち常勤役員は397人中211人、53%(特殊法人は42%)となった。 特殊法人などの役員から独立行政法人に移った者を含む公務員あるいは準公務員出身者でみると、独立行政法人全役員の実に96%に達するすさまじさである。 次に問題となるのは役員報酬である。 独立行政法人のトップ、理事長の場合、その大半が霞ヶ関省庁の本庁局長並みの給与を貰っている。また役員、職員の給与、退職金が国からの大部分が税金の補助金で賄われている。 2003年度の予算をみると、独立業税法人62法人のうち国の補助金を受け取らず、自前で運営しているのは何と「日本貿易保険」だけとなっており、残り61法人はすべて補助金から給与、退職金が支給されている。 ところで、62の独立行政法人の全体では、2003年度の役員、職員の人件費を含む運営費交付金は計約2780億円である。施設整備費は合計約270億円である。さらに、国から独立行政法人に流れる補助金総額は、実に約3兆円強となっている。 2004年度、以下のグラフにあるように独立行政法人数が102に増加したこともあり、補助金総額は一般会計(税金)で約2兆2千億円、特別会計(特別財源)で約8314億円、合計で3兆3千億円にも達している。 省庁別の法人数では、農水省が一番多く、次いで文部科学省、国土交通省の順になっているが、経済産業省は法人数では4位だが、一組織当たりの人数では後述する産業技術総合研究所に見るようにダントツに多い。 出典:総務省:独立行政法人評価年報(平成14年度版) 出典:総務省:独立行政法人評価年報(平成14年度版) 出典:総務省:独立行政法人評価年報(平成14年度版) 出典:総務省:独立行政法人評価年報(平成14年度版) このように独立行政法人化が進展すればするほど、一般会計、特別会計ともに補助金が飛躍的に増える。現状では、おおよそ3兆円が税金等を原資とする金で償われている実態がある。 以上は、準民営化したはずの独立行政法人に相変わらず巨額の税金等が行っていること、独立行政法人に多くの省庁官僚が天下っていることなどの弊害である。 しかし問題は、それらの問題だけではない。国立研究所や大学などでは、天下りしてきた官僚理事らによって、教授会等の機能を弱め、官僚による大学の管理・運営さらには人事への介入が行われようとしているのである。 さらに、これだけ巨額の補助金など税金をいつまでも非効率で唯我独尊的な研究組織や事務官僚組織に費やしていてよのか、という本質的な問題がある。これについては別の機会に具体的事例を挙げ述べてみたい。 いずれにせよ、ここでの本質的問題は、これらの独立行政法人をあえて存続させる必要があるのかということである。 もし、存続させるしっかとりした理由がある場合には、独立行政法人がしていることを定期的にしっかり把握、すなわち費用対効果、費用対便益などを第三者がしっかりと、徹底的に評価すること、それらの結果を次年度予算に十分反映させることが最低限必要である。 私見では大部分の独立行政法人は、主たる存続理由があるとは思えない。それらはすぐにもで廃止すべきである。 ●最大規模の独立行政法人、産業総合研究所の実態 ところで、独立行政法人のうち人件費が突出して高い法人は、@経済産業省所管の産業技術総合研究所、A総務省所管の通信総合研究所(現在は、情報通信研究機構)、B農水省所管の家畜改良センター、同じくC農水省所管の森林総合研究所、文部科学省所管の物質・材料研究機構である。 なかでも旧通産省工業技術院、現在の産業技術総合研究所は約3200人を要する規模で最大の独立行政法人である。 この産業技術総合研究所役員の報酬は、全独立行政法人のなかで群を抜き高い。 理事長は国家公務員の最高俸給をさらに上回る年収2650万円を当初受け取っている。その後、理事長の年俸は25270万円→2453万円→2481万円(平成18年度)とすくし下がったが、依然として高額である。 出典:産業技術総合研究所 出典:産業技術総合研究所 出典:産業技術総合研究所 以下のホームページ、とくに組織のWebを見てもらえれば分かるが、その多くはなぜ、税金で賄わなければならないのか、疑問を感ずるものが多いのが実感である。冗談ではないが、一体いつまで「殖産興業」時代のように、民間と全面的に競合するこの種の分野に巨額の税金でをつぎ込むのか、と考える。 ※産業技術総合研究所HP ※産業技術総合研究所の組織 ※産業技術総合研究所の予算、人員、施設の概要 同研究所に国から交付される補助金も独立行政法人中最大である。 産業総合研究所への2001年度の予算額は約847億円に及ぶ。2002年度は約876億円、2003年は度は約928億円と年々増えている。さらに施設整備費の約44億円を加えた国からの補助金は約728億円にのぼっている。 独立行政法人 産業総合研究所の概要 以下は、平成19年度(2007年度)の産業総合技術研究所の予算額である。額は約864億円と上位の額と同レベルにある。
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(注) | ◎は特定独立行政法人以外の法人(役職員に国家公務員の身分を与えない法人)を示す。 |