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名誉毀損による損害賠償の成立要件    青山貞一

 
 週刊文春の出版差し止め事件を期に、「表現の自由」と「プライバシーの保護」について大きな議論が巻き起こっている。差し止め請求とは別に、通常の名誉毀損裁判における不法行為による損害賠償の成立条件をみてみたい。

 名誉毀損において不法行為による損害賠償が成立する一般的条件は、おおよそ次のようなものとなる。

 (1)述べたり書いたりした事実が真実であるか、真実と思うに相当する理由があるかどうか、
 (2)述べたり書いたりした内容に公益性があるかどうか、

 上の(1)及び(2)以外に、今回の週刊文春事件でも問題となったように、実際には

 (3)被害を受ける側が反論の機会があるかどうか

も大きな要件となることがある。

 さらに差し止め請求事件の成立要件には、上記に加え

 (4)取り返しがつかない甚大な被害があるかどうか

が争点となる。ただし、ここでは民事の損害賠償を問題としているので(4)は除外する。

 通常、名誉毀損裁判では(1)と(2)を争う。

 名誉毀損は刑事、民事ともに、言ったことが事実であるかどうかにかかわらず成立する。

 しかし、これが不法行為として損害賠償の対象となるかどうかは、まず(1)が重要な要件となる。虚偽、捏造など顕示した事実が真実でないことを流布した場合、それだけ不法行為が成立し損害賠償が成立する可能性は大きくなる。

 次に(2)である。通常の報道はほぼ公益性の要件を満たすものとされるが、雑誌記事などの場合、往々にしてこの公益性が争点となる。一方、インターネットのホームページやメーリングリスト上に書かれた場合は、参加者人数、公開度などによりケースバイケースに判断されることになる。

 ところで、問題は(3)である。

 これについて、今発売されている週刊文春4月1日号で田中康夫長野県知事が興味深いことを述べている。すなわち「公人とは政治家、官僚のみにあらず。反論の場を難なく設定可能な人物は公人と見なすべき。有り体に言えば、同世代よりも社会の中で地位的、収入的に、恵まれた人物は、公人としてとらえるべきではないであろうか」と述べている。

 まったく同じことを行政学でおなじみの安念教授が、以前に述べている。それは、名誉毀損を受けた側が、反論する機会を容易にもっている、もてるかどうかについてである。

 公人、たとえば首相や国会議員、官僚、文化人、芸能人、著名人などは、容易に反論する機会がもてる。記者会見をするなどいくらでも反論ができる。これに対して通常のひとは、その機会が著しく少ない。したがって一般的には反論の機会が多い公人に対しては、名誉毀損で損害賠償がかかることは少ない。

 ところで、この(4)だが、自分が参加していないメーリングリストで行われる名誉毀損行為、信用毀損行為、侮蔑行為についてはどうであろうか?

 内部通報を受けた後、当該メーリングリストで反論すべく、参加申し込みを行い、参加の機会を得た場合はまだしも、参加の機会が拒否された場合には、公人、私人を問わず反論の機会が与えられないことになり、名誉毀損による不法行為が認定される可能性が増えることになる。

 近年、インターネットの普及により、この種のケースが増えている。このような事件が起きた場合、すぐすべきことは、名誉毀損対象者に反論の機会を提供することである