少子化の現実的理由 青山貞一 2006年1月18日 |
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小泉政権の女性閣僚として入った猪口邦子少子化担当相は、1月13日、以下の新聞記事にあるように、入院を含む出産関係費用を国が全額負担する「出産無料化」制度の導入を検討して行くことを明らかにした。
周知のように、日本では現在でも30万円の出産育児一時金が支給されている。 今回の猪口大臣の案を知って違和感を感じた女性は多いのではないだろうか! 国が出産費用を全額負担することで少子化がどうにかなると思っているひとはほとんどいない、と意味で今回の大臣の施策提案は、彼女の世間知らずがわかっただけだと思える。 「今日のコラム」でコラムを担当してくれている友人の佐藤清文氏は、「子供のいる一般家庭の家計を最も圧迫しているのは教育費です。特に、高等教育における奨学金の貧弱さは、世界的に見て、異常であり、奨学金を受けられるのは極少数に限られています」と述べている。きわめて至言である。 私自身、日本の私立大学に教員として身を置く者としてそれを実感する。現在、私が在籍する武蔵工業大学環境情報学部は、工業と言う名は付くが、文部科学省への設置許可はいわゆる文系の大学として取得している。その環境情報学部でも学費等は年間122万円、工学部の場合は、134万円である。入学金は両学部ともに27万円である。 仮に地方から子息を武蔵工大に入学させ、修学させるとなると年間一人当たりいくらぐらいかかるであろうか? 1年次 入学金27万円、年間授業料 122万円 2年次 年間授業料 122万円 3年次 年間授業料 122万円 4年次 年間授業料 122万円 実際には上記に加え、下宿代、食事代その他で毎月最低10万円はかかる。それらを加えると次のようになる。 1年次 入学金27万円、年間授業料 122万円 生活費 120万円 2年次 年間授業料 122万円、生活費 120万円 3年次 年間授業料 122万円、生活費 120万円 4年次 年間授業料 122万円、生活費 120万円 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 合計 995万円 以上はひとりの場合である。もし、年子で2人子供がいて大学に通わせるとなると、2人分の教育生活費で毎年300万円〜500万円が必要になることになる。しかもそれが3〜5年続く。大学院修士課程では上記より若干少ないが、やはりかなりの教育費がかかる。 大学生を子にもつ親は40歳代前半から半ばが多い。彼らは住宅のローンなどの負担が最も厳しくのしかかる時期にあり、仮に子供2人をもつとなると、非常に厳しい生活を強いられることになるのは明らかである。 上記の入学金、授業料が高いかどうかとは別に、佐藤氏が言われるように、「子供のいる一般家庭の家計を最も圧迫しているのは教育費です。特に、高等教育における奨学金の貧弱さは、世界的に見て、異常であり、奨学金を受けられるのは極少数に限られています」ことが問題なのである。 奨学金に加え、生活費に占める家賃の割合が非常に高い日本では、いわゆる補助金による入寮なども重要となるが、これも倍率が厳しい。 日本人の高等教育、すなわち大学進学率が非常に高くなっている現在、ほとんど給与が上がらない一般家庭の可処分所得に占める子供の高騰教育費(+生活費)は、きわめて重要である。 その問題そっちのけで、猪口邦子少子化担当相による今回の提案など笑止千万ではないかと思う。ポストができたから、何か目玉施策を出さなければとして、出したとしても、あまりにも少子化の現実的理由、その経済的な実態に無知であることをいみじくも露見してしまったと言える。 あまり参考にならないが、40年近く前、私が大学に行っていたころは、国立大学は授業料が毎月1000円、年間で12000円だった。しかも、多くの学生が最低でも毎月3000円程度の奨学金をもらっていた。しかし、現在、国立大学の授業料は私学ほどではないにしても、かなり高額であることに変わりはない。 少子化問題は、出産時の経済的負担より、はるかに幼稚園、保育園問題、高等教育の経済的負担にかかわる問題が現実的かつ深刻である点を政府は真剣に考え,対応すべきである。 さらに池田こみち氏が以下のコラムで指摘していることも真面目に対応する必要があると思う。 池田こみち:「奪われし未来」発刊から10年、 環境ホルモン問題を問い直す 〜John Peterson Myers 博士の講演を聴いて〜 |