「拙速」の2文字 青山 貞一 掲載日:2004.4.6 |
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3月下旬、長野県議会の多くの会派は、知事部局が出した「県組織改正条例」を全面的に否決した。理由は、議会開催の10日前に同改正案を提出したことにあると言う。県議会議員らの言い分は「拙速」にあった。 以下の2004年4月4日の朝日新聞長野版にあるように、田中康夫知事は4月3日、県が出している新聞広告のなかで、「組織条例改正案」などの否決について批判している。これ自体、非常に異例なことだ。
ひるがえって、今の日本の都道府県など地方自治体が置かれた状況のなかで、大幅な行政横断的な組織改正、それも中枢人事がからむ組織改正は、たとえどれだけ総力をあげたとしても、それなりの時間がかかる。たとえば、民間からの人材登用にしても、ある程度まで進んだとしても、ここ一発でうまく行かなくなることも多々あるからである。 他方、国、自治体の行政組織と30年以上にわたって係わってきた者から見ても、今回の長野県の行政組織改正は、日本の行政組織、官僚機構を根本から変える可能性を秘めたものであり、短期間によくぞここまでやったと評価できるものと思える。 今回の県組織大改正をたとえて言うなら、パソコンのOSをウィンドーズ(Windows)からリナックス(Linux)に変えるようなものである。さまざまな既得権益が染みついているウィンドーズから21世紀型のOS、リナックスに変えるようなものである。 このように、改正案はかなり大胆で抜本的な改革を伴うものだと思うが、出来上がった改正案は、分かりやすい。細かいところまで配慮が行き届いていた、と思う。県議会の先生方も、その気になって数時間読めば十分わかるはずだ。 結果から見ると、拙速と言うだけでで、果たしてどれだけの議員が県のホームページに掲載された組織改正条例案を読んだのであろうか。県民の立場からすれば、まさに、それが問われる。 組織大改正の原則は、@「細切れ行政」や「縦割り行政」を排すること、A未曾有宇の財政危機のなかで行政組織のスリム化、B機動性ある機能向上に資することなどを眼目にしている。これは、まさに県民益に直結、合致するものだ。しかも、組織改革を分かりやすく具体的に提案したと思える。少なくとも私はそう感じている。 よく考えてみれば分かることだ。議会の10日前に条例案が出されたことを拙速と言っているが、10日の時間的余裕があるなら、高い報酬を得ている有能な長野県の議員諸氏は、上記を十分理解されるはずである。 到底、「拙速」の2文字で切って捨てるべきではなかったのではないか。10日前に出したことを「拙速」とする前に、その10日どれだけ、改正案の中身を自ら積極的に検討し、前向きに理解しようとしたのかこそ問われるべきだと思う。 ところで、私は米国やカナダにしょっしゅう行くが、親友の福井秀夫氏(現在、政策研究大学院大学教授)がミネソタ大学に研究留学されていたとき、ミネソタ州議会に行ったことがある。以下は帰国後書いたコラムの一節である。 「....たまたま米国独立記念日の7月4日にミネソタ州のセントポールにいた。そこで私たちは説明付きの州議会議事堂と州最高裁の見学コースに参加することにした。これが結構楽しかった。....上院本会議傍聴席にいた議会説明委員に伺ったところ、ミネソタ州議会議員の報酬は何と年収で400万円ちょっとだった。日本の国会議員や県、市議会議員報酬はその2倍から4倍はもらっている。自ら立法行為をすることがないのが日本の議員だが、どういうわけか多額の政務調査費も得ている。たまたま参加したこの議会ツアーだが、今の日本の国、地方を問わず立法府改革のあり方を大いに考えさせられた。」 率直に言って知事側も反省すべき点はあると思う。だが、県民から支持された知事による組織改正条例案を「拙速」の2文字ですべて切り捨てた長野県議会の見識は大いに問われねばならない。 米国独立記念日のミネソタ州議会議事堂前で 池田こみちさん(現在、長野県環境審議会、総合計画審議会委員)と 福井秀夫教授(現在、政策研究大学院大学教授、専門、行政法) |