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圏央道、東京地裁藤山判決要旨について

掲載日:2004.4.28

平成12年¢謔R49号 事業認定取消請求事件(第1事件)
平成14年¢謔S21号 収用裁決取消請求事件(第2事件)
  原告  第1事件 中村文太承継人中村久代ら101名
      第2事件 中村文太承継人中村久代ら80名
  被告  第1事件 国土交通大臣
第2事件 東京都収用委員会
  参加人(両事件について) 国及び日本道路公団


 判決要旨(文中の頁数は、判決書の頁数を示すものである。)
 
(事案の概要)

第1事件

 圏央道(圏央道の概要については、判決書14頁参照)あきる野インターチェンジ建設予定地に所有権などの権利を有する原告ら及び周辺住民である原告らが、起業者国及び日本道路公団の申請に基づき、建設大臣が平成12年1月19日に行った(中央省庁等改革関係法施行法1301条の規定により被告国土交通大臣が行った処分とみなされる。)あきる野インターチェンジ付近の圏央道建設にかかる事業認定(別紙)は違法であるとしてその取消を求めた事件

第2事件

 第1事件の事業認定を受けて被告東京都収用委員会が平成14年9月30日に行った収用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)について、事業認定の違法性が承継され、かつ収用裁決手続にも固有の違法があったとして、収用裁決の名宛人となった原告ら(起業地内の土地について権利を有する者ら)が、その取消を求めた事件

  なお、両事件について、本件事業の起業者である国及び日本道路公団が行政事件訴訟法22条により訴訟参加している。

(判断の骨子)

<第1事件>

1 起業地内の不動産について権利を有していない周辺住民の原告適格について起業地の不動産について権利を有していない者については、事業認定によりその権利若しくは法律上保護された利益が侵害され又は必然的に侵害されるものではなく、原告適格は認められない(58頁〜60頁)。

2 事業認定の適法性

A考え方

 事業認定が適法になされるためには、土地収用法20条各号に定めた要件を満たす必要がある。本件事業認定は同条1号(対象事業であること)及び2号(起業者適格があること)を満たしている(62頁〜63頁)。

 同条3号の要件(事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること)は、起業地がその事業の用に供されることによって得られる公共の利益と失われる利益を比較衡量し、前者が後者に優越する状態で利用されることを意味する(63頁〜66頁)。

 また、土地収用法は明示的に定めていないが、事業として計画された営造物に瑕疵がないことを事業認定における黙示的な前提要件としているものと解される。道路事業の場合、道路の供用開始によって周辺住民に受忍限度を超えるような道路公害が生じる瑕疵ある道路の設置を目的とする事業を認定することは、事業認定庁の判断に裁量が生じる余地はなく、違法である(66頁〜71頁)。

 他方、事業認定庁は、同法20条各号の要件の判断を行う際には、事業認定をするかどうかについて、上記の前提要件とは異なり一定の裁量があるが、本来考慮すべきでない要素を過大に重視し、本来考慮すべき要素を不当に軽視し、その結果が判断を左右したものと認められる場合には、その判断過程には社会通念上看過することができない過誤欠落があり、裁量判断の方法及び過程に誤りがあるものとして、事業認定は違法となる(71頁〜74頁)。

B前提要件非該当性

 本件事業認定は、法がその前提として黙示的に要求する要件該当性の審査に当たり、本件道路が事業計画どおりに建設され、供用が開始された場合には、相当範囲の周辺住民に対し受忍限度を超える騒音被害を与えるものと認められ、その点において瑕疵ある営造物の設置を目的とする事業といわざるを得ず、上記要件に該当しないものであったにもかかわらず、これを看過して事業の開始を是認したものであって、この点のみを取り上げても違法といわざるを得ない(74頁〜81頁)。

 その上、本件事業認定は、本件道路の供用による大気汚染の発生の有無について、接地逆転層発生の影響の有無及び浮遊粒子状物質(SPM)の影響の有無の2点で、なおそれらによる被害発生の疑念が払拭できず、それらが発生すると相当重大な結果が発生するおそれがあり、かつ、これらの点についてさらに確度の高い調査をする余地もあったのに、これを行わないまま、事業の開始を是認したものであって、上記要件該当性の判断を怠った違法がある(81頁〜85頁)。

C法20条3号非該当性

 被告らが圏央道事業全体の意義として主張するところは、都心部の交通混雑の緩和や国道16号線と国道411号線の渋滞緩和は、総じて具体的裏付けに欠けるし、その他の点は期待感の表明にとどまるものもある。とりわけ、被告らが第一義的に主張している都心部の通過交通の解消の点については、単に裏付けを欠くばかりか、むしろ首都高速中央環状線及び東京外かく環状道路が建設されるならば、圏央道までは必要がないとさえ認められるのであって、圏央道の建設にこだわることは、いたずらに人的物的投資を分散するものであって、本来必要な上記2つの道路の完成、ひいては都心部の通過交通の解消という問題の解決を遅らせるものとも考えられる(85頁〜90頁)。また、被告らが主張する本件道路の高度の便益についてもその算定過程が明らかでないなど合理的なものとは認められず(90頁〜91頁)、さらに、あきる野インターチェンジの設置については、隣接する日の出インターチェンジと約2.0キロメートルしか離れていない地点に設置する必要性について合理的な説明がなされているものとは認められないから、本件事業として施行する必要性は低いというほかなく、この点に関連して必要不可欠となる代替案の検討を一切行っていないことからしても本件事業の合理性は全く裏付けられていない(91頁〜97頁)。

 このように、事業認定庁は、事業によって得られる公共の利益の点につき、具体的な根拠もないのにこれがあるものと判断したと認めざるを得ず、その判断過程には社会通念上看過することができない過誤欠落があったものといわざるを得ない。したがって、本件事業認定は、法20条3号の要件を満たしているものとは認められない(97頁〜98頁)。

D結論

 以上のとおり、本件事業認定は、法の要求する前提要件を満たしていないばかりか、法20条3号の要件も満たしておらず、いずれにしても違法なものとして取り消すほかない(98頁)。

<第2事件>

1 訴えの適法性

 起業地の一部については既に明渡が行われているが、占有がいったん解除されたとしても明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は失われない(99頁〜100頁)。

2 事業認定の違法性の承継

 土地収用法における事業認定と収用裁決はそれぞれ独立した行政処分であるが、両者が相結合して一つの効果の実現を目指し、これを完成させる関係にある。先行処分である事業認定の違法性は、後行処分である収用裁決に承継されるのであり、承継されるのはその違法性が重大かつ明白である場合に限定されない(100頁〜102頁)。

3 結論

 本件収用裁決は、先行する事業認定の違法性を承継しているから、固有の違法性について判断するまでもなく、すべて取り消されるべきである(102頁)。

<事情判決について>

 現時点で事業を中止すれば無益な投資の相当部分は避けられること、当事者はいずれもこの点について何ら主張をしていないこと、本件訴訟のこれまでの経過に照らせば、本件取消判決が第1審限りで確定することは想定し難いことからすれば、第1審裁判所である当裁判所において、行政事件訴訟法31条の事情判決の可否を検討する必要性はない。

 なお、付言するに、このような事情判決といった例外的な制度の運用の可否が問題となるのは、計画行政一般につき、計画の適否について事前に司法のチェックを受け得る制度が設けられていないことによるものであり、この分野における法の支配を有効に機能させるには、都市計画法等の個別実体法において事業計画の適否について早期の司法判断を可能にする争訟手段を新設する必要がある(102頁〜103頁)。
   
(主文)
 別紙のとおり 

平成16年4月22日午前10時 民事第3部判決
(藤山雅行・新谷祐子・加藤晴子)

             岡稔彦裁判長代読 以 上

別紙  

<主文>
     主       文
1 第1ないし第3原告目録記載の原告らの訴えに基づき、建設大臣が平成12年1月19日に行った別紙事業認定を取り消す。

2 第4原告目録記載の原告らの被告国土交通大臣に対する訴えをいずれも却下する。

3 被告東京都収用委員会が、第5原告目録記載の原告らに対し、それぞれ別紙権利取得裁決及び明渡裁決一覧表記載のとおり、平成14年9月30日に行った各明渡裁決をいずれも取り消す。

4 被告東京都収用委員会が、第5ないし第7原告目録記載の原告らに対し、それぞれ別紙権利取得裁決及び明渡裁決一覧表記載のとおり、平成14年9月30日に行った各権利取得裁決をいずれも取り消す。

5 訴訟費用のうち、第1ないし第3及び第5ないし第7原告目録記載の原告らに生じた費用は被告両名の負担とし、その余の費用は参加によって生じた費用を含めて各自の負担とする。

                                以 上

別紙       事 業 認 定

1 起業者の名称  建設大臣及び日本道路公団

2 事業の種類  一般国道468号新設工事[一般有料道路「首都圏中央連絡自動車道」新設工事](東京都あきる野市牛沼字飛鳥山地内から同市下代継字早道場地内までの間、青梅市友田町二丁目地内から同市河辺町一丁目地内までの間及び同市河辺町八丁目地内から同市新町一丁目地内までの間)及びこれに伴う附帯事業並びに市道付替工事

3 起業地

イ 収用の部分 

東京都あきる野市牛沼字飛鳥山、字小松平、字西崎、字初雁、字西龍ヶ崎及び字東龍ヶ崎、下代継字東前、字東千代里、字東原及び字早道場、油平字八幡、字西一丁目、字富士見台及び字阿岐野、雨間字早道場並びに上代継字早道場地内
同都青梅市友田町二丁目、友田町三丁目及び河辺町一丁目地内

ロ 使用の部分

東京都青梅市河辺町八丁目、新町一丁目、新町二丁目及び新町三丁目地内
                以 上