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徴税は公務員のみが行えるのか

福井 秀夫
政策研究大学院大学教授
時事通信税務経理 04.8.21

 
掲載日:2004.8.27

 従来租税徴収などの公権力行使は、公務員のみができるという通念が流布してきた。租税の賦課処分、滞納処分などは、行政訴訟の対象となる典型的な行政処分であり、それを行う行政庁とは公務員組織だと短絡的にみなされがちであった。

しかし、地方税にせよ、国税にせよ、人員・予算の制約等により、複雑化する徴税業務、巧妙な脱税の増大などに税務部局の職員だけで対応していくことは、実際上困難となりつつある。現実に地方自治体では、徴税については債権回収の専門的な知識経験を持つ民間の人材に委ね、公務員はそのノウハウをより活かせる別の分野に重点投入することによって、行政運営を効率化し、市民からの多様化する行政ニーズに的確に応えようとする動きも生じつつある。

 このような新しい試みの障害となってきたのが、徴税は公務員のみが行えるというこれまでの通念であったが、本年8月3日、規制改革・民間開放推進会議が公表した中間とりまとめは、この問題を現行憲法下の公文書として初めて正面から取り上げ、通念を明確に否定した。

 行政事件訴訟法の行政庁とは、取消訴訟の対象となる公権力行使を法律によって授権された場合のその行使者を意味するのみであって、弁護士会による懲戒処分や、株式会社たる公益事業者による財産権の強制使用権限をはじめ、民間を「行政庁」と位置付ける立法例も多い。

 公権力の行使は、公務員の独占物ではなく、法律で授権しさえすれば民間に委ねることは可能であり、それは憲法の枠内での立法政策の問題にすぎないのである。

 公務員でなければ国民から信頼が得られない、民間人は中立性に問題がある、などの反論もあるが理由がない。

 公務員が権力行使をしたり、私人の秘密を取り扱ったりできることの実質的根拠は、単に彼らに公務員という身分があることではなく、法律により中立性の保持義務、守秘義務、賄賂の禁止などの厳格な行為規制が課せられていることである。本来行政執行には、所管大臣や首長などが最終的に責任を負えばよい。

 必要な行為規制を立法措置したうえで、行政の長が自らの責任の下で市民の信任を賭して当該業務執行を明確な内容・手段で民間に委任するならば、民間の活用はむしろ関係者に緊張感をもたらし、税収確保と公正の実現に寄与するだろう。非能率な業務それ自体を温存したいという利害をもつ者以外のすべての国民に利益をもたらすはずだ。