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「華氏911」が暴くアメリカの恥部
池田 こみち

掲載日:2004.8.29


 今日は肌寒い雨模様の土曜日。豊島園の花火も中止になり、「ユニバーサル・シネマとしまえん」もガラガラ。ゆったりと映画を鑑賞することができた。上映前に予告が数本流されたが、いずれも「血みどろアクション」「コングラ・特撮多用」の「これでもか」に引けてしまった。

 いよいよスタート。地味なタイトルの後、画面はしばらく真っ暗になり、乗っ取られた飛行機がWTCビルにつっこむ音が2回、観客はそれぞれ眼のスクリーンに911のあの衝撃の映像を映すことから始まった。そして最初にスクリーンに映し出されたのは、高層ビルの火災・倒壊で煙と埃の中で浮遊している紙くず、そして呆然とする人々、混乱する街の映像だった。あらためて「映画のようなあの日の出来事」が思い出された。

 それから先は、2時間あまり、次から次へと事実を伝える映像と証言でジョージWブッシュの戦争を暴き立てていく。ひとつひとつ突きつけられる事実に見る側も「頷き」「怒り」「呆れ」「涙し」「笑い」、いつの間にか吸い込まれていく。特撮も特殊メークもコンピュータグラフィックスもない、事実こそがいかにそれらに勝るすさまじいものであるか、感動を与えるものかを思い知らされる。

 証言者は政府高官・学者・実際に戦場に送られた兵士・企業関係者・一般市民など多面的に巧みに組み立てられている。字幕スーパーは出るものの、あまりに展開が早いため、予備的な知識がないと取り上げられたすべての事実関係についていけないかもしれないとさえ感じた。ナレーションのスクリプトかテープが是非ほしい、と思ったのは私だけではないと思う。

 画面には何回もムーア監督自身が取材活動をしている姿が出てくる。既に900人近くものアメリカ人兵士がイラク戦争で死亡しているが、戦争に送り出される若者の多くは貧困層やマイノリティの出身であり、連邦議会の議員の息子は1名しかいないという。ムーアはワシントンの路上で議事堂に出入りする議員に一人一人声をかけ、訴える。「あなたの息子さんもイラクに行った方がいい。パンフレットを渡してください。海兵隊もあるし陸軍もある。国民の手本になるべきでしょう」と。

 この映画は、ブッシュの大儀なき戦争を暴いているだけでなく、アメリカ社会がどうしようもないほど内なる矛盾、内なる敵を抱えている事実を鋭くえぐり出している。イラク戦争で息子を亡くしたアメリカ人兵士の母親は、ワシントンのホワイトハウスの前で嗚咽する。「私は、今分かった。自分の怒り、悲しみをぶつけるべき場所がここだということを」と。アメリカには貧しくて生活のため学費のために軍隊に行く若者が大勢いる。また、息子や娘を生活のために軍隊に送る親が大勢いる。それらの貧困層に支えられた戦争なのだ。

 ニューヨークに「イラク戦争のコスト」のデジタル表示が掲げられ、改めてアメリカ人が自ら戦争のむなしさを思い知るとともに、それだけのコストをアメリカの内なる矛盾の克服のために向けるべきであることに気づいて欲しいと切に願うばかりである。

参考:The Cost of Iraq War http://costofwar.com/