信じてはいけない原子力安全性 〜東電:トラブル隠蔽199件〜 朝原真実 掲載日:2007年2月2日 |
朝原真実(まみ)さんの旧姓は、斎藤真実さんです。 2007年1月31日、東京電力(以下「東電」と略)が経済産業省原子力安全・保安院に提出した調査報告書から、柏崎刈羽原発、福島第一・福島第二原発において199件にものぼるデータ改ざん・トラブル隠蔽があったことが明らかになった。 折しも、資源エネルギー庁によるエネルギー基本計画改正案(以下「改正案」とする)が昨年末に公表され、1月29日までパブリックコメントを募集していた。 その改正案では、「準国産エネルギーである原子力を将来にわたる基幹電源と位置付け、核燃料サイクルを含め着実に推進する」と明記され、今後とも国策として原子力発電に力を入れていく方針が示されていた。 また、「安全の確保がすべてに優先される」とし、「国及び事業者は、(中略)エネルギーの性質に応じて必要な安全確保がなされるための適切な方策を講じることの重要性について、十分な認識を持ち、責任を持って取り組んでいく必要があると」としている。 安全性をしっかり担保し、原子力発電を推進していくという改正案に対するパブリックコメントを締め切った矢先のデータ改ざん・トラブル隠ぺいの発覚である。 この発覚で多くの人々があらためて電力会社への不信を抱いたであろう。 それらに十分に対応できなかった国への不満、原子力発電そのものへの不安・不審が、改正案に反映されなかったことは残念でならない。 この発覚事件において重要な問題は二つある。 一つ目は、電力会社にとっては原子力の安全性は二の次だということである。 とりわけ原子力発電の安全性を確保しなければならない第一線の現場ありながら、検査に合格することや、原発の継続的稼動を最優先する体質であるということである。 過去にも隠ぺい工作が発覚していることからも、この体質は現在も何ら変わっていないということがわかる。 2月1日の日本経済新聞朝刊では2006年10月からの、発電所のデータ改ざんの経過を下記の通りまとめている。 ■発電所データ改ざんの経過(日本経済新聞2007.2.1.朝刊) <2006年> 10月31日 中国電力土用ダム(岡山県)でデータ改ざん発覚 11月10日 中国電が、幹部が改ざんの隠ぺいを決めたとの調査結果 11月15日 中国電下関火力発電所(山口県)でもデータ改ざん発覚 11月28日 東京電力 野反ダム(群馬県)で改ざん発覚 11月30日 東電柏崎刈羽原発(新潟県)でデータを改ざん。経済産業省が総点検を指示 12月 5日 東電福島第一原発で改ざん発覚 12月 7日 東北電力女川原発(宮城県)で改ざん発覚 12月15日 東北電水ヶ瀞ダム(山形県)など4ダムで改ざん発覚 12月20日 国土交通省が関西電力など6社のダムで改ざんなどの不適切な報告があったと発表 12月25日 中国電が社長らを処分 <2007年> 1月10日 東電が「国や県への説明や折衝を避けたいとの考えが安易な改ざんにつながった」との報告書を経産省に1月24日 北陸電力が無許可改築の西谷ダム(石川県)を使用停止に1月31日 東電が新たに延べ199件の改ざんを公表。 上記は原子力発電所だけではないが、一事が万事、水力・火力発電所においても隠ぺい・改ざん工作はされてきたのである。これだけ繰り返されてきているのであれば、「余罪」があるのではないかと疑ってかかったほうが賢明と言わざるを得ない。 二つ目は、そもそもトラブルとはどんなに入念な注意を払っても起きてしまうものだということである。 下記は今回データ改ざんが明らかになった3基の、2006年3月末までの主な事故件数である。(参考資料:「原子力市民年鑑2006」原子力資料情報室編) 柏崎刈羽原発:91件(1985年から) 福島第一原発:115件(1973年から) 福島第二原発:52件(1979年から) 記憶に新しいものとしては、1月16日に福島第一原発で地絡が発生するトラブルも起こっている。どんなに国と電力会社が安全性を最優先に考えて対策したとしても、トラブルは起こってしまうものなのである。 むしろ、トラブルは起こってしまうものだという前提に立ったうえで、仮にトラブルが起きたとしても人的被害・環境負荷を最小限に抑えるようなエネルギー源へ移行していくことが、政府が目指すべき本来の予防原則に基づいた「安全対策」であるべきではないか。 チェルノブイリやセラフィールドの事故を思い起こせば、原子力発電のトラブルが、世界規模で環境を汚染するリスクを孕んでいることは火を見るより明らかだ。 ドイツでは、2007年1月15日に、原子力発電の利用がなくても電力供給は将来的に可能だというコメントを発表した。(EICネット) 再生エネルギーの導入やエネルギー効率改善によって将来的に原子力を廃止できる見込みである。 日本が原子力発電を推進する「言い訳」として、二酸化炭素を排出しないことが温暖化防止に寄与することを強調しているが、ドイツの学者や全ての連邦議員団の代表者は、原子力発電では気候問題は解決できないこと確認しているとのことである。 政府が繰り返し主張する「原子力の安全性」というものが、如何に砂上の楼閣であるのかを私たちは強く認識しなければならない。 そして、「原子力の安全性」を盾に原子力発電を推進していく政府に対し、真に安全なエネルギー政策を実行するよう働きかけることが必要である。 |