エントランスへはここをクリック!    

圏央道裁判判決における
「非科学的なアセス」と「公共の利益」
の実態

鷹取 敦


掲載日:2005年6月1日

 首都圏に残された貴重な自然環境である高尾山をトンネルで貫き、裏高尾の集落を見下ろす位置に、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)・八王子ジャンクションが建設されつつある。 5月31日、東京地裁で、この事業に関して争われている2つの裁判のうち1つ目の判決が言い渡された。国土交通相による事業認定と東京都収用委員会裁決の取り消しを求めた裁判である。

 判決では「都心部への車両の進入を数パーセントから10パーセント程度減らすことにより、都区部の交通混雑を緩和するほか、首都圏全体の交通の円滑化
<中略>に役立ち、<中略>公共の利益は極めて大きい」と評価する一方、「起業地及びその周辺にかなりの騒音と大気汚染がもたらされるおそれがある。これらは、住民にとって相当な不利益であるが、環境影響評価及びその後の環境影響照査は適正なものであり、これらによれば、騒音や大気汚染でも環境基準内のものである。<中略>オオタカの営巣地が放棄されてしまたことが認められ、これは遺憾であるが、オオタカに対する相応な配慮もされて」いる(判決要旨より抜粋)として原告・住民の請求を棄却した。

 「環境アセスメントは適正で環境基準内」とあるが、東京都が実施したアセスメントの大気汚染予測は高尾山と八王子城跡の山が存在しないことを事実上の前提とした予測モデルによって行われており、予測モデルのこの地域における検証も行われていない全く非科学的、非現実的なものである。

 これに対して原告は、高尾山等の地形の影響を考慮した場合の予測調査を環境総合研究所に依頼した。その結果「圏央道供用後は環境基準を超える」結果が予測され、裁判所に証拠として提出されている。さらに事業者のアセスメントと異なり、予測モデルがこの地域に当てはまることも検証されている。

 したがって判決は科学的な妥当性を無視し、事業者の言い分を一方的に採用しているにすぎない。しかし、その立場を取る判決においてさえ「かなりの騒音と大気汚染がもたらされる恐れがあり、住民にとって相当な不利益だ」としているのである。

 一方「公共の利益は極めて大きい」との評価の中身は、都心部への車両の進入をたったの「数%から10%減らす」ことであり、他は抽象的な評価に過ぎない。仮に数%から10%の進入を減らすことが正しかったとして、都心の交通量に占める進入車両の割合を例えば20%と仮定すると、都心部交通量全体の減少は1%未満から最大でも2%程度、すなわち誤差程度に過ぎない。

 つまり2%に満たない交通量を減少させるため、住民は「かなりの騒音と大気汚染」による「相当な不利益」を我慢すべきだというのが、判決の意味するところである。不利益の中身は住民に対する「騒音、大気汚染」だけではない。大都市圏に残された貴重な自然、文化など、広く首都圏に住む人々の財産、すなわち公益性をも損なうものである。

 事業者が一方的に主張する「公共の利益」を鵜呑みにし、「行政の裁量」を過大に評価するだけであれば、司法はなんのために存在するのだろうか。