2004年6月5日(土)、梅雨入り前の好天の下、横浜市栄区において市民による自主環境アセス結果報告会が開催された。
横浜市内に計画されている環状道路「横浜環状線」と、首都圏の一番外側に計画されている環状道路「圏央道」(首都圏中央連絡道)の合流部として栄区公田地域に計画されている「横浜環状南線」を対象として、市民が自主的に行った代替アセスメントの報告会である。行楽日和、様々なイベント日程と重なる中、地元市民の関心も高く、定員約200名のホールはほぼ満席となった。
調査の実施主体である地元自治会の連合体「連協」(横浜環状道路(圏央道)対策連絡協議会、代表:柴田哲夫氏)が、自動車環境問題の分野でも有数のシンクタンクである環境総合研究所に委託して実施された調査である。
公田地域は、豊かな自然の中の住宅地域であり、本来非常に環境の質が高い地域である。地形は起伏に富んでおり、谷底から台地、斜面にも多くの市民が居住している。環境が良好なことから、都心の公害を避けて移り住んできた人も多いという。
この地域の地下に横浜環状南線が、地上に上郷公田線(一般道路)が計画されている。公田の谷底に巨大なインターチェンジが計画され、地下を走る高速道路が地上に顔をのぞかせる。さらに地下の大気汚染は丘の上に作られる高さ45mの巨大換気塔から地上に排出される。
この地域は逆転層の発生割合が非常に高く、高濃度の発生頻度が横浜市平均、全国平均よりも遙かに高いことが、事業者の調査、市の調査からも明らかになった。地元住民は、谷底につくられる巨大なインターチェンジ、換気塔から排出される大気汚染、騒音によって住環境が悪化するのではないかと心配した。
この道路事業は都市計画決定権者である神奈川県が、環境影響評価(環境アセスメント)を実施し平成5年10月に取りまとめた。環境影響評価では将来予測を行い、環境上の問題はないと結論づけられている。また、10cmもある分厚い報告書にもかかわらず、公田地域の大気汚染、騒音予測結果は、たった2地点の数値しか示されていない。周辺住民に分かりやすく説明しようという意図は全く感じられない。
地元住民としては、事業者が自ら問題を作り、自ら回答し、自ら採点した調査(アセスメント)で合格点がついても鵜呑みに出来ないのは当然である。また、地域でたった2地点だけ将来予測結果を示されても、将来の地域の環境像は全く想像できない。そこで、地元では「本当のことを知りたい」、「自分の住んでいる場所の将来を知りたい」という声が上がり、カンパを募って環境総合研究所に第三者的な専門機関としての調査を依頼された。
また、地元住民自らが約400名も参加され、交通量・騒音調査を実施した。
調査結果から環境影響が重大であることは明白であった。
事業者(神奈川県)が将来予測に用いた大気汚染予測モデルには重大な問題がある。このモデルはいわば簡易式であり、地形・建物が風の流れ、大気汚染の拡散に与える影響を考慮することはできない。一般に、地形が複雑であったり、建物があることにより、風の流れは乱され、風速は低下し、大気汚染は発生源近辺で高濃度になる。事業者のアセスではこの現象を考慮できないため、計算上、環境への影響が少ないかのような結果となる。
事業者のアセスメントの将来予測結果では、将来の幹線道路沿道の方が、現在の住宅地より濃度が低いという驚くべき結果となっている。専門家ならずともおかしいと思わざるを得ない結論である。
環境総合研究所が第三者的に行った調査では、道路から離れた住宅地では現状よりやや改善されるものの、インターチェンジ付近、トンネル出口付近では環境基準を超える結果となった。また、計画道路沿道全域で、大気汚染、騒音ともに、現状より著しく環境が悪化することが明確となった。
元々地元に住まわれている方々、環境の良好な場所を目指して公田に移り住んだ方々にとっては、環境基準を達成していればそれでよいということにはならない。現状より大幅に環境が悪化し、一部では環境基準をも超えてしまうという予測結果、事業者がその事実を説明してこなかったということは、「横浜環状南線」という巨大公共事業の進め方としては、大きな問題と言わざるを得ない。
事業者は、環境アセスのやり直しは必要ない、足りない項目は道路が出来てから対応すればよい、と地元に説明しているそうである。
このような杜撰な環境アセスメントをそのままにして、巨額の税金を投入(もしくは将来の税負担)する道路事業が進められてよいはずはない。
実際に起こりうる被害をより事前に正確に把握し事業の妥当性を検討し、十分な環境配慮を行う方が、被害が起こってから事後的に対応するより、費用も時間も少なくて済み、紛争も起こりにくい。そしてなにより無用な被害者を出さなくて済むのではないだろうか。 |