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郵政反対議員の腰砕け隣人愛

 田中康夫

掲載日2005.9.22



 いやはや、何とも意気地の無い選良が多過ぎます、奇っ怪ニッポン改め大政翼賛日本には。そりゃあ、議席数では単純矮小化の権化とも称すべき宰相・小泉純一郎率いる自由民主党・公明党“選挙互助会”が勝利したのかも知れません。

が、皮肉にも十数年前の小選挙区制導入時に最も反対した国会議員の1人であった、今や「朕・純一郎」とさえ形容可能な人物に大勝を齎した、その小選挙区に於いて、郵政民営化賛成議員の得票数が計3389万票であるのに対して、郵政民営化反対議員の得票数は3419万票と、上回っているのです。

だからって、小泉内閣は信任されず、なあんて乱暴な見解を述べる心算は有りません。とは言え、本来は郵政民営化賛成論者を自任する碩学の野口“超勉強法・超整理法”悠紀雄氏が慨嘆するように、今回の法案は「本質的な議論を欠いた郵政民営化論」だったのです。

曰く、「今回の郵政民営化の議論は、『民営化論の行き過ぎ』や『過激な民営化論』ではなく、官と民の役割分担に関する基本認識を欠いた、単なる『変な議論』でしかない」。「一つの理由として、公務員数や財政支出の削減が言われた。郵政事業は完全に独立採算で行われていたので、こうした効果は、実は無いのだ」。「税金は使われていなかった郵政事業は、巨額の財政支援が為されていた旧国鉄とは異なる」。

「『民営化』とは経営基本方針の決定を、民営化した当該企業に委ねる事。民営化した郵貯が資金運用に関し、如何なる判断を下そうとも政府が干渉する事は原則的に能わず。仮に政府が望む資金運用とは異なるハイリスクな投資であろうとも、合法的代物である限り、政府は干渉し得ず」。「意思決定の自由度が増えて国債消化に問題が生じれば寧ろ、民間企業への資金提供に問題が生じる」。

野口氏は「週刊ダイヤモンド」の連載で、「『民間で出来る事は民間に』というのが、郵政事業民営化に関して唱えられたが、それを言うなら、真っ先に民営化すべき代物は、年金だ」とも看破しています。「何故なら、積立方式の年金は、民間金融機関が提供出来るから」。「年金制度を国が用意するのは、『人々は愚かだから、所得をその日暮らしに使ってしまって老後生活に備えた貯蓄が出来ない』という認識に基づいている」。「だが、現代の日本国民はそれほど愚かではない。『老後生活は自己責任で』という原則を確立するのは十分可能」。「年金には多額の国債が投入されている。実際、日本財政の最大の課題は、これに対する財源をどうするかだ。だから、仮に公的年金を民営化出来るなら、財政の基本的な問題は解決される」。

にも拘らず、“良識の府”を自任していた筈の参議院に属する鴻池祥肇氏も中曽根弘文氏も、腰砕け状態です。更には、小選挙区で勝ち抜いた野田聖子女史に至っては、首班指名で「朕・純一郎」と明記する、と巧言しているのです。

筆舌に尽くし難き辛苦を経ても猶、その相手を赦すとは、何たる隣人愛。聖子女史は聖母マリアの生まれ変わりでありましょうか。

とまれ、彼等や彼女等に共通するのは、自由民主党に留まりたい、戻りたい私利私欲の一心のみ。そこには、国民の幸せの為には百万人と雖も我行かん、の気概の欠片すら、見当たりません。近い将来、「朕・純一郎」が徴兵制の導入を、と宣った際にも嬉々として、保身の一心で諸手を挙げて大賛成するのでしょうか。