エントランスへはここをクリック   

国が大きすぎると
無責任主義が蔓延する


 田中康夫

掲載日2005.10.12


「『超』整理法」で一世を風靡した野口悠紀雄氏が「週刊ダイヤモンド」で連載する「『超』整理日記」は、誤解を恐れず申し上げれば、題目から想像する以上にパースペクティヴ=視野の拡がりを感じさせる内容です。

「『郵政民営化が日本活性化の出発点』とのスローガンは何れ検証される。あれだけ大騒ぎをして行った民営化なのに、経済活性化の効果は何もない事が何れ明らかになる」。何故なら「公務員数や財政支出の削減が言われた」が「郵政事業は完全に独立採算で行われていたので、こうした効果は実は無いのだ」と断言する彼は、第284回目の連載で「『小さな政府』よりも『小さな国』を」と唱えています。

 これは、「増税無き財政再建」を掲げる「新党日本」の主張と通じます。のみならず、弁証法的議論が未だ期待出来ぬ、どころか、「報道ステーション」なる“呆童”番組の仕切屋に象徴されるが如く、凡そ論理にも成り得ぬ単純矮小化した言説が跳梁跋扈する日本社会を抜本「改革」するなら、日本列島を複数に分割すべき、と10年程前から唱えてきた僕の言説とも似通ってます。

 氏は語ります。「統治単位が大き過ぎると無責任主義が蔓延する。それよりも、幾つかの国が競争し合い、成果を競い合う方が良い」。「国が大き過ぎると、人々の活動実態や要望が把握出来なくなる。国の規模が小さければ、これらを適切に政治過程に反映させる事が出来る」。「実際、世界を眺めてみると、人口が1億人を超える国の多くは中央集権的統治体制は採らず、連邦制を採っている。例外は、工業国の中では、中国と日本くらい」。

 素より、面積も人口も程良い国家が存在した欧州では、冷戦構造の崩壊と共に更に、小規模な国家が増加しています。人口29万人のアイスランド、46万人のルクセンブルクを始めとして、399万人のアイルランド、441万人のクロアチア、455万人のノルウェー、521万人のフィンランド、540万人のスロバキア、716万人のスイス、888万人のスウェーデン、983万人のハンガリー。

 故に総務省主導の市町村合併は、役人・議員天国を齎す平成の大悪行なのです。大宮、浦和、与野、岩槻の4市合併で誕生したさいたま市は、職員と議員の給与を4市の中で最も高額だった市に合わせ、職員数も更に増やし、他方で訪問介護と乳幼児医療は4市の中で最も発展途上の市に合わせました。

 NTTドコモは全国9ブロックで構成されています。国家としての日本も「壮大なる実験」を行うべき、と僕は予てから講演の際に述べてきました。

 単なる9分割ではありません。例えばイギリス、フランス、イタリア、スペイン、韓国、スウェーデン、フィンランドといった具合に使用言語も変え、それぞれの国のカリキュラムで授業を行い、メディアも使用言語のみならず、海外から教授陣を招いた明治初期の大学同様にスタッフも一新して「壮大なる実験」を10年間に亘って実施すれば、阿呆アホな議会制民主主義もジャーナリズムも、多少ならず異なる心智の議論や報道が為され始め、結果、ゆかりや太蔵に付和雷同する老若男女も、少しは減少するかも知れません。

 嬉々としてアメリカの植民地化を邁進する現在の日本の弱肉強食的「改革」よりは数十倍、意味ある人道的「実験」です。