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「負け組も勝ち組になるかも」
だと!?

 
田中康夫

掲載日2006.2.9


「消費税を上げるかどうかは、これからの総裁候補の大きな課題だ」。

21日の参議院予算委員会に於ける宰相・小泉純一郎の発言には、思わず嗤いました。

問題解決型を標榜していた内閣の、問題先送りの正体見たり、な発言と言えましょう。即ち、民間企業に於いて、「自分の任期を超えての中長期計画策定は、これからの社長候補の大きな課題だ」、と株主総会で答えるのと同じです。総会屋ならずとも、否、真っ当な株主ならば猶の事、無責任な経営者だと解任動議を出すでしょう。

 他方で同日、「(靖国神社に)参拝するのがいけないと言う。それに同調する日本人も大勢いる。これが私には理解できない」と相も変わらず居直っています。

詰まりは、自分の考えと違う国民は馬鹿だ、と天に唾している訳で、流石は「国民は馬鹿ですよ」と断言した堀江貴文容疑者に握手を求めた人物だけの事はあります。

 僕が一目を置くジャーナリスト・阿部重夫氏は自身のウェッブで、長きに亘っての僕の畏友でもある吉田望氏の秀逸なる論考を紹介し、以下の如く看破しています。

「『戦時に天皇のために命を捧げた戦死者』を靖国神社(旧招魂社)に祀るという条件がついていて、維新の元勲であってもこの条件を満たさない西郷隆盛や大久保利通は『英霊』から外され、戦死者でない乃木将軍や東郷元帥も靖国に祀られていない。なのに、戦死でなく刑死者(または病死者)であるA級戦犯を『昭和殉難者』として合祀したのは、東京裁判否定の軍人グループが牛耳った厚生省引揚援護局と靖国神社の『拡大解釈』によってその範囲を広げてきた結果である」。

「『現天皇が天皇制本来の伝統にてらし過ちを犯したと判断されるべきときには、死をもって諫言すべきだ』という思想を持つ平泉澄東大教授に心酔する松平永芳宮司のもとで、昭和天皇の意思(徳川義寛侍従長による『憂慮』の表明)をも無視して強行された合祀は、戦後に起きた第二の『統帥権干犯』である」。

「合祀後、昭和天皇も今上陛下も靖国に参拝しないのは、靖国が逆説的に天皇制のタブーに抵触する存在だからであり、首相はじめ政治家を参拝させるのはその根本的矛盾を糊塗している」。

 が、斯くなる卓見を凡そ理解し得ぬであろう宰相は、「勝ち組、負け組は二者択一ではない。負け組も勝ち組になるかも知れない」と衒学的発言で煙に巻いています。

その太鼓持ちを任ずる中川秀直政調会長も、「今後20年を経ずして国民所得が倍増する」と6日の衆議院予算委員会で“絵も描けぬ餅”を披露しました。昭和30年代に「所得倍増計画」を掲げて「貧乏人は麦を食え」と言い放った宰相・池田勇人氏も真っ青な先祖返りです。

「改革」の名の下に道路関係4公団を民営化したものの、ETCを装着せぬ限りは通行料金も下がらず、更にはあろう事か、9342キロメートルに及ぶ高速道路整備計画をほぼ全線に亘って建設に着手、と7日開催の国幹会議(国土開発幹線自動車道建設会議)で決定し、形骸化一直線の小泉純一郎内閣は果たして、改革続行し得るのでしょうかねぇ?