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膨らむばかりの
ダム、隧道、橋梁の謎



  田中康夫

掲載日2006年5月25日



 

 ダム、隧道、橋梁。何時の間にか、巨額の補正予算が組まれて当初計画の数倍、否、数十倍もの金額に膨れ上がる公共事業の御三家です。

例えば、岐阜県の揖斐川上流に建設中の徳山ダムは事業費3550億円。今から59年も前の昭和32年に計画された徳山ダムの主たる目的が上水道向けの利水である事は、事業主体が独立行政法人・水資源機構である事からも「明らか」です。

国、岐阜県のみならず下流域の三重県、愛知県、名古屋市も4割近くの費用負担を行っています。が、歴史上に類を見ない速度で少子社会が進行する日本で、これらの地域に於いても上水道の利用量は減少しつつあります。工業用水も、循環使用の充実に因り、同様の状況です。

にも拘らず、総貯水量66千万立米と日本最大の徳山ダムは、「自然の岩や土を盛り立てて造る」環境に優しいロックフィルダム、との惹句を掲げて、来春の完成に向けて建設の最終段階です。 

計画構想から19年後の昭和51年に示された費用積算は、330億円でした。その13年後、平成元年には2540億円に膨れ上がっています。而して3年前、事業費は前述の如く、3550億円に増額されたのです。

その理由が嗤えます。環境に配慮して、ダム湖周囲の取り付け道路を隧道化するべく、増額したのだ、と。呵々。だったら、環境に優しい究極の選択として、建設自体を見直したら宜しい。

その費用を、電線地中化を始めとする新しい公共事業に振り向けたなら、毎日、満員電車に揺られる多くの納税者も首を縦に振るでしょう。

冒頭で、ダム、隧道、橋梁は巨額の補正予算が組まれる御三家だ、と述べました。道路は、と疑問を差し挟む向きも居られましょう。実は道路は、他の3事業と比較したなら遙かに、補正予算が組まれる確率は低く、縦しんば組まれたとして、その金額は相対的に遙かに少額です。

何故って、仮に山道であったとしても、基本的に道路は平場に設けられるからです。極論すれば、手元不如意を理由に工事を途中で中断しても、そこまでの区間は供用可能です。

他方、隧道を例に取れば、一旦開始された工事を途中で中断する訳にはいきません。崩落してしまうからです。橋梁も同様です。中断したなら、部分供用は不可能です。投資効果がゼロになってしまうから、事業見直しは罷り成らん、との「正論」が大手を振って歩き始めます。加えて、予期せぬ地質の変化を理由に、巨額の補正予算を「合法的に」計上する事が可能なのです。

「明かり」と呼ばれる符丁が存在します。環境に配慮した上で、山肌を削って道路を建設する選択です。費用は隧道の場合よりも安価で済みます。補正予算が計上される確率も少ないのです。

 が、それでは旨味が少ない、と考える向きも世の中には存在するのです。而して、予期せぬ地質の変化が「真実」であるか否か、確認の仕様が無かったりするのです。これから掘削していく場所なのですから、極論すれば、請け負ったゼネコン側の自己申告を信ずるより他ない、のです。

 ダム、隧道、橋梁の謎を、今少し詳述し続けましょう。