◆二重の不幸
このところ各地のごみ処理施設で不思議なできごとが立て続けに起きている。
まず5月28日午前7時30分、千葉県流山市下花輪にある流山クリ−ンセンターの外壁が壊れた。プラントは流動床型ガス化溶融炉(69t×3基)で本年2月竣工。ごみの水分対策とスラグ落ち口の保温バーナー用に酸素発生器(PSA)を取り付けていた。
空気を吸い込み、酸素純度をあげる仕組みのPSAは予想外の騒音を出すことでも知られている。そのため建屋5階部分に広い消音室が設けられ、その結果120デシベルが60デシベル程度に落ちた。
だが騒音と並んで問題なのは装置からの排気温度が高く、かつ強い圧力を伴っていたことである。その日、消音室の温度は90度に達していた。その高温と圧力を外部に逃がすにはガラリ(鉄製のブラインド)が常に開放されている必要がある。だが消防法では火災時の延焼防止のため、温度が一定以上あがると窓が閉まる仕組みを義務づけていた。一種の二律背反である。そして現場は二重の意味で不幸だった。
もし外壁の真下がプラントの敷地内であったら「類焼」対策など必要はなかったのである。しかし流山市が用地を買収する際、建設に反対する地権者が田んぼを売らず、そのため建屋の脇に市道を設けざるを得なかった。そこで消防法が適用された。過ちの二点目は高温を検知してガラリが閉まるにはヒューズが飛ぶ仕掛けが必要だったのだが、そのヒューズが一般事業所用の70度仕様にしてあったことである。本来の150度仕様だったらガラリは閉まらず、軽量コンクリートの外壁も破壊されずに済んだのである。うっかりミスであった。
◆ピットに15日分のごみ
第二のできごとは7月9日午前0時25分に起きた静岡県沼上清掃工場の灰溶融炉爆発事故である。犠牲者が一人も出なかったのが不思議なほどであり、事故は驚くほど御粗末だった。@灰溶融炉内の耐火物に穴が開き、Aそこから真っ赤に溶けたスラグがマグマのように流れ出した、Bそれが炉を外側から冷やす冷却水の水みちに落ちて水蒸気爆発を起こした、というものである。なぜ穴が開いたか等については後日の事故報告を待たねばならないが(本稿執筆は7月半ば)、溶融という技術、特に灰溶融炉はそれだけリスクの多いプラントというべきである。ちなみにこの種の水蒸気爆発は13年前、東京の大田清掃工場第二工場でも起きている。その時は作業員2人が重軽傷を負った。
第三は埼玉県のごみが三重県の上野市まで運ばれていたというできごとである。ところは埼玉県越谷市、八潮市、三郷市、吉川市、草加市、松伏町の5市1町でつくる「東埼玉資源環境組合」の清掃工場である。搬出はすでに始まっていて、6月の組合議会で承認、現地上野市の了解も得て1日あたり80トンが産廃業者の焼却炉に運ばれたのである。
越谷市にあるその清掃工場は1995年に竣工、「ごみを使った火力発電所」が売り物で一躍全国に名を馳せた。1日あたり処理量は800トン(200トン×4基)だったが傘下自治体のことごとくが分別なしで最初からプラスチック、紙、木など高カロリーごみが盛大に運び込まれ、ペットボトルまで燃やされる有様。派手にクリンカーができ、炉は耐火物を含め、極限まで傷んでしまった。そこで1炉ずつオーバーホールしているのだが、その間もごみは途切れることがなく、通常3日から5日分が常識のピット滞留量が15日分という前代未聞の事態を招いてしまった。10のゲートのうち4つはすでに閉鎖された。これ以上ごみが入ったらピットの梁、柱、底部の基礎などに傷みが走り、建屋全体に歪みが生ずると現場は悲鳴をあげている。もはや非常事態宣言ものだが各自治体にはサッパリ危機感がなく、金さえ払えばいいだろうとばかり、暫定予算で6億6000万円を計上して涼しい顔である。トンあたり5万5000円。とりあえずの処理契約ごみ量は9840万トンという。
以上三つのできごとに共通するのはいずれも緊張感のなさである。特に東埼玉の場合、写真のような現実をつきつけられてもなお現場まかせでいられる広域行政特有のもたれ合い精神は誰も責任をとらないという意味で、いまの政治状況そのものというほかはない。
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