米国がパキスタン政策を やめられない理由 大前研一 今週のニュースの視点 掲載日:2008年1月18日 |
●民主主義を標榜する国家なら、 米国はムシャラフ大統領を支持すべきではない 先月27日、パキスタンの首都イスラマバード近郊ラワルピンディで、総選挙に向けたベナジル・ブット元首相の 集会会場付近で自爆テロが発生し、ブット氏が暗殺されました。 5日、これを受けて、パキスタンのムシャラフ大統領は、米CBSテレビの報道番組のインタビューで、 ブット元首相が暗殺されたのは「(ブット氏が)車の中で立ち上がって(サンルーフから)身体を外に出したからだ」と述べ、本人の不注意が主な原因だったとの認識を示しました。 ブット元首相の暗殺後の政治的対応が悪い点も指摘したいところですが、私としてはそれ以上に「暗殺されたブット氏が立ち上がったから悪い」などという言葉を口に出せるムシャラフ大統領の良識を疑ってしまいます。 クーデターで政権を奪取したムシャラフ氏が大統領の座を今日まで維持しているのは、米国の全面的な支持によるところが非常に大きいと見ていいでしょう。 これは、全体として反米的な立場にあるパキスタンの中で、親米的な立場にあったムシャラフ大統領を米国が利用したという構図です。 私は、米国がこのような政策をとることは、民主主義を標榜する国家として間違いだと思います。 民主的な選挙で選ばれたわけでもなく、またブット元首相の身の安全も守れずに「本人が悪い」と言い放ってしまうムシャラフ大統領。 米国のパキスタン政策は、そのような男を頼りにしていて良いのか?と、声を大にして問い質したいところです。 ●なぜ、米国はパキスタン政策をやめることができないのか? 米国国内からも、なぜそこまで米国がパキスタンに介入する必要にあるのか?という疑問の声が上がっているようです。 1月14日号の雑誌「TIME」の表紙には、「Why we need to save Pakistan(なぜ、我々はパキスタンを守る必要があるのか?)」という見出しが出ています。 ここには明白な理由があります。 それは、パキスタンが核を抱えている国家だということです。 インド亜大陸では、インド・パキスタン・イランという国々が核を保有しています。 万一、これらの国に混乱が生じれば、核がテロリストなどの手に渡るという危険性があります。 しかし、記事によると、米国はすでにパキスタンの核について掌握しているはずだという専門家もいます。 万一の事態になっても核を未然に押さえることができるということですが、事実がどうかは定かではありません。 ですから、これだけを理由にパキスタン政策の見直しを図るのは早計かも知れません。 ですが、本質的な点から言えば、現在行われているような手段による米国のパキスタン政策は見直すべきだと私は思います。 民主主義を標榜する米国が国内の支持を得られていないただ一人の為政者を擁立するというのは、やはり間違いだと思うからです。 米国は、パキスタンだけでなく、アフガニスタンでも同じような構図による政策を展開しています。 今後も、引き続き同様の政策を展開していくのかどうか、米国の動向に注目していきたいと思います。 以上 |