高精度なWECPNLコンターが得られる画期的な航空機騒音再現・予測手法
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本手法は、新潟空港(新潟県)、福島空港(福島県)、花巻空港(岩手県)、庄内空港(山形県) など関連する自治体からの空港周辺騒音調査業務のなかで使っております。 |
大型機の離発着する空港、1日の離着陸便数の多い空港、運用時間の長い空港、周辺に住居系の土地利用が多い空港、比較的静穏な地域に立地する空港、病院・学校等の公共施設が空港周辺に立地する地域では、航空機騒音による被害・苦情等が多く発生する。
これらの被害・苦情等に対して行政が適切な対策を講ずるためには、空港周辺地域における航空機騒音の現状を出来るだけ正確に把握し、さらに将来の滑走路延長、便数の変更(増便)、使用機材(機種)の変更による航空機騒音の状況の変化を的確に予見しなければならない。
本手法はこれらの要請に答えるため、最新の測定技術、コンピュータ技術等を総合して開発したものである。
この手法は、空港周辺地域における航空機騒音レベルの大規模実態調査(騒音測定等の調査)の実施から、現在の航空機騒音レベルの広がりを示す現状WECPNLコンターの作成、さらには実測データに裏付けられた将来のWECPNLコンターの予測調査までを統合的に行うものである。
ここでは本手法の適用案件より、環日本海地域における日本の窓口でもある新潟空港(第二種空港)において1995年度に環境総合研究所が実施した調査事例を示す。
本調査は、滑走路の2000mから2500mへの延長に伴い、滑走路延長、増便、機種変更等による航空機騒音レベルの現状の実態、変化を把握するとともに、将来想定される騒音レベルの把握を目的として実施された。そのため2500m滑走路供用前の実態調査として1995年度に、供用後の実態調査として1997年度にそれぞれ実施した。
なお、新潟空港における航空機の離発着状況、騒音コンター等について公表されている報告書「新潟空港周辺航空機騒音調査報告書」(平成7年度、新潟県・新潟市委託、環境総合研究所実施)よりデータを参考資料として2.に示す。
まず、一般的な数値データの補間手法を、航空機騒音予測に適用する場合に生ずる問題点を以下に整理する。
一般的に、有限の複数の調査地点における実測値をもとに、任意の地点における値を推定するための手法として、いわゆる補間法が用いられる。ここで補間の意味は、間を補うことに由来している。
補間法を用いることにより、任意の地点における騒音レベルが分かれば、結果として周辺地域全体の騒音レベルが推定できることになる。
この補間法には、従来からいくつかの方法が提案されている。有名なものとしては、比例配分補間法、べき乗補間法及びスプライン補間法がある。これら補間法の手法としての特徴は、地理的に離散した複数の実測値の位置と値の相互関係から任意の地点の値を推定することにある。
式1-1は最も一般的に使われている「べき乗補間法」を示している。
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C i=Σ(Tijp・Cj)/Σ(Tijp) ........................................式1-1
ただし、
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C i :地点iの推定値
T ij :地点iと調査地点jの距離の逆数(1/Rij)
C j:調査地点jの値
p :べき乗係数
(参考) | 補間法については、松岡 譲(京都大学工学部)らの「水質観測点の適正配置に関するシステム解析」(国立環境研究所研究報告第 48号)、大西行雄(環境総合研究所)が京都大学防災研究所においてあらわした「スプライン法を用いた2次元補間について」(J.Oceanogr. Soc.Jpn 31)などに比較的詳しく手法の説明がなされている。 |
ところで、航空機騒音の推定に上記の補間法を用いる上で二つの課題がある。
一つは従来の補間法は、ある地点の値(C)はその発生源からの距離(R)に逆比例して小さくなるという原理に基づいているため、通常、大気濃度や水質濃度の場合には、pの値が1から5においてこの条件が満たされる。しかし、騒音レベルにあっては、pの値いかんにかかわらず値(C)が距離(R)に単純に逆比例するという原理が成り立たないことがある。
つまり、航空機騒音レベルの場合には、騒音レベルの値(P)と距離(SD:航空機と計測値の最短距離)との間には、対数(ロガリズム)を介した関係があることが知られており、上記のべき乗補間、比例配分補間、スプライン補間にはなじまないことが知られている。
もう一つの従来の手法を航空機騒音に適用する上での課題は、従来の補間法は、音源や煙源などの発生源が、固定発生源ないし汚染が相当広がって平均化された状態にある場合に有効であることに起因している。
すなわち、航空機騒音や自動車、鉄道などの移動発生源(線音源ないし連続点音源)では、計測数が相当規模でないと、補間結果がなめらかに平準化されず、高い計測値があった地点を中心に、いくつもの特異点(いわゆる”目玉”)ができてしまうことになり、十分な補間結果が得られないことが指摘されている。
環境庁大気保全局交通公害対策室と株式会社 環境総合研究所は、複数の地点における航空機騒音のピークレベルの実測値から空港周辺地域全体の騒音レベルの広がりを推定するための新手法を共同開発してきた。
新手法の特徴は、従来の補間法の課題、すなわち航空機の騒音レベルと受音点との距離との関係にかかわる課題及び移動音源への対応にかかわる課題を同時に解決するとともに、従来の手法では困難視されてきた実測値をもとにした将来予測を可能とすることにある。
新手法の原理は、以下のとおりである。
航空機騒音レベル(L)は、受音点(P)との最短距離(SD:スラントディスタンスという、図1−1参照)との間には、実測データの統計解析から対数(ロガリズム)を介した次の式1-2の関係があることが知られている。
L=A・log(SD/50) 2+B・log(SD/50)+C............................式1-2
ただし、
L :受音点(P)における航空機の騒音レベル(通常、ピークレベル)(dB(A))
SD :航空機の飛行経路と調査地点を結ぶ最短距離 (m)
A、B、C:最小2乗法によりもとめた回帰係数
(参考) 航空機騒音レベルとスラントディスタンス(SD)との関係についての研究は、松井昌幸(東京工業大学工学部)らの「騒音予測評価手法研究」(昭和56年3月)及びアメリカ連邦航空局(FAA)などの研究がある。
式1-2の関係は、実測データ(図1−2に示した地点において測定)を最小二乗法による回帰分析(統計分析)することによって得られるが、航空機騒音レベルとスラントディスタンスの関係式(実際には係数)は、機種毎、離着陸毎に異なるだけでなく、航空機の飛行プロファイルによっても異なる。
したがって、実測によって複数の調査地点において機種別、離着陸別、プロファイル別に、航空機騒音のピークレベル及びプロファイル測定値が相当数得られれば、これを統計解析することにより、機種別、離着陸別、プロファイル別の係数(A, B, C)が得られ、結果として任意のスラントディスタンスにおける航空機騒音レベルが推定可能となる。
図1−1 航空機騒音推定におけるスラントディスタンス(SD)
図1−2 調査地点(敬称 略)
この新手法の場合、任意の地点におけるスラントディスタンスが必要なことから、航空機のプロファイル(飛行経路=仰角、方位)を実測しデータ化することが不可欠となる。(プロファイル計測の方法とその装置については、別途、プロファイル調査の項を参照のこと。)
B メッシュ上の任意地点のピークレベル算出への基礎原理の応用
事例では南北16km、東西6kmを調査対象範囲とし、1メッシュの大きさを100m×100mとして南北方向に60、東西方向に160のメッシュを設定した。(図1−4)
この調査対象範囲内の複数の調査地点における航空機騒音レベル実測データ、プロファイル測定データなどを用いて、対象範囲内のメッシュ上の任意の地点におけるピーク騒音レベルを算出する手順を図1−3に示す。
なお、本手法では統計解析を行う上で、少なくとも10地点以上の実測地点が空港周辺に必要となる。事例ではこの原則にそって測定地点(25地点)を設定した。(測定地点の位置については参考資料の図1−2を参照)
図1−3 空港周辺の任意の地点(メッシュ上の全地点)におけるピークレベルを推定する手順
図1−4 調査対象範囲におけるメッシュ座標の設定
図1−3に示した補間計算手法により、調査対象範囲内のメッシュ上の全ての地点における航空機騒音のピーク騒音レベル値を推定することができる。
1日のすべての便についてこの手法を用いてピーク騒音レベルの補間計算を実施し、メッシュ上の地点ごとにこれらのピーク騒音レベルのパワー平均を算出することにより、WECPNLにかかわる環境庁の告示式(式1-3)を適用して、メッシュ上の全地点におけるWECPNLを計算することが出来る。(図1−5、図1−6)
環境庁告示式
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...................式1-3 |
飛行回数 |
時間帯 |
時刻 |
N 1 |
朝 |
0:00 - 7:00 |
N 2 |
昼 |
7:00 - 19:00 |
N 3 |
夕 |
19:00 - 22:00 |
N 4 |
夜 |
22:00 - 24:00 |
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↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ |
《環境庁告示式》 WECPNL xy=LAxy+10logN−27 N=N 2+3N3+10(N1+N4) 添字x, y: メッシュ上のx,y座標(1メッシュ100m)
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図1−6 メッシュ上の全地点におけるWECPNL算出の概念図
Cでは1日単位のWECPNLを算出するための考え方を示したが、現況再現を行うには、年平均レベルのWECPNLを算出する必要がある。そのためには、調査実施年次の平均的な空港使用状況(時間帯別の便数、機種別便数、滑走路使用方向など)の実績データを基に年間平均のピーク騒音レベル値を求める必要がある。
航空機騒音レベルの大きさは、航空機の飛行経路、高度、機種、離着陸の別、風向、風速、天候等の気象条件等、地形・土地利用等の地表面の条件など種々の要因によって異なる。そこで本手法では、実測調査による直接調査結果以外に、以下に示す項目を加味して推定することとした。
(ア) 年間の平均的なフライトスケジュール(機種別、発着地別、時間帯別)
(イ) 滑走路使用方向の年間実績(機種別、発着地別)
(ウ) 年間を通じた風向の出現頻度(滑走路使用方向の実績データが得られない場合)
(エ) 地理的な要因による航空機騒音レベルの影響の補正(実測値等による)
実際には、行先・機種・離着陸・滑走路利用方向毎の年間出現便数に、類型化した飛行経路(参考資料 図2−4 )の出現頻度を考慮した便数(参考資料 表2−3)を用いて、ピークレベルの実測値を出現頻度で加重(パワー)平均(式1-4)することにより、年間平均のピークレベルのパワー平均値を算出する。
L A=10×log10 (ΣWi×10LAi/10)...................................式1-4
L A :1日のすべてのピークレベルのパワー平均値
L Ai:行先・機種・離着陸・滑走路利用方向別の平均ピークレベル
W i :行先・機種・離着陸・滑走路利用方向別の出現割合
このパワー平均値と時間帯別の年間平均便数を環境庁告示式(式1-3)に適用し、年間の平均的なWECPNLを算出する。
将来予測の手法についても、現況再現の場合と同様に考えることができる。
将来年次におけるの年間平均的なフライトスケジュールは、1日あたりの便数、離着陸の時間帯別の便数、機種、場合によっては滑走路延長等も異なる。
将来における機種別・時間帯別の出現便数等を、現状の実績データに置き換え、Dと同様に将来の出現頻度を算出し、その後は現状と同様に式1-4を用いて年間平均のWECPNL値を計算する。
ただし、将来年次において滑走路の延長、新設が予定されている場合、現行機種と異なる機種が導入された場合にはこれらの条件についても、本手法ではプロファイルデータの修正、他空港における実測データを参照するなどによって考慮することが可能である。
航空機騒音の等騒音線(以下「コンター」という)は、先に算出したメッシュ単位の年平均WECPNL値(現状再現値あるいは将来予測値)をもとに、比例配分補間法を用いて75、70といったWECPNLの値をもつ座標を次々に線で結んでゆくことにより作成することができる。
本手法では全体の計算をやりなおすことなく任意のWECPNL値のコンターを作成することが出来る。
これまで、新手法の基礎原理を述べてきたが、それらを全体としてまとめたのが、図1−7である。図の上段は、実態調査によるデータの収集を、中段は現況再現レベルにおける年平均WECPNLコンターの作成の手順を、下段は増便等の将来飛行計画に対応した年平均将来WECPNLコンター作成の手順をそれぞれ示したものである。
図1−7 WECPNL年平均コンターの作成手順(太枠内は実測データ)
新手法は、実測データをもとに現状における空港周辺のWECPNLを推定する《現況再現》と、増便、滑走路延長等の将来計画に対応した《将来予測》の両方に使えることが大きな特徴となっている。手法としての特徴は主に次の5つである。
(ア) 各調査地点の実測データを現況再現と将来予測に最大限活かしていること
(イ) 年平均の運航実績・予定をより詳細に反映できること
(ウ) 増便、機種変更、滑走路延長など前提条件が変化しても将来予測が可能なこと
(エ) 一部の便が飛行経路を変更したとしても将来予測への対応が可能なこと
(オ) 客観的なデータにのみ基づいているので再現性が高いこと
以上の予測原理に基づく調査手法に対して、余剰減衰の考慮、地理的特性を考慮するため、以下に示す改良を行った。
飛行経路直下から離れた地点においては、図1−8に示したSDと騒音レベルの関係(距離減衰と大気吸収による減衰を考慮)以外に、余剰減衰を考慮する必要がある。
余剰減衰としては機体による遮蔽効果(機体自身によってエンジンが遮蔽され、騒音レベルが減衰する効果)と、地上伝搬減衰(地表面による騒音レベルの減衰効果)を考慮した。
機体遮蔽による遮蔽減衰量LEBは、観測点から機体を見上げたときの仰角βの関数として示されている。(式1-5、騒音予測評価手法研究、昭和56年3月、東京工業大学)
LEB=3(1- sinβ ) 10°<β<90°
LEB=0 β>90°
式1-5
図1−8 機体遮蔽による減衰
地表面による減衰量は観測点から航空機までの水平距離lと仰角βの関数として示されている。(式1-6、米国自動車工業会(SAE))
Λ(β, l )=G(l)×Λ(β)/13.86
式1-6 ただし G(l)=15.09[1-ε-2.74×10 −3 l ]
G(l)=13.860≦l≦914m
l>914mΛ(β)=3.96-0.066β+9.9ε-0.13β
Λ(β)=0 60°0°≦β≦60°
≦β≦90°
図1−9 地表面による減衰
以上の余剰減衰を考慮して実測値から回帰係数を算出する場合には、実測騒音レベルに、各調査地点と飛行経路の関係から算出した余剰減衰分をあらかじめ加算してから、回帰係数の算出を行う。
その後算出した回帰係数を用いて算出した騒音レベルから余剰減衰を差し引かなければならない。
以上の改良を加えた場合でも、実測値と回帰式による推計値の間には違いが生ずる。その主な要因としては以下のことが考えられる。
以上の条件の違いを個別に考慮することは困難なため、ここでは実測地点における回帰式による推計値と実測値の差の地理的な分布を考慮することとする。地理的な分布への補間手法としてはスプライン補間法等を用いることが考えられる。(この手法については開発中なので詳細はここでは示さない。)
ただし、推計値と実測値の差を単に補間する以前の段階で、回帰式による推計値が現状を再現できていることを、実測データ、回帰係数、推計データを十分に確認し、差が生ずる原因を分析してモデルの改良を行う必要がある。その後に地理的な分布等を確認しながら補間を行わなければならない。
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